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98話「じっくりとタケル君に向き合いなさい」


「クーデターですわ! 敵は王宮にあり! タケル、あのノンデリ糞親父を討ち取ってしまいなさい!」

「お、落ち着いてくださいリシャリ様!」

「殿中にございますわ! 殿中でございますわ!」


 俺は久々に、怒り狂っていた。


 自分でもどうしてこんなに怒っているのか分からないくらい、猛っていた。


「お、やっぱり来たかリシャリ」

「何やってるんですか、父上ェェェ!!!」


 俺は怒りのまま、ズンズンと王宮の中を進んでいき。


 何でもない顔で仕事をしている国王の間へ、タケルを引き連れて乗り込んだ。


「何を怒っとるんだ、お前」

「そりゃ怒りますわよ! 私とタケルの縁談、何で隠してたんですか!」

「アホか、すぐ予想はついただろうに」


 顔を真っ赤にしている俺に対し、国王は涼しげな顔だ。


 こうなることが分かっていたような、意地の悪い笑みを浮かべている。


「なんだ、タケルと婚約は不満か? リシャリ」

「私は誰と婚約することになろうと、不満など持ちませんわ!」


 さすがに今日という今日は、堪忍袋の緒が切れた。


 ノンデリなのは仕方ないが、ちょっとこれは趣味が悪すぎるぞ。


「わざと情報を伏せ、私とタケルをからかったことに強い憤りを抱いております」

「気付けなかったお前が悪い」

「お父上ぇ!!」


 俺をからかうためだけに、タケルを巻き込まないでほしかった。


 人の気持ちを弄ぶ輩は、嫌いだ。


 こんな悪趣味な悪戯をされると、失望するぞ。


「こんな風に情報を隠されて、気付けるはずが!」

「気付けただろうさ」


 ましてやタケルは、恋愛に大きなトラウマがあるんだ。


 そんな男の縁談で悪戯を行うなど言語道断……。


「お前が気付けな(・・・・)いわけが(・・・・)ないよな(・・・・)、リシャリ」


 そう憤って、涼しい顔の父上に食い下がると。


 国王(ちちうえ)もまた、険しい顔で俺を見つめていた。


「お前も言っていただろ。当人の感情が第一だと」

「そ、それが何だと言うのですか」

「リシャリよ。人を見ろと常々に言うお前が、タケルを見たか?」


 何だよ、どうして俺が責められないといけない。


 悪いのはタケルとの縁談を隠し、ドッキリを仕掛けた国王だろう。


 そう考えて睨みつける俺を、国王は……。


「リシャリよ。お前、前々から思っていたのだが」

「な、なんだって言うのですか」

「向けられた恋愛感情から、意図的に目を背けているだろ」


 ピシャリ、と。


 駄々をこねる子を叱るように、そう切って捨てた。


 恋愛感情から目を背けている、この俺が?


