第四十四話 もう部外者じゃない
昭和のいつか。どこかにある街。季節は冬。
前回のあらすじ。謎の空間に送られた僕はそこで河野、ヒロア君、フゥジィさん(空間の主)に出会った。無事に僕たちは地球に帰ってこれた。
「じゃ行きますね」
王戸さんが二、三歩と足を運んだ途端、僕たちは黒瀬君たちの家の前だった。
「瞬間移動、すごいですね」
これは慣れることはないかな。
「私たちイタチは“道切り”という術を使いますので」
少し照れたように微笑みながら、王戸さんは教えてくれたけど、どうも狐である山田さんの術とは違うみたいだ。
「霧丘君、早く入ろう」
「う、うん」
河野に手を引かれ中へ入ると、そこには黒瀬君と瑛子さんが笑顔で迎えてくれた。
「二人とも無事だったんだな」
「霧丘君、緊急とはいえごめんなさい」
大きな座卓、出されたお茶を飲んで一息ついた僕の前に、黒瀬君と瑛子さん。
河野は王戸さんと一緒に、彼女の母親とも言える柚木さんの所へ、王戸さんと一緒に行くことになり、
「霧丘君、また後でね!」
と小さく手を振ってくるので、恥ずかしいけど僕も振り返す。王戸さん、ニヤニヤするのやめてほしいです。
それからあの不思議空間での出来事は僕が二人に説明することになった。
「あのヒロアに取り憑いていた高位存在が……。何の思惑だろうな」
僕の話がフゥジィさんに送り返してもらったくだりになると黒瀬君は難しい顔して何やら考え込む。
「まつろわぬ神のことは私にもわからないかな、お兄ちゃん」
神様でもある瑛子さんにも理解できないらしい。
それもそうか。
突然迷い込んできた河野と僕。
フゥジィさんにとっては体内に侵入した異物、言うなれば細菌みたいなもの?
そんな僕らに情けをかける動機は何だろう……。
「それより、家に母さんがいなかったんだけど……」
「霧丘君、それは心配ないよ。君のお母さんは避難所にいる」
黒瀬くんの答えに内心ホッとする。
「今回の大規模災害で政府が非常事態宣言を発令して、国全体が動いているんだ」
「非常事態宣言……」
「奴らの大規模な攻撃に対して、日本だけじゃなく世界中の国が対応しているんだよ」
「そ、そうですか……」
馴染みのない“非常事態宣言”という言葉で、もう日常は変わってしまったんだと思い知らされる。
「さて霧丘君」
急に改まって黒瀬君が僕に向き直る。
「は、はい」
その気迫に押される僕。
「あの異界で君に話したこと、覚えてるかな?」
───!
思い出す。
あの日、あの異界で。
────────────
『俺もそうだったんだよ。でも霧丘君、君は俺達がしていることに関わってはいけないんだ』
『それはどういう……』
『河野とクラスメイトとして仲良くするのはもちろんいいよ。でも河野に見学を頼んだって?』
『あ、うん。知った以上は知らんふりするのは気が咎めるっていうか……』
すっと真剣な顔になる黒瀬君。
『霧丘君がそう考える気持ちもわかるよ。でも危険なんだ。こうやって異界に飛ばされたり、ね?』
『……』
『君は普通の人間。河野がそばにいても守りきれないことは必ず起きる』
黒瀬君に見つめられ、僕は俯いてしまう。
『だから君には、まっとうな高校生活を送ってほしいんだ』
『……』
『俺はもう後戻りできないから、なおさらそう思う』
『……考えてみます』
───────────
「霧丘君の考えを聞かせてほしい」
じっと僕の目を見つめたままの黒瀬君。
「あ、あの時、僕は納得したんだ。何もできない僕は関わっちゃいけないって……」
瑛子さんも優しげな表現のまま、僕の語りをじっと聞いてくれている。
「でも、おれから色々あって……僕は部外者でいることが辛くなってきて。そ、それに河野は単なるクラスメイトじゃなくなって、お隣さんにもなったし、その……ここまで事情も知ってしまったのに、僕だけ無関係なのは」
腹を決める。
「僕には我慢できない。確かに何の力もないけど、けど! 何かしたいんだ。河野や黒瀬君たちの手伝いというか、そりゃあ足手まといになるのは目に見えているけど、僕らが住む街、いや日本がこんなことになっていて、その事情も知っているのに……他の人と同じように避難生活をするなんて出来そうにない!」
座卓に手をついて頭を下げる。
「お願いです! 僕にも何か手伝わせてください! もちろん危険は承知です。たとえ危ない目にあっても、僕は河野のそばにいたいんです!」
「頭を上げてくれよ、霧丘君」
黒瀬君の優しい声音。
「君の意志を確認したかったんだ。あの時は霧丘君にああ言うしかなかったけど、今はそうも言っていられない」
「えっ! じゃあ……」
「巻き込む形になってしまったけど、君にも河野のサポートをお願いしたい」
「私からもお願い」
瑛子さんも頷いてくれた。
「柚木の話によると、河野は君が絡むと、その、かなり力を発揮するらしいんだ。ほら、あの異界の港で巨大化しただろう?」
「え……あ!」
遠くからだけどはっきりと見えた巨人になった河野。裸だった。
「巨大化能力は潜在的には備えていたんだけど、俺も見たのはあの時が初めてなんだよ。柚木が言うには君がいたから張り切ったらしい、河野がね」
「そ、そうなんだ」
「好きな男子の前で良いところ見せようとしたのね」
柔らかな笑顔を浮かべた瑛子さん。
「それを利用ってわけではない。君と離れ離れでいるよりは、一緒にいた方がお互い安心だろうし。それに君はもう奴らに目をつけられている。なら俺たちの近くにいた方が安全なんだ」
そうだった。
思い出す。
黒薔薇は河野と僕を間違えて攫った。
『反応は確かにある。感知精度に間違いはないはずだが……。おい』
僕はビクッとする。
『我々の同胞を消して回っているのはお前だろう?』
『え、な、何?』
『とぼけるのか? お前たちは複数の種族の寄り合いだろう』
そうだ!白薔薇も
『どうして君と河野さん、同じように感知できるのかな』
と言っていた。つまり僕と河野を同じように感知するって。
「うん、心当たりあるよ」
黒瀬君は僕の手を両手で包み込むように握って宣言した。
「霧丘君、俺たちの仲間として君を歓迎しよう」
「私も」
瑛子さんも同じようにする。
「俺たちは国に委託された組織なんだ。いずれ政府の人にも会ってもらう」
「え?」
「それとご両親にはちゃんと話を通しておかないとね」
「あ、う、うん」
「でもそれは明日からでいい。君も疲れたろう? ここでゆっくり休んでいくといい。瑛子、風呂頼む」
「え? 風呂?」




