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護るべき民は尊皇攘夷派の長州藩を善いものとしている。だが、いざ戦となれば、私は公武合体派の朝廷──を守護する幕府側の、会津藩お抱えの新撰組に属しているワケだから、勿論、民衆の良しとする長州藩を討伐せねばならない。
だが、民の良しとする、その長州藩は私からしてみれば、全ての元凶に近い存在で──。
「大義は……」──何処に?
正義云々を謳うのは簡単だ。勝てば官軍負ければ賊軍。勝者こそが正義として歴史に名を残す。つまり、勝てば良い。単純明快だ。
だが大義は……??
お上に仕えることを文字通りの大義と取るならば、会津藩の──新撰組のやっていることは大義なのだろう。民を護るのが幕府と、朝廷のやるべきこと。──しかし、今のままではその、護られる民の思いは何処へ?
──分からなかった。
今までだって、数多の戦場に張り巡らされた思惑をずっと見てきていた。
だけれど、同じ『国』を、同じ『民』の生活を思い、国内で対立をしたことは一度もなく──。
私がそこまで深掘りしたことを考えているとは思っていないのだろう。
私が混乱した頭でただ項垂れていると、桂さんは、
「私は尊王攘夷派の志士達を纏める立場にある。出来ることなら、京を戦火の渦中にはしたくない。……だが、我々は朝廷や幕府とは違い、鶴の一声というものが存在しないのだ」
と、ため息混じりに呟いた。
──つまり?
「私や高杉晋作、今回嘆願書を奉った久坂玄瑞。皆、尊王攘夷派の者の中では名だたる存在であるが……我々は慎重論を常に唱えている。出来ることならば、血を流さずに事が運べば、それに越したことはないからな」
だが、と桂さんは苦々しい顔で言葉を続ける。
「積極派の三家老 益田右衛門介、福原越後、国司信濃らはそれを良しとはしなかった。それでも今までは何とか、長州藩内で、慎重派と積極派と、均衡が保ててはいたのだが……」
「まさか……池田屋……?」
私の頭に閃くのは、尊攘派の浪士を多数粛清、捕縛したあの討ち入りだった。
「そうだ。アレを皮切りに、藩論は積極派の意見に傾き──三家老は挙兵を決意した」
難しいものだな、と桂さんは鈍色の空を見上げる。
「皆、同じモノを憂えている。同じ志を持ち、同じ…平和という結果を望みながら……争い合うしかない」
それは──平和への道も、辿り着く平和の形も。全てがあまりにも違いすぎているから。
「今も恐らく、朝廷内は二分割されているのだろう。長州藩に寛大な措置を、と進言してくれる者。断固とした姿勢を崩さず、長州藩の入京を認めない者」
でも結局は、と桂さんはポツリと零す。
「最後は天子の──孝明天皇の一声で、全ては決する。……私はそれがどのような結末となったとしても、受け入れ、それに対する行動を起こす覚悟はある。天子もまた、国を、民を憂える者なのだから──」
空からゴロゴロという雷の鳴る音が聞こえてくる。
腹の底に響くようなその音を何とはなしに聞いていると──、桂さんは私へと「来てみるといい」と告げ、くるりと背を向けた。
移動先は結構──どころか、かなり遠かった。なんせ山登りをさせられているくらいなのだ。……ちなみに山登りが始まった時点で、私は今日の夕餉は諦めた。絶対間に合わない。
私が今、登っているのは天王山。京の西にある山だ。
桂さんの後を追っていると、山の中腹あたりで、建物が一つ見えてきた。
「あれは……?」
「宝積寺。長州藩が、もし入京が認められぬ場合は、久坂玄瑞、増田弾正、真木和泉らの指揮で、兵が西より、京へ入ることになるからな。此処に拠点を置いている」
──これ、マズイんじゃないか。
西にまで拠点を構えていることに、まず驚いたが、呑気にも敵方の拠点にノコノコついて行ってしまった私は背に嫌な汗をかく。
一歩、二歩と後退る私に気付いたのだろう。桂さんは至って変わらぬ表情で一言「安心しろ」と言った。
「さすがに此処に連れ込んで袋叩きにしようなどと考えてはおらん」
──そうなのか?
まあ、袋叩かれたところで、十人は道連れにしてやるつもりだが──まあ、そうならないに越したことはない。
桂さんは茂みの方へと歩いていくと、私を手招きした。
「……見ろ」
くいっと親指で彼の示す先にいたのは──寺の敷地で、穏やかな表情で談笑しながら、円になり、盃を酌み交わす兵の姿。
「貴殿……いや、貴女……か? 貴女にはアレがどう見えるだろうか」
「ああ。アレスから聞いたんですか……、とりあえず新撰組にいる以上、男として振舞っていますので、出来れば貴女はやめていただけたら、と」
そして、どう、とはどういうことだろうか。
私には桂さんの言葉の意味が分からなかった。
「貴…殿の思ったままで構わぬ。アレを見て、どう思うか」
「ええ……? 普通の、どこにでも見られる、取り立てて何も言うべきこともない酒盛りの光景に見えますが……」
本当に、それ以上でもそれ以下でもなく。
「そう思ってくれたのなら、何よりだ。……あの何でもないような顔で、市井の者が日々を過ごせる。それが我々の理想なのだ」
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