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落第生と災厄  作者: ミツメ


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2/11

対峙する最悪

よろしくお願いします。

 王都魔法学院は大陸内でも有数の魔術教育機関であり、『クラウゼンターク』が魔術先進国として名を挙げているのにも、この学院の力は大きく影響していた。

 学院所有のダンジョンが三つ。教員には国内外から集めた高明な魔法使い達。広大な土地に最高級の設備。

 才能を発揮するのにはこれ以上ない環境が用意されているこの場所は、魔法士を志すもの達に取って夢の舞台だった。

 しかし、そんな中ライオッド・バルトはただ一人失意の中にいた。


 召喚魔法士としては致命的である召喚契約枠"三"という数字。召喚魔法を主としない攻撃魔法士、守護魔法士であっても普通なら二十を越える枠は持っている。

 これは先天的な才能であり、契約枠はどれだけ研鑽しても増えることはない。召喚魔法士としては絶望的な差となる事は周知の事実と言えた。


 特Sという才能を持ちながら、それを扱えないという悲運。明日から行われるダンジョン内での実技をどう乗り切ろうか、バルトは頭を悩ませていた。

 

 特待クラスは他のクラスに比べて授業進度が早い。ダンジョンでの実技も本来なら二年時の前期から始まる。それだけ、特待クラスの生徒は学院から強い期待を持たれており、それに答えられる者が特待生に相応しいのだろう。

 そう考えると、どうやって乗り切ろうとか考えている時点でライオッド・バルトは不適格なのだろう。

妙案が思いつくはずもなくあっという間に実技の時間になり、生徒たちは各々の召喚獣を従えながら談笑をする。何故か『共鳴契約』しか結べないバルトにとって他生徒のように授業だからという理由で適当に契約することは出来なかった。


「おい、あれ見ろよ。」

「丸腰って、ここ守護魔法のクラスだったか?」

くすくすと笑い声が広がる。特Sから準Aまでが在籍する特待クラスではバルトのように完全な出来損ないの存在は極めて異端に映っていた。

二、三年に一人いるかどうかという特Sが同年に三人出たという奇跡。その中の一人が潜在的な能力に恵まれているが、それだけで字面だけの天才。生徒たちはバルトを憐れだと笑い、同情と侮蔑を投げかけた。


「馬鹿にするんじゃないですよ、皆さま。バルト様が無事におかえりになれるよう、わたくしたちで守って差し上げなくては。」

「けはは、特Sのおもりなんてそう簡単に出来る経験じゃねぇもんなぁ。」


 当のバルトは彼らの声が薄く聞こえてくるギリギリの暗がりで佇立していた。悔しさや周知が無いわけでもない。ただもう慣れつつあるこの状況に一歩踏み出す余力など持ち合わせていなかった。


「なぜ、何も言わない?」


「オルル君、」


 特S仲間というのは憚られるが、事実だから仕方ない。アイス・オルルは他の生徒にある嘲笑の混じった表情ではなく、まっすぐな目でバルトに問いかける。

「まぁいい。バルトはオルの見える場所に居ろ。そうすれば傷を負わずに帰れる。」


「あぁ。うん。ありがとう。」


 何よりも彼の純粋な優しさが胸を苦しくさせた。


――――――――――――――――――――――――――――――

 初めてのダンジョンには事件がつきものだと、ダンジョン科のマキシマ先生は言っていた。常に想定外を想定しないと命がいくつあっても足りない。続いてそう言っていたマキシマ先生はいま、ダンジョンの岩壁に打ち付けられていた。

「おまえ、たち、にげ、ぉ、、」


 即座に補助の教員二人が臨戦態勢に入り、召喚獣を呼び出すザシ先生。防御術式を展開するパシュー先生。それぞれが事件の正体の「それ」に備える。生徒たちは突然の出来事に困惑していたが、緊急を要する事を理解して出口の方へ走り出した。


《エルダーリッチ》アンデットの最上位種。死者の魂を触媒に、魔力溜まりからごく稀に発生するイレギュラー。

 ダンジョンの構造上、階層を下がるごとに難易度は上がっていくのだが、ランダムスポーンに該当するエルダーリッチは階層関係なく発生した。

 攻撃魔法と召喚魔法を主として戦う不死者は、狡猾で怜悧だった。人数差には人数を。アンデットを召喚し、逃げ惑う的には的確に魔法を当てていく。

 一撃では殺さない。エルダーリッチは死にたくないと嘆く魂の悲鳴が大好物だった。逃げる生徒達が次々と傷を負っていく。教員の召喚獣はアンデットの質量を突破できず、パシュー先生の防御結界で防戦一方になるしかなかった。


「いけ、カルルッ!」


 一匹の狼がスケルトンの頭を蹴り飛ばしながら、エルダーリッチへ突き進む。もう少しで喉元、といったところでグールが身を挺して主人を守った。狼はそのままアンデットの波に飲み込まれたが、先ほどと同じ閃光が飛び込む。


