表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/68

64話「婿探しに苦労しそうだな」


 とくに何も祭っていない、南の神殿での宣誓が終わった後。


「これにて、軍事協定は成った」

「では、誓の血判を」


 俺とヤイバン王は、今日の会談で決まったことを二枚の書面に残し。


 お互いに血判を押して、それぞれ持ち帰ることとなった。


 こうしてサリパ・ヤイバンの同盟は、口約束から正式なものになった。


「我らヤイバンは、これから貴国を盟友と扱うことを誓おう。貴国が裏切らぬ限り、な」

「我らサリパも、ヤイバンに偽りなき友好を誓いますわ。今後も、両国の発展があらんことを」


 無事に同盟を締結出来て、一安心である。


 ヤイバン王にその気がないのは分かっていたが、臣下からは殺意が向けられていたので怖かったのだ。


「にしても、信じがたい光景であるな」


 誓いを終えて、ヤイバン王宮に帰る道すがら。


 ヤイバン王はふと、思い出したようにそう呟いた。


「ヤイバン王?」

「あのパウリックとレヴィグダードが、共に歩む日が来るとは思わなんだ」


 ヤイバン王は、パウリックとレヴィグダードを見てそう笑った。


 確かに、この二人が戦場以外で会うことなどなかっただろう。


「リシャリ姫、今夜の食事にパウリック殿も同卓してもらえないか」

「パウリックもですか」

「ああ、レヴィグダードと対談させてみたいのだ」


 レヴィグダードとパウリックのライバル関係は、国外にも有名だ。


 その二人がどんな話をするのか、気になるのだろう。


「ええ、構いませんわ。ですよね、パウリック」

「リシャリ様がおっしゃるのであれば」


 パウリックの方を見てみるが、嫌がる様子はない。


 レヴィグダードは仏頂面だが、拒否するそぶりは見せなかった。


「では今日は宿敵同士で、過去の戦を振り返ってもらおう」

「おおお」


 こうして、歴史に名を残す二人の男の対談が実現した。


 かつては戦場で剣を向け、殺し合った二人。今、彼らは何を思うのか。


「凄いことになったぞ……」

「伝説の騎士同士が、ついに」


 この対談にヤイバン軍の重臣たちは、興奮した顔をしていた。


 かくいう俺も、本音を言うと少しワクワクしている。


 パウリックは今、長年の宿敵を相手に何を思っているのか。


「協定の話は退屈だったけど、我慢して良かった」

「あの姫様はどうでもいいが、この対談は見逃せない」

「へへ……、楽しみ過ぎて動悸がしてきたぜ」


 なお、俺が頑張って結んだ軍事協定が前座扱いされていた。


 まぁ確かに、面白くない話だったと思うけどさぁ。






「何であんなオッサンを連れてきたんだい、リシャリ姫殿下」


 ヤイバンの宴席は、立食パーティであった。


 テーブルの上に豪勢なヤイバン料理が並べられ、ビュッフェ形式でとっていく形だった。


「おやレヴィさん、お久しぶりですわ」

「ええ、お久しぶりです。で、タケルはどこなんです!?」


 俺は頬を緩めて、豪華絢爛なヤイバン料理を楽しんでいたら、


 水色のドレスを着た貴族令嬢が、ヌっと目の前に割り込んできた。


「タケルはどうしたの、タケル。殿下の護衛はタケルだろう!」

「あー」


 タケル大好きっ娘のレヴィだ。


 俺がパウリックを護衛にしたことが、ご不満らしい。


「リシャリ殿下が来るというから、タケルも来ると思ってたのに」

「それは申し訳ありませんでしたわ」


 レヴィは戦場の時と違って、可愛らしいローブ風のドレスを着ていた。


 水色を基調とした、フリルとリボンのあしらわれた可愛い服だった。


 おそらく、社交パーティ用の服なのだろう。


「まさかリシャリ殿下、タケルをボクに取られないために……?」

「邪推ですわ、私は他人の恋路を邪魔するほど野暮ではありませんわ」


 実際、邪推である。タケルが来なかったのは、軍の編成上の都合だ。


 そう告げると、レヴィは不満げに唇を尖らせた。


「パウリックを連れてきたせいで、おじさんたちが盛り上がっちゃったじゃないか」

「えー、良いではないですか」

「良くないよ、父様をチヤホヤしたらまた調子に乗っちゃう」


 レヴィは自らの父、レヴィグダードを見ながらそう呟いた。


 真面目そうな性格に見えるけど、意外に調子乗りなのか?


