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「……三番隊からは斎藤さんが出るのでしょう? では私は参列しない方向でお願いします」
「ん? 何でだ、里哉。佐久間殿を最期に看取ったのはお前だろう」
──だからですよ。
近藤さんの言葉に、私は無愛想な表情で鼻から息を抜く。
私が看取った彼だからこそ、その最期を迎える原因となった人斬り──河上彦斎について、まだ日が経たない内に、少しでも情報を集めたかった。
「別に彼は隊士というワケでもないのですから、葬儀に参列するくらいなら、私は現場の検分に向かいます──」
冷たく聞こえてしまうかもはしれないが、私としては事件現場がまだ踏み散らかされていない今なら、葬儀に出るよりも、現場を検める方が、よほど時間を有意義に使っていると思うのだ。
「里哉。お前の考えが分からんワケでもないさ。……でもな、偉大な教育者がこの世から失われたのだ。それを少し悼む時間くらいはあっても良いんじゃないか?」
近藤さんはその考えを押し付けては来ない。
ならば。これが事件である以上──。
「私は合理を取ります。悼むことなど、亡くなった彼が望んだ、平和になった後の世の者がすれば良い。何回忌でも、何百回忌でもやれば良い。……ずっと変わらぬ悼む心とは反対に、現場は、刻一刻と変わってゆく。その時のことを覚えている者の記憶となれば、尚更です」
近藤さんはもう何も言わなかった。
ただ少し、悲しそうな目を此方へと向けるだけで。
私は何故かその目に、憐れみのようなものを感じ、小さな苛立ちを覚える。
「冷たいね……君──」
と、ふいにポツリと呟いたのは、六番隊組長の井上さんだ。
「冷たく見えるなら、それで構いません。そも、心も籠っていない、冷たい奴に参列されて、井上さんは嬉しいですか? 私なら、形だけのそんな奴、願い下げですが──?」
井上さんは血を吐くような努力を重ね、組長まで上り詰めた、そんな真性の──努力の人。
私はそんな努力家の彼のことが好きだし、それなりに尊敬もしている。
私としてはただ井上さんへと問い掛けただけなのだが──彼はうだつの上がらない表情で「そんな言い方しなくても……」と零す。
「じゃあ言い方を変えましょうか。私は──むぐッッ!」
刹那、横に座っていた斎藤さんに、手で口を塞がれ──、言葉が紡げなくなった私はジロリと横目で自隊の組長を睨みつける。
──何すんじゃい。
そんな私の方には一切目もくれず、斎藤さんは、前後二列に並んだ組長達の前に座る、近藤さんへと口を開いた。
「近藤殿、土方殿。すまないが、俺も不参加で頼めるだろうか」
「一……どうしてお前まで……」
近藤さんの驚いたような声に、私は口を塞がれたまま、「もーがもーが(訳 そーだそーだ)」と声を上げる。
「お前は少し黙れ、アキリア」
「もい……(訳 はい……)」
斎藤さんに冷たく言い放たれた私は大人しく口を閉ざした。
斎藤さんは私が口を閉ざしたからか、塞いでいた私の口から手を離すと、近藤さんへと不参加の理由を説明し始める。
「並の人斬りであれば、俺もそう急きはしない。だが、相手は河上彦斎だ。奴の行方を本気で掴もうというのなら、事実、この一秒一秒が、大変に勿体ない時間だ──」
話し方の違いだろうか。井上さんは斎藤さんの言葉には何も反論しなかった。
「それに、犯人は現場に戻ると言うのだろう──? 河上がそんな、並の犯人じみた行動を取るとは思えんが、奴とて人の子だ。その行動を取らぬ、とも限らぬ」
──普段が寡黙だからか……?
何故、彼は私より説得力があるのか。不思議である。
「万一現場に戻ってきた場合に、奴が桂小五郎や高杉晋作──他にもやり手の者を連れて来てみろ──」
斎藤さんは何故か此方をチラリ、と一度だけ横目で見下ろしてきた。
──河上彦斎に桂さんに……ってことは。
「やったあ、強者との斬り合い天国──ぐえっ!」
油断していた。
二列で一番隊から横並びしている、ということは、折り返しの都合上、三番隊である私の背後には八番隊の組長、藤堂さんがいるということ。
黙れ、と言わんばかりに背後から藤堂さんに後ろ髪を思いっきり引かれた私の喉から、蟇の潰れたような声が上がる。
「俺達は彼が亡くなった時に一番近くにいた隊だ。だからこそ、俺達は葬儀でなく……最低でも三日ほどは、河上彦斎が現場に戻らぬか、目を光らせておこうと思う──」
──良いこと言ってるんだろうけど、そんなことよりお願い、助けて。あの人、力加減間違ってます。
後ろ髪を引かれるままに、首が半ば真上を越して、後方まで向いている私は上手く呼吸が出来ず、呼吸困難に陥りかけていた。
「……分かった。里哉、お前も…そういうことが言いたかったんだよな?」
近藤さんの言葉に頷こうとするも、頭が下げられない。喉から声も出ない。
とりあえず、まずは助けて、という意味合いで、必死に伸ばした手首をパタパタと折る──と、どうやらその行動は、質問に対する肯定であると取られたらしい。
──いやあのですね。そろそろ、息が……。ついでに首が……。
「では、決定だ。三番隊以外は組長格は葬儀に参列。三番隊の二人は今日から三日──現場で張り込みだ──」
近藤さんの決定の声が、何だか遠くから聞こえる。
──あ。これはもう、本当にダメかも……。
本当に意識が消し飛ぶ寸前で、組長会が終わり、運良く髪から手が離されたものの、私はもう少しで亡くなった佐久間殿と同じ処へと旅立ってしまうところだった──。
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