秋の扉
王子が順調な回復を見せているという噂が民間に流れる頃。
秋になっていた。
風が強く、天候が不順で、時々山の方から雪が飛ばされてきた。
「なんで私、ノアルの家に厄介になんなきゃなんないわけ」
「可愛くねーな、おまえは本当にっ」
ジルロードの生家に送り届けようとしたら、その家の主人を見てジュリアノは悲鳴を上げて卒倒した。
当たり前だった。
その男は確かにジルロードの父であり、ジュリアノの祖父だったが、彼女を殺した男だったのだから。
その主人もまたジルロードにさんざん鎖で打ちのめされ、その傷がもとで歩くことすら難儀な様子になっていた。
「癇癪持ちっていうか、手加減しらねーっていうかよ」
ノアルは上目遣いに幽霊を見た。
「愛してるわ、ジュリアノ。あなただけよ」
「・・・・・・」
ジュリアノを嫁に貰った男は自動的に厄介な姑を持つことになる。
「ルヤ婆さんとの生活、楽しかったわ。でも、これからどうしよう」
ジュリアノは途方にくれていた。
ルヤはあの森に帰る気はないのだ。
ジュリアノはどこへ行きたいのかわからない。
「お母さん」
「なーに?」
「私をまた産みなおしてくれる? お母さんがこの躯に戻って、私をもう一度。まさらな記憶で、まさらな躯で生まれてこないと、私はなにも選べない」
ジルロードは悲しい顔をした。
「だって、お母さんも、まだ若いのよ」
ノアルはその提案に反対した。
それはつまり、ジュリアノが消えるということだったから。
これは色恋ではなかったが、ノアルは彼女を失うという事態を前にして酷く空虚な心になった。
だが結局。
本来の持ち主が躯を手に入れ、ジュリアノは母親の中へと消えた。
「ふーん、そうなったのか」
ルードは茶の席に呼ばれて、二人を交互に見た。
ジルロードは赤ん坊を抱いている。
ジュリアノが消えてから季節が巡ってまた秋が来た。
その赤ん坊は女の子で、顔立ちは・・・・・・。
「ノアルによく似てんじゃん」
「いいだろ、別に」
「ああいうの嫌いだって言ってたくせに」
「ああいう女は女房には欲しくないけどな」
「娘ならオッケーなんですって。そっちの方が酔狂って言えば酔狂」
ノアルはジルロードから赤ん坊を取り上げた。
「ほっておけ。ロードもな、姑にするよりは、女房にした方がまだしも楽なんだよ。妥協だ」
ノアルは子供をあやすために部屋を出ていってしまった。これ以上からかわれたくなかったのだろう。
「ジュリアノはいつも幸せになりたいと言っていた」
「しってるわ」
「今はどうだろう」
「わからない」
ジルロードは頭を弱々しく振った。
ルードは言った。
「自信を持って、あの子は幸せに決まっていると、言い切ればいい。ノアルはちょっと扱いにくいところがあるが、ジュリアノと口論できる頃にはもう少し、言葉を選べるようになるだろうさ」
「そうね」
ジルロードは柔らかく微笑む。鎖がちゃらりと音を立てた。
おしまい