 アイス・オルルの召喚獣だった。

 多くの者が背を見せて、地上への階段へ向かう中、立ち向かう生徒がいた。

 アイス・オルル カインザ・ケイ シヴァ

 の三名。彼らは皆、エルダーリッチを越えるべき一つの障壁として捉えていた。オルルの召喚魔法は圧巻だった。質、数、速さどれをとっても現役の魔法士となんら遜色がない内容で、二の矢、三の矢と、あの手この手でエルダーリッチを突き崩そうと仕掛ける。

 残る二人は共にA級ながら、契約難度の高い召喚獣を呼ぼうと必死になっている。この場でエルダーリッチを見つめる者は皆が皆、どうにか運命に抗おうとしている中、逃げ遅れ今更背を向けても格好の的になると理解して立ち尽くす者がいた。


「何をしているライオッド・バルト!貴様も戦おうとせんか!」

「小根までも使えん雑魚に何をいっても無駄だ!」

 A級の二人は呆然と立つバルトに呆れ、失望し、これまで通り笑う。

 あぁ、自分はどこまで惨めなのだろうか。普段なら聞き流す侮辱の言葉が剥き出しの神経を撫でるように響いてくる。

 俺は何もできないまま、そんなことを考えて座り込もうとしたバルトに


「バルト。前を見ろ。私の後ろにいれば大丈夫だ。」

 アイス・オルルはそう言って笑いかけた。次の瞬間アンデットの放った矢がオルルの肩に突き刺さる。くっ、と悲痛の声を漏らしながら召喚を止める事はなく、次々と新たな契約を敷きながら召喚獣を繰り出していく。


「っ、れって。俺だって、!!」

 バルトはどうせ死ぬのなら彼に並んで立ちたいと。そう本気で思った。才能や家柄ではない。危険を前にしても誰かに笑いかけられる優しい少年の隣で、そんな彼の横に立ってみたいと。無気力に消えていた、戦いへの灯火が燃え上がる。


 呼べる召喚獣は一体。共鳴契約が確定するその一体で盤面をひっくり返さなければならない。

 詰め込んだ知識をフル回転させる。アンデットに有利を取れて、エルダーリッチに競り負けない魔法を扱える召喚獣。

 導き出した答えは――


――――――――――――――――――――――――――――――


 召喚獣と一概に呼ばれるが、多くの種が召喚獣に該当する。狼や鳥のような小型から中型の獣種、ドラゴンやミノタウロスのような大型の獣種。ハーピー、ガーゴイル、ラミアのような知的魔獣、ゴーレム、スライムのような無生物、他にも精霊種、人の血が混ざる種、天使、悪魔なんかも召喚獣として呼び出せる。

 召喚できる種族は、その主人によって大きく作用され、召喚獣の強さは勿論、命令とは別に会話や交流ができる知能の有無も主人の力に起因する。


 簡単に言えば、大きな才能を持っていればすごく強い上位種を呼べて、契約者になれるかもしれないという話だ。

 そして、この場合、バルトは文字通りの結果をもたらす者と言えた。


[お前か?麿を呼んだのは。]

 ”それ”は場の空気を一瞬にして支配した。オルルやザシ先生の召喚したものとは比較にならない濃密な魔力。その場の全ての動きが一度停止する。

 堪えきれずに動き出したアンデットは、そうなるのが当然のように崩れて消えた。


「あぁ、そうだ。」


[麿が顕現するのはいつぶりやら。まぁいい。力が欲しいんだろ?話はなんでも早い方がいい。]


 バルトは頷いて目の前の悪魔を見つめる。


[詳しい話はまたでいい。麿は眠いんだ。]


「今戦って欲しいんだ。そうじゃなきゃ。」


[あの程度の雑兵の相手など戦うとは言わん。]


 カシャンとダンジョンに響いたのは乾いた音だった。誰もがその悪魔に目を奪われている間に、エルダーリッチは髑髏のみとなり、不死者の座から退いた。


[そうだな。明朝にまた呼べ。お前は少し面白い。]


 死を感じさせる騒音は途端に鳴り止んだ。残るは静寂。沈黙を破ったのはバルトでもオルルでもなく、回復を終えたばかりのザシ先生だった。


「今日のことは誰も話すな。いいか。エルダーリッチはなんの気まぐれか、突然姿を消した。聞かれたらそれで通せ。バルト、お前は後で来てくれ、大事な話がある。」


 ライオッド・バルトが初めて行った召喚と戦闘は、とても空虚で異質な体験として終わった。

 対してオルルは目の前で魅せられた圧倒的な光景に、魂が抜かれたように佇んでいた。


 

読んでいただきありがとうございます。


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