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3-4-3

「違う……抜かなかった、んだ……」


「何故!」


男はもう息も絶え絶えだった。


恐らく、半ば気力だけで意識を留めているのだろう。


凄まじい精神力だった。


「河上は…師を……宮部鼎蔵(みやべていぞう)を……池田屋、で…失って…いる……」


──池田屋!


それは、他でもない自分が討ち入りした所で──。


「何で…何でッッ……!」


──どうしてどいつもこいつも、口を揃えて池田屋のことを口にするのか。


これではまるで──。


「新撰組、は…悪く…ない、さ。それも、また…正義だから、ねえ」


男はくしゃりと相好を崩す。


どうやら私の羽織る白い羽織に、私が新撰組に所属していることを察したのだろう。


「尊攘を掲げ…恩師の、仇を……公武合体、派の僕を討つ……河上もまた、君らと同じく、正義、なのさ……」


「自分が殺されても、ですか!」


声を荒らげると、男は確かに大きく、頷いた。


「それも、また……僕の、育てた…芽が……実を結んだ、証、だよ──」


「育てた芽……? あなた、名は! 名はなんと言うのです!」


男を気付けるように、その身体を支える腕に、少し力を込めて揺さぶる。


男は震えるように大きく息を吐くと──


「なぁに…お仲間が、来れば……すぐにでも、分かる、さ……」


そう、悪戯っぽく微笑み──。


「僕の…遺志……僕の、出来損ないの…息子……。アンタに任せられた、ら……僕ぁ……」


間違いない。これは彼の最期の言葉だろう。


「私で良いのなら、心配は不要です──」


もちろん彼の息子なんざ、顔も名前も知らない。


だが、少しでも彼が安らかに眠ることができるよう方便を使うのが、今、私にできる、唯一のことだった。


「あぁ。それは…良かっ──」


瞳から、光が消える。


次いで、男の手から力が抜け、地へとはたりと落ちた。


「……」


それが、名も知らぬ男の最期だった──。


言えることはとりあえず。


──一言良いだろうか。


「最期の最期にまで、人の尻撫で回しやがって……」


本当に馬と勘違いしていたかは知らんが、大変に気色悪かった。


仏頂面で、再び地へと横たえた男の瞼を閉じさせる。


ブルッ、と鼻を鳴らす馬が、男の頬を一度舐めた。


「よしよし。あなたは、立派なご主人様を、持ったのですね──」


──尻についてはともかく。そう、尻についてはともかくとして、だ!


彼が、最期まで常人とは違う雰囲気を纏っていたのは間違いなく。


「仲間が来れば、名は分かる、か……」


男の自意識過剰……だとは考え難い。



しばらくして駆け付けてきた斎藤さんは亡くなった男を見て、言葉を失っていた──。




見廻りを切り上げて、男の遺体と馬を屯所へと持ち帰る。


屯所へと戻る間、斎藤さんは険しい顔で、終始無言だった──。







「んー、結局誰だったんだろ」


男の遺体が安置されている部屋へと、組長達がぞろぞろと入っていく。


手持ち無沙汰な私は、事態に変化があるまで、屯所の庭で、サイトウくんへと与えるための餌である蛙を探そうと思い、低木の周りに膝をついて、木の下を覗き込む。


「いないや……」


ひょい、と顔を上げると、組長達の入っていった部屋へと、山崎さんが消えていくのが遠目に映る。


──まあ、新撰組公認? の唯一の医者だしね。


低木の下を二本、三本と覗いていると、遺体を安置している部屋から、険しい表情の永倉さん──に続き、此方もまた物々しい雰囲気を醸し出している沖田さん、鈴木さん、井上さん、そして……まあ、組長達が全員が出てくるのが見えた。


「えらく早いけど……話、終わったのかな……」


──何だろ、皆怖い顔してるし……空気もピリついてるや。


話し掛けるのすら躊躇われるような雰囲気の組長達は、揃って足早に屋敷の奥へと消えていく。


──あっちは局長室がある方、か。


どうやら話は局長室でするようだ。


「ま。のんびり待ってよっと……」


更に一本、先の低木の前へと移動すると──


「安芸さんー……、こんな状況なのに、相変わらず自由人ッスね……」


環境適応能力が高いっつーかー……、と続けながら、此方へと歩いて来るのは、自隊の平隊士の一人。蟻通勘吾だった。


「へあ?」


「へあ、ってなんですか、へあ、って!」


──放っとけ!


うっかり「へ? ああ」が固まって「へあ?」になってしまった私は少しだけ不機嫌を顔に貼り付ける。


「もしかして、あなた、あの殺された方を知っているのですか?」


私の声に、蟻通は目を丸くする私よりも、更に目を丸くした。


「もしかして誰かすら分かってなかったんスか!? あの方は佐久間象山(さくましょうざん)殿ですよ!」


驚いたような蟻通の言葉にただ「はあ」と返す。


──佐久間象山。


「安芸さん……やっぱり驚かないんスね!?」


「それは、まあ……」


何やら蟻通が「冷静ッスねー」と感動しているようだが──私としては、正確には驚かない、ではなく驚けない。だった。


何故なら──

──名前しか知らないんだもん。


私は感動に腕組みしながら頷いている蟻通をその場に残し、踵を返して、足早に資料庫へと向かう。


その暗殺された人物のことを名前程度しか知らなかった私は、資料庫でその者について調べることにしたのだ──。


面白い、続きが気になる!


と思ったら星5つ、


つまらない……。


と思ったら星1つ、思ったままでもちろん大丈夫です!


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何卒よろしくお願いいたします。

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