「お前は人の心を読み解くのが上手いな、リシャリ?」

「そ、それが、何だというのです」

「だが自分に向けられた恋愛感情は気付かない。妙な話ではないか」


 向けられた恋愛感情をから、目を背けている。


 国王のその言葉に、俺は臓腑をえぐられるような不快感を感じて。


 ぞわりと怖気が走り、気分が悪くなった。


「私は決して、そのような」

「自分に向けられた好意に目を閉じる。それが、お前の弱点だ」


 国王の言っていることが、よく理解できない。確かに俺は、自身の恋愛には疎いだろう。


 だけど俺は王女だぞ。恋愛できなくたって、結婚できればそれでいいじゃないか。


 そもそも、結婚相手を選べる立場ではないのだから─────


「リシャリ、お前は恋愛による結婚を諦めていたな。王族の務めを果たすのに感情は不要だと」

「もちろんですわ。どんな相手に嫁いでも全力で尽くす所存です」

「それは正しい。王族として的確な考え方だ」


 ああ、俺は間違ってなどいない。王族は、結婚相手を選べる立場でない。


 だから俺は、恋愛などと言うものから目を背けて生きてきた。


 前世が男だったせいか、異性に恋愛感情を感じにくかった。


 だから俺は、王族としての責務を忠実に果たす、結婚装置であろうとした。


「だがリシャリ、それじゃあ人の心を紐解けない」

「父上……?」


 しかし国王は、そんな俺に対して。


 彼にして珍しく、真剣な顔で俺を叱り続けた。


「自分を慕う者の気持ちに鈍感なのは頂けない。それは、王族として不適格だ」

「へぁっ!?」


 王族として、不適格。


 その言葉は、ズーンと胸の奥底へのしかかった。


「わ、私が。王族として、不適格……」

「リシャリ、お前はこれからも恋愛感情を持たれることがあろう。しかし、目を逸らしてはいかん」


 これまで、俺は王族としての責務を果たすことに生涯を捧げてきた。


 能力は平凡であっても、心構えだけは王族として恥じない様にあろうとした。


「そんな、ことは。私は、決して」

「お前ほどの外交上手が、タケル君の気持ちに気づけぬわけはない。目を逸らしていた、違うか?」

「あ、いえ、ですが」

「お前がタケルの恋愛感情と向き合っていれば、この縁談も容易に予想できたはずだ。違うかリシャリ!」


 違う、そうじゃない、そう言い返そうとして言葉が出てこない。


 ああ、だめだ。俺は言い訳をしようとしつつも、心のどこかで納得してしまった。


 たしかに俺は意図的に、向けられた恋愛感情を避けていたと。


「リシャリ。いつかお前に、伝えたかったことだ」

「……」

「さ、タケル君に向き合いなさい。もちろん、目を逸らしながらではない」


 だって応えられないのだ、男性から好意を向けられたところで。


 俺の目には男性も女性も、恋愛対象に見れない。


 ならば恋愛感情など、放棄したほうがいい。


 俺はサリパのお姫様。命じられた相手と結婚し、血を残すことが使命。


 その使命に、恋愛感情など不要……。


「─────いつものお前らしく、じっくりとタケル君に向き合いなさい」


 しかし、それは逃げだったのかもしれない。


 タケルが俺を恋愛的に好いている可能性から、逃げていた。


 自分に向けられた感情を、意図的に遮断するのはよくない。


 それは確かに、父上の言う通り。では、いつも通りタケルと向き合うとどうなるだろう。


 社交界で培った、相手の機微を察する能力をフル活用してタケルに向き合ったらどうなるだろう。


「……リシャリ様?」

「タケル……」


 眼を逸らすな。真っすぐ、ソレと向き合え。


 俺はゆっくり振り返り、タケルに顔を向けた。



 タケルの顔が、姿か、全身が、俺の脳裏にインプットされていく。


 タケルの心配そうな視線。いつもと違う様子の俺に、興奮して大声を出す俺に、困惑しつつも心配している。


 握られた俺の手を意識しているのか、彼の視線は時折視線が手に揺れる。


 呼吸はやや粗い。運動しているわけでもないのに、鼓動も早くなっている。


 頬は紅潮し、戸惑う様に唇を嚙みしめていた。


 その瞳に映っている、感情を読み解く。



 ─────(リシャリ)が好き。もし結婚出来るなら、至上の喜び。


 ─────だけど迷惑はかけたくない。リシャリ様が少しでも嫌がるなら、国王の前で断ろう。


 ─────そもそも、僕なんかがリシャリ様と縁談など、思い上がりも甚だしい。


 ─────でも、だとしても。僕はリシャリ様が好き。


 ─────リシャリ様は僕のことをどう思っているのだろうか。


 ─────騎士の一人でしかないのか。それとも、あるいは……







「……」

「リシャリ様?」


 いやキツいって。


「だ、大丈夫ですか」

「……」


 ああそうだよ、その通り。このノンデリ糞親父の言う通りだ。


 今まで俺は、向けられた好意から目を逸らしていた。


「す、少しお暇を頂きますわ」

「大丈夫ですか、リシャリ様?」

「ええ、ええ。大丈夫なはずですの」


 だけど、これは心の自己防衛だ。


 常時、この感情をぶつけられたらストレスで頭が痛くなる。


「タケル君の気持ちに気付いていれば、こうならなかったな」

国王(ちちうえ)ぇ」

「リシャリ。その縁談、受けるかどうかお前が決めろ」


 タケルが俺を好きなのは、痛いほど伝わってきた。


 でも、だからこそ……、耐えきれない。


「タケル君と婚約は、国益にかなう縁談である」

「あああぁぁぁ」

「メウリーンが来るまでゆっくり悩め、リシャリ」


 結局、俺は国王に何も言い返す事が出来ず。


 その場で真っ白になって、突っ伏して動けなくなった。


「さて、タケル君。愚娘が迷惑をかけて、すまないな」

「え、いえ、そんなことは決して」

「そのアホ娘は、自室に放り込んでおきなさい」


 真っ白な灰になった俺を差し置いて、国王はタケルと快活に言葉を交わし始めた。


 メンタルブレイクした(おれ)を気遣う様子などない。


「君には期待しているよ、タケル。リシャリを制御することも含めてね」

「国王様?」

「少し耳を貸しなさい。……ボソボソ」


 国王はタケルに近づいて、耳元でぼそぼそと言葉を告げる。


 そして少しの間、タケルと国王は言葉を交わした。何を言ってるかは聞こえなかった。


 その後、国王は意地の悪い笑顔で俺を退室させた。


 


