第12章 第3話 キーリアの生まれた意味
(エグい事するなぁ…)
アリスとナガレの様子を見ていたのは、テロ組織の一員になったキーリアだった。彼女はまだアナザーアースへのログイン自体、まだ何度もしていない。
(アナザーアース…現実とほとんど変わんないな)
キーリアはアナザーアースのアカウントを作ったばかりである。もちろん戦闘経験もないので、訓練は怠っていない。
(この人の事は、どうでもいい)
洗脳用の装置を取り付けられて苦しむアリスを見ても、罪悪感はない。彼女は全く知らない他人の苦しむ姿を見ても、心を痛めるという事を理解できないのだ。
ーー
「動きが遅いぞ!」
キーリアはまだ仮想現実での戦闘には慣れていないので、訓練を続けている最中だった。彼女も、少しでも役に立ちたいと思っているのだ。
その様子を、ナガレは何も言わずに静かに見ていた。彼女はキーリアの中に眠る、確かな才覚を見抜いていた。
「俺達は人員不足だが…彼女を実戦投入するのはまだ先になりそうだな」
「…ああいうタイプの成長は、どれくらい早いんだろうね」
「随分気にかけてるな。期待してるのか?」
「あの子なりに鬱憤は溜まっていたみたいだから」
激情を持つ人間の爆発力が凄まじいのは、古今東西変わらない。結局のところ、世界を動かすのは理性ではなく感情なのだ。
ーー
キーリアは何故自分がゴミを漁らなければ生きていけない環境に生まれたのか分からなかった。それでも自ら死を選ぶ事は、選択肢に無かった。
(生き続けなきゃ…)
生きて、自分が生まれた意味を見出す事がキーリアにとって唯一の目標だった。それ以外に何も無かったが、その意味を神に聞いてみたかった。
そんな状況で未来について少しだけ話したのがナガレだった。彼女が語った通り、エリア666を崩壊災害という悲劇が襲った。
彼女のおかげで、地上やこれからの世界に少しだけ興味を持つ事ができた。これからの世界で起きる出来事は、何もかもが他人事ではないのだ。
(なぜ私が生まれて苦しんでいるのか地上の連中に問いただしてやる)
怒りの感情を覚えたキーリアの新たな決意は、確かに硬かった。怒りは人を動かし、世界にも影響を与える原動力となるのだ。
ーー
「鼎サンはシティOIについてどれくらい知ってる?」
「昔作られた宇宙都市…って事しか知らない」
その頃、エリア003の桃香の家では、テーブルの上にシティOIに関する資料が広げられていた。尤も、そこまで大量の紙がある訳では無かったが。
「崩壊災害…彼らの憎悪が引き起こした悲劇かもしれないんだ」
「地上に見捨てられたから…」
桃香も鼎も、崩壊災害がただの事故ではない事に気づいていた。何者かの意思、怒り、憎悪、悪意から成り立っていると勘づいていた。
「当時の地上の人々はどんな責任から逃げたのか…」
「詳しい記録は残ってないんだよねえ…」
シティOIについては、学校の授業でも教えられる事は殆どない。複数のエリアで、意図的に伏せられている歴史となっているのだ。
「彼らとの戦いは厳しいものになると思うよ」
桃香の表情は、明らかに険しかった。




