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「は──!?」
急に態度の変わったアレスの姿に、私はジト目になる。
──何だ、コイツ。
「此処へ来たは良いものの、何して良いか分からなくて、お金もなくなってついー。何やら悪そうな人から、暗殺依頼を受けて、それで稼いでたんですー」
「……さっきの死体は金目の物は持っていたはずだけど?」
今アレスは間違いなく、何かを企んでいるのだろう。
私は彼の見え透いた嘘に、咄嗟にそう反論する。
「死んだ者から金品なんて剥ぎ取れませんよー。確かに殺しはしましたたけど……稼ぎはあくまで武士達の暗殺ですー。関係ない町人も四人ほど殺しちゃいましたけど、それについては心から反省してるんですよー」
──嘘臭いにも程があるだろう。
今までとの、あまりの態度の落差に、その反省がただ組長達を騙すための演技でしかないことくらいは良く分かる。のだが──私に見せる顔と彼らに見せる顔をここまで、演技とはいえ変えることができるのは立派なものだと頭の隅で感心しかけた。
「おい、どうする左之助……」
こちらの、反省面の彼しか見ていない藤堂さんは困ったように原田さんを見上げる。
「どう、ってなあ……」
そして、話を振られた原田さんも困り顔で──。
「あなた方はアキリアのお仲間さんですかー? 是非とも償いをさせて頂きたいので、僕もあなた方の組織に迎え入れてもらえないでしょうかー?」
「え──」
アレスの口から飛び出した、予想だにしなかった提案に、私の喉から蟇の潰れたような声が上がる。
「僕、アキリアと同じローマ出身のアレスと言いますー。アキリアと同じ身分でしたしー、アキリアが役に立つなら、絶対僕も皆様のお役に立てることがあると思うのですがー」
ぐいぐいと自らを売り込むアレスに、即、私は異議を申し立てた。
「ちょっと、待ちなさいよ! そもそもあなた、さっき私をおびき出すためにあの町人殺したって──」「──あのぉ、言い掛かりはやめてくださいよー」
こちらにだけ嫌味な笑みを向けてくるアレス。
──コイツ、間違いない。人のことを馬鹿にしてる……!!
胸の内に湧き上がる怒りに、拳を震わせる私には気付くことなく、藤堂さんと原田さんは顔を見合わせたまま、唸っていた。
「安芸がもう一人……」
「戦力としては充分って感じやなあ……。とりあえず近藤さんに会わせるか」
そんな原田さんの声に、アレスは「ありがとうございますー」と嬉々とした様子で。
「えっ!? いやいや、やめときましょ──」「──よし、屯所へ戻るぞ」
手を伸ばした状態で固まった私に、藤堂さんと原田さんはくるりと背を向けて歩き出す。
その背が立ち止まることはないと理解した私は、険を全面に押し出しながらアレスを睨みつける。
「アレス……、一体どういうつもりよ……?」
立ち去る二人の背を眺めていたアレスは湛えていた喜色を引っ込め、小馬鹿にしたような表情でこちらを振り返り──、
「どう、って決まってるじゃん? アンタを殺した後、その新撰組とやらも出方次第では崩壊させてやろうかなって」
と、堂々ととんでもない爆弾発言をかましてくれた。
「は──!?」
どうやら彼は私だけでなく、新撰組に潜り込んで、内部から新撰組をも潰す魂胆のようで。
あまりにも突拍子もないその野望に、私は目を白黒させた。
「新撰組でアンタの立場を奪って、散々苦渋を飲ませた後に、アンタは殺す。んでもって、その新撰組が僕にとって都合の良い組織なら乗っ取るし、都合の悪い組織なら、ぶっ潰す。簡単な話さ──」
「何でそんなこと……」
頭が混乱する。
一体、彼は新撰組になんの恨みがあるというのか。
私の非難めいた視線を受け、アレスは鬱蒼と嗤った。
「アンタを苦しめるため。それ以外に理由なんてないさ。……せっかくローマから追って来たんだ。ただ殺すだけじゃ飽き足らない。じわじわと追い詰めてから殺してやるよ」
と、その時、離れた場所から原田さんの声が上がる。
「何やってんだ。行くぞ!」
はーい、と駆け出すアレスの背を見つめ、私は唇を噛み締めた。
──彼は本気だ。
まあ、こんなところまで、わざわざ私を追ってきたくらいなのだ。
並の執念ではない以上、彼は私を苦しめる、それだけのために新撰組を乗っ取る、ないし、崩壊させるようなことをしても、何もおかしくはない。
「止めないと……!」
彼に新撰組を好きにさせるワケにはいかなかった。
屯所へと戻る間、アレスを背後からずっと見張っていたのだが、そう短期間で怪しい素振りを見せることは当然なく──。
歯痒い気持ちを抑えながら、私は屯所の門を潜ったのだった──。
「里哉の同胞だと?」
局長室で原田さんは、目を丸くしている近藤さんと土方さんへとアレスを面会させた。
「はいー。お初お目にかかりますー。僕はローマから来ました、そこのアキリアと同じ主人に仕える奴隷でした、アレスと申しますー」
平身低頭。アレスはペコペコと頭を下げる。
何やら少し頭の下げ方がぎこちないが、まあ此方のやり方に合わせた礼を覚えて、見よう見まねでやっているのだろう。
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