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最終視点:君は確かにここにいた


 それまでの激しさが嘘のように、その場には静寂が戻っていた。

 砕けた記録陣の残骸と、空間に揺らめく光の粒子が、戦いの余韻を物語っている。


 イヴヤはひとり、その中心に立っていた。

 その眼差しはただまっすぐ。――ただまっすぐにあった。

 足元には、誰の影もなく──それでも、確かに何かがそこにあった形跡がある。


「イヴヤ──!」


 走り寄ってくる足音。瓦礫を飛び越え、サヴェラが駆けてくる。

 その顔には安堵の色が浮かんでいる。


「……無事だったのね」


「はい。

 今は審問官の追撃はないと思います」


 その口調は静かで、穏やかだった。

 かつてのように観測できない自分に負い目を感じることもない。

 真正面からサヴェラを見つめ返す瞳には、確かな勇気が宿っていた。


 サヴェラはその変化に、ほんの一瞬、目を細めた。

 だが、それを本人に悟らせまいとすぐに表情を戻す。


「今は……?」

「恐らくは、また来るかと……」


 イヴヤの返事にサヴェラは「ふぅ」とため息をつく。


「そう……。

 それで? あなたの観測した“彼女”は……?」


 静かにサヴェラは問うた。

 しかし、イヴヤの瞳の奥にある“喪失(そうしつ)”を察していた。

 彼女もまた、かつて誰かを失った者であったからだ。


 イヴヤはわずかに目を伏せたかと思うと、そのまま、ふと空を見上げる。

 上空を漂う光の粒子──それは消えゆく記録のかけらか、あるいは残された想いの断片か。


「彼女は……僕の中にいます。

 記録ではなく……心に、ちゃんと刻みました」


「……そう」


 サヴェラはしばし言葉を探すように沈黙し、やがて小さく頷く。

 その歩みをイヴヤに近づけ、彼の目を覗き込むようにして見た。


「……いい目になったわね。ほんと、びっくりするぐらい」


 それは、かつてユヴィアが見つめた瞳。

 ただの記録官ではない、自らを選ぶ者の眼差し。


 そして何より──

 誰かをうしなっても、なお歩もうとする者の光。


「ありがとうございます、サヴェラ指揮官」


 イヴヤは少しだけ、はにかむように微笑んだ。

 それはほんのわずかだが、確かな成長の証だった。


 ユヴィアがいた日々は短かった。

 けれどその存在が、彼の何を変え、何を遺したか──

 そのすべてをイヴヤは、これから生きながら証明していく。


「……これから期待してるわ、イヴヤ記録官」

「はい──!」


 サヴェラは静かに笑うと、視線をそっと空に向けた。

 ひとつ、光の粒が風に流れて消える。

 その軌跡に、何かを託されたような気がして。


「……あの子のこと、私も……少しだけ、視えていたのかもしれない」


 呟くように、けれど確かに、そう言った。


 言葉は少なく、それでもすべてが伝わっていた。

 サヴェラは踵を返し、その場を去る。


 コツコツという靴の音を聞いていたイヴヤは、ふと、胸が熱くなるのを感じた。

 何かに導かれるように、空に手をかざす。


 あの時、ユヴィアが差し伸べてくれた手。

 それが今も、そこに在るような気がして。


 彼女は記録としてはもう存在しない。

 けれど、彼は知っている。


 彼女の存在は、イヴヤ自身の勇気。

 記録ではなく、“心”にその存在を残して──


「──彼女は、確かにここにいた」


 


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― 新着の感想 ―
 全話読ませて頂きました。  シンプルながらも独創的な世界観で、面白かったです。  「記録」と「記憶」……どちらも本質的には同じもののはずですが、その二つの相違点を絶妙に書き切った作品だと思いました。…
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