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3-3-4

それは、こちらにとっても理想そのものだ。


だが──。


「そのご立派な目標達成のためには京が戦場となってもいい、ですか──?」


多数を救うために少数を切り捨てる。


それは確かに合理的で、ここに来た当初の私ならば、何の疑問も抱くこともなかったろう。


だが、合理の一言で切り捨てるには、あまりにも大切なものが増えすぎてしまった。


「言ったであろう? 我々とて、京を戦火の渦に巻き込むのは、本意ではない、と」


桂さんは茂みから離れるように後退りしながら立ち上がると、近場の木の幹に、背を持たせかける。


「天子は天子なりの考えで、国を閉ざし、国民を守ろうとしている。幕府は勝手に外国と条約を結びはした。だが……、やはりそれも国を守ろうとしてのことなのだろう」


だが、と続ける桂さん。


「我々長州藩は身をもって列強の国々の脅威を知っている。……このまま鎖国をしても、また、外国に(おもね)る、幕府のやり方を通しても、日の本はじき、列強諸国によって植民地とされるであろう」


身をもって──とは、恐らく長州藩が外国と戦争をして、大敗を喫したことを言っているのだろう。


「日本を外国と同じ立ち位置に持って行き、植民地化を食い止める。それこそが、私にとって……貴殿が先程言っていた大義である。大義の前に少数の犠牲があっても仕方がない、などと言う気はない。だが、日の本にはもう時間がないのも、また事実なのだ」


周辺の国々が既に列強諸国の植民地となっている今、日本に残された時間は確かにもう、幾許もないのかもしれない。


「確かに長州藩は尊王を謳っておきながら、朝廷からは快くは思われていない。……我々の、長州藩の過激とも取れるやり方に、天子が腹に据えかねているというのが理解できないワケでもない」


難しい顔の桂さんは更に言葉を続ける。


「だがそれでも、例え武器を取らなくてはならぬ道であっても、我々は自らの信じた尊王攘夷こそが正しいと信じ、この道を行くしかない。貴殿らにとっての幕府がそうであるように、我々にとって長州藩の信念は護国の火種。決して消してはならぬ灯火なのだからな」


桂さんは幹に背を持たせかけたまま、真っ直ぐな、曇りのない瞳で盃を交わす兵士達を見つめている。


その目にはもちろん、自身の行動について、一切の迷いなどないのだろう、強い光が煌めいて──。


何故、彼が尊攘派の者達の中心にいるのかは、分かった気がした。


だけれど──


──私にしてみれば、それ以前の問題なんだよなぁ。


護国云々を謳う桂さんを私は淡白な瞳で見やる。


まあ、そこまで深堀りしても始まらないので、目先の問答ばかりを続けておく。


「鎖国も開国も、私の目には一長一短にしか映りません……。王の中の王。そんな王がいた国ですら、その偉大な指導者を失えば、鎖国によって栄えていた……『国』そのものを保っていられなくなるのです」


だが──。


「だからといって、弱国が植民地を憂い、開国などすればどうなるでしょうか」


私には、悲惨な未来しか見えなかった。


「……国の資源は列強諸国によって安価で買い叩かれ、伽藍堂の国の器、それだけが残ることとなる……。外国と対等になるためにその技術が欲しい。それは理解できます。でも、それが叶わなかった時、この国は──」


「アキリア殿──」


真剣な表情で本名を呼ばれ、驚きに心臓が跳ねる。


「貴殿も分かっているのだろう。結局は、鎖国も開国も、恭順も対等も。何なら未来すらも『現在(いま)』に信念を燃やす者達の『賭け』でしかない、と」


それはそうだ。だって、どの道も等しく、未来など約束されていないのだから。


ついでに言うなら『正解』の道を引く確率すらも、どれも同じようなものだろう。だからこそ、皆、闇の中で足掻いている。自分の選んだ道の先こそが『正解』の未来であると信じて──。



「ところで……話を少し戻すのだが。アキリア殿、私は今、勿論、貴殿を袋叩きになどはしないが──」


──しないが?


急に真顔でそんなことを語りだした桂さんの姿に、私は目を瞬かせる。


あれだろうか。袋叩きにはしないが、人質にする、やら、殺しはする、やらその手のことだろうか。


──いや、有り得る!


自分で考えておいて、即座に納得した。


私は急いで戦闘態勢へと移ろうとした──のだが──。


「──そのだな、勧誘はさせてもらいたい。こちら側へ……尊攘派へ付かないか、アキリア殿──」


答えはまさかの、勧誘だった──。




「……私がその話に乗ると思いますか?」


真顔で返すと、桂さんもまた「思わぬ」と真顔で返してくる。


──あれか、ダメ元というやつか。


まあ、ダメなものはダメだけど。


「そちらには参謀枠かどうかは知らないけれど、アレスがいるじゃないですか……」


「そうだな。そのアレス殿より貴殿の話を色々と聞いている内に、どうしても勧誘したくなってな……」


──は?


アレスが語る私など、それこそ傾国の屑女でしかないはずなのだが、どういうことか。


と、その時私は気付かなくて良いことに気付いてしまった。


「あれ…まさか……」


彼の耳に入っている私は、真性の屑だろう。それは良い。それは良いのだが……よくよく考えると、アレスは性格の破綻した問題児であり、長州藩自体も朝廷からすると問題児で……。


──やっはりこの人、屑や問題児を気に入る特殊な性癖をお持ちに違いない!


面白い、続きが気になる!


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