「すみません。僕のことで、その、ご迷惑を」

「い、いえ……」


 そのまま俺は、タケルにお姫様だっこをされる形で運ばれて。


 真っ赤な顔のタケルに、部屋のベッドで寝かされた。


「いつかブチ殺してやりますわ、あのノンデリクソ国王……」

「お気を確かに、リシャリ様」


 俺が恋愛から目を背けていた話は、確かに納得のできる。


 だけどこんなやり方で、突き付けなくても良いじゃないか。


「部屋を出る前。国王様は、僕にこう仰いました」

「タケル?」

「リシャリ様は十五歳だというのに、王族として完成され過ぎている」


 国王の積年のノンデリを思い出し、フツフツと怒りを煮詰めていると。


 タケルは俺を気遣うような顔で、そう言葉を続けた。


「きっとどんな婚約相手でも、二つ返事で了承し尽くす」

「……」

「だからこそ国王様は、リシャリ様の気持ちを測りかねているようで」


 タケルは、顔が真っ赤ながらも。


 俺を見つめたまま、言葉を続けた。


「娘には国益に沿う中で、幸せになってほしい」

「……」

「それがサリパという国家のために生涯をささげた男の、ささやかな願い(わがまま)


 それは、家族思いの冷徹な王の本音。


 最大限『国益に尽くす』のではなく、国益に沿う中で最大限の『幸せ』を求める道。




『タケル君、君はリシャリ姫を娶る資格を得た』

『国王様……』

『君の気持ちは伝わっている。君の人柄ならば、信じることもできる』


 国王はそう言うと、平民のタケルに頭を下げた。


『リシャリは、自分の幸福を蔑ろにする節がある。それが、リシャリに不満な点だ』

『は、はい』

『誰よりもリシャリが好きだという自信があるなら、幸せにできると誓うなら、君の口から思いを告げなさい』


 その国王の態度と言葉に、タケルは大層驚いたが……。


 タケルはその返答に、一切迷わなかった。


『分かりました。では、そのように』

『うむ』


 国王はタケルの返答を聞いて、にまりと笑ったそうだ。



「僕は、自分が世界一の男だなど己惚れるつもりはありません」


 繰り返しになるが、この縁談は『命令』ではない。


 受けるかどうか、俺が自分の意思で判断していい。


「だけど、リシャリ様にとって世界一のパートナーであってみせます」


 だからこそ、困るのだ。


 この縁談、命令であってくれた方がどれだけ良かったか。


「どうか僕と、婚約してください」


 まっすぐすぎる、タケルの告白。


 聞いているだけでこっ恥ずかしくなってきてしまう。


「……」


 この男は真剣だ。そして、何度も俺を救ってくれた恩人だ。


 そしてタケルは、悪い奴じゃない。そんなことは、良く知っている。


 ─────だからこそ、俺も真摯に向き合わねばならない。


「えーっと、情けない返事かもしれませんけど」

「は、はい」


 俺はタケルの告白を聞いて、改めて自分の心に問いかけた。


 タケルという男のことを、どう思っているのかと。


「ちょっとお返事に時間をくださいませ」

「はあ」


 仮に、少しでも。


 ひとかけらでも俺がタケルに『恋愛感情』を持てていたら、即答が出来たと思う。


「私に考える時間、悩む時間をいただけませんか」


 だけど、とても残酷な話になるが。


 本当に残念なことに、自分の心の隅々まで探してみたのだが。


「わ、わかりました」

「絶対に結論は出しますので!」


 ─────だめだった。


 俺は、タケルに恋愛感情を持っていない。


「はい、いつまでもお待ちいたします」


 それはまるで、幼児に告白された時のような。


 気恥ずかしいけど、本気にはできないような。


「ありがとうございますわ、タケル」

「いえ」


 ああ。心情的には、タケルの思いに付き合ってやりたいのに。


 この縁談が命令であれば、二つ返事で受けたのに。


「心が決まれば、改めて連絡いたします」

「わ、分かりました」

「……真摯に、答えを見つけます。なので少しだけ、お待ちください」


 俺はタケルという人間に好意は抱いていても、恋愛感情は持ち合わせていない。


 この状況で、この縁談を受けるべきか否か。


 その答えを、俺はタケルの真っ赤な顔を前に、いつまでも出せずにいた。



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― 新着の感想 ―
中身男だと開示できればねえ…
それはそれ、これはこれだ、迷惑系ノンデリクソ国王め
おいしい TSのトロ部分
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