「あの人、酔っぱらうといつも武勇伝を語りだすんだ」

「まぁそれは、武人ならしょうがないのでは?」

「パウリックとの対決の話なんか、もう耳にタコができるほど聞いたよ」


 だが身内の語る武勇伝が面倒くさい、という気持ちはわかる。


 国王(ちちうえ)の『俺は昔モテたんだぞ』という謎自慢と一緒だ。


 はぁそうですか、割とどうでもいいというのが娘の本音である。


「でも、パウリックを交えての対談は面白そうじゃないですか?」

「しょうもない言い合いになって、恥をかかないといいけど。父様、心が狭いんだ」

「そうなのですか」


 レヴィさんは、このイベントはあまり楽しくないらしい。


 俺は愛想笑いで笑みを浮かべ、彼女の愚痴に適当に相槌を打った。


「あ、パウリックが壇上に呼ばれましたね。いよいよ始まりますわ」

「くだらないショーだよ」

「では、行ってまいりますわ。失礼遊ばせ」


 俺は護衛の関係上、パウリックから離れられない。


 彼と一緒に壇上に登り、聞き役に徹することになっていた。


「ごめんなさいね、パウリック。大仰なことになってしまって」

「いえ。私もあの男と、話をしてみたかったですゆえ」


 急遽、宴席の主役になってしまったパウリック。だが、緊張している素振りはない。


 俺は彼の手を引き、ヤイバンの重臣たちが見守る壇上へとエスコートした。






 そして始まる、対談の時。


 二人の伝説の騎士が語った、そのトークの内容は────






(レヴィ)がやばくて自信を失った」

弟子(タケル)の強さがおかしいのである」


 予想外の方向に飛んでいった。


「あの、パウリック? レヴィグダード様?」

「この年になって、井の中の蛙を突きつけられるのはキツいものがある」

「悔しい、悔しいが才能の差はいかんともしがたい!」


 対談の最初は、二人の簡単な自己紹介から始まった。


 ヤイバン王が司会、俺が聞き手という布陣でお互いの戦歴を紹介して。


「タケルは強い。理解が追い付かぬほどに!」

「パウリック、我が好敵手。お前も苦労していたか……っ!」

「いかにも!!」


 いよいよ「お互い、今はどちらが強いか」という話題を振ってみたら……。


「今はもう(レヴィ)のが強い」

「恥ずかしながら、タケルのほうが上であろう」


 と、悔しながらに次世代の名前を上げたのである。


 そこから、二人の語気は徐々にヒートアップしていった。


「今はまだ未熟ゆえ、隙を突くことはできるが」

「数年もしたら、手が付けなくなるだろう」


 タケルやレヴィが規格外すぎて、彼らの自尊心は粉々のようだった。


 俺が口を挟めない勢いで、二人は悔しそうに愚痴り続けた。


「悔しいのだ! タケルに手も足も出ない、自分のふがいなさが!」

「レヴィは龍神と一日中戦って無傷だった! どうかしている!」


 実はレヴィも、かつて龍神グルデバッハに挑んでいたらしい。


 十歳だった彼女はこっそり(悪戯目的で)、ただ一人で龍神の寝床に向かっていった。


 そして一日ほど戦い通したが、互いに硬すぎて決定打がなく引き分け。


 夜になるとレヴィは眠くなったようで、戦闘中の龍神の背に乗って爆睡したという。


 レヴィグダードは戦々恐々としながら、グゥグゥ眠る娘を回収したそうだ。


「「人間じゃないだろう!!」」


 ヤイバン産の酒が進み、二人の愚痴はエスカレートしていく。


 パウリックは普段、厳しくタケルを指導しているよう見えたが……。


 内心では、そんな思いを抱えていたのか。


「レヴィグダードよ、我が友よ。私の一撃で山が吹き飛び、大地が割けたことはあったか?」

「パウリックよ、我が友よ。そのような一撃を、無傷で受けきれると思うか?」


 オッサン騎士は二人、盃を交わして嗚咽をこぼす。


 あの二人が規格外なのはその通りなので、何もフォローできん。


「ところでパウリック、タケルという男の弱点についてだが」

「……気づいていたか」

「ああ。攻撃を放つ前、わずかに隙ができるな?」


 とはいえ、レヴィグダードもさすがに百戦錬磨のようで。


 パウリックが指摘していたタケルの弱点にも、気が付いていた。


「あの精神性も大きな弱点だろう。パウリック、貴様どんな教育をしていた?」

「タケルは仕官して数か月しかたっていない。今から鍛えるさ」

「げ、それは聞きたくなかった。そうか、あの強さでまだ新人か……」


 つまり、レヴィグダードがなりふり構わなければタケルを殺せるってことだ。


 ……タケルに早く弱点を克服するよう、手紙を送っておこう。


「ちなみにレヴィグダードよ、貴様の娘レヴィに弱点はないのか」

「貴様も気付いているだろう。水魔法使いの宿命だが、火力に乏しい」

「それ以外の弱点だ。タケルの弱みだけ公開するなど、不公平だろう」

「うーむ、そういわれてもな」


 そのままパウリックは、さりげなくレヴィの弱点を探ろうとした。


 酔っているふりをして、意外にしたたかというべきか。


 だがレヴィグダードもさるもので、


「レヴィは字が汚なくてな。手紙を書かせたら、誰も読めない」

「そういう弱点ではない、と言っているだろう」

「あと面倒くさがりなのも弱点か。水も浴びず下着も変えず、数日は平気で過ごしおる」

「はぁ。婿探しに苦労しそうだな」


 最終兵器たるレヴィの弱点を、簡単に漏らしたりはしなかった。


 オッサンはお互いに睨み、くっくっとくぐもった笑い声をあげる。


「まぁなんだ。他に娘の弱点に気づいたら、教えてくれパウリック」

「ああ、機会があれば」


 レヴィグダードの飄々とした受け答えに、パウリックは苦笑いだ。


 そして二人は、その場で握手を交わし────




「……父様? 何で言わなくていいこと言うのカナ?」

「ぐぇぇぇぇぇ……」


 公衆の面前で、醜聞を垂れ流されたレヴィは激怒して。


 光のない目で父親の胸ぐらを掴み上げ、首を締めた。




※レヴィは水魔法で、服を着たまま身体や衣類を洗浄できます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
できるかどうかと、してるかどうかは別の話
水を浴びない水魔法で、どうやって洗浄するのか・・・
>※レヴィは水魔法で、服を着たまま身体や衣類を洗浄できます。 彼女の名誉は守られた……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