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3-3-1

その晩、夕餉の席に現れないから、と部屋を訪ねてきた斎藤さんが畳で転がった私達見つけ──一時屯所内は騒ぎになった。


ちなみにその時、私は──疲れ果てて、丁度良い高さの、山崎さんの向こう脛を枕にしながら寝ていた。


やはり薬は配合が上手くいっていなかったようで、しばらく腹痛と嘔吐が続き、のたうち回るのと異物を吐き出そうとする身体の蠕動とで、体力を消耗していたのだ。


山崎さんと私が心中したなどと、あらぬ噂が屯所内を駆け巡る──寸前で、それは何とか近藤さんが揉み消したらしい。



「羨ましいですねえ……」


私は様子を見に訪れた、数人の組長の見守る、布団に転がされた山崎さんの顔を覗き込みながらそう零す。


「ひぇ!? な、何でもないですよ!」


──睨まれた。


集う、良く見知った組長からの剣呑な視線に晒されて、私は座布団の上で小さくなる。


「アキリア。とりあえず聞いとこうか。二人は同じ薬を使ったんだよね?」


沖田さんの声に、無言で首を縦に何度も振る。


「そう。でもキミの話だと、腹痛と嘔吐が酷かったってことだったけど──?」


沖田さんの視線の先にいるのは──毒も険も抜けた、いっそ恍惚とすら取れる表情で、健やかな寝息を立てている山崎さん。


その顔は、普段の仏頂面からは考えられない、本当に幸福そうなもので──。


「多分、山崎さんは恋茄子の鎮痛鎮静に加え、幻覚、幻聴などの症状が真っ先に出たのだと思います……。だからこうして今、幸せ夢旅行の中にあるのかと。……私は恐らくですが、調合したその他諸々の薬効が先に出てしまった、と考えますね、はい──」


座布団が、針のむしろのようだった。


冷たい視線に晒されながら、私はただ脂汗を流しながら下唇を噛む。


──仕方がないのだ。


私が今、研究している薬はどうしても、いずれは必要となるものなのだから──。









一八六四年 六月二十四日──。


その日は梅雨の晴れ間──とはいかず、一日中どんよりと垂れ込めた雲が空を覆い尽くす。そんな日だった──。



「長州藩がついに伏見の長州藩屋敷に着いた…か……」


午後三時頃──私は臨時の組長会が終わった後の、隊内での伝達で、斎藤さんから報されたその言葉に、少しだけ目を伏せる。


斎藤さんは言葉をそこで切り、今はまだ各自通常の隊務に励むよう、と締め括ったが、私は、どうしても京の外が気になって仕方なかった。


「京に不逞浪士達が、これを機に──とばかりに多数入り込んでいる。一般隊士は外出する際は必ず最低でも三人で──」


一般隊士達へと決定の通知をする上司の声を背に聞きながら、私は執務室を後にする。


少し気持ちを落ち着けようと自室へと戻ったのだが、運が良いのか悪いのか。私の自室は局長室の真裏だった。


自室に入るや否や、奥の壁越しに緊迫した声が聞こえてきたため、自然とそちらへと吸い寄せられてしまい──。




『我々も早いうちから出て、会津、他藩とともに御所を護っておくべきです。いざ長州藩が本当に京に踏み入ってきた時に、御所に踏み入られるワケにはいかない』


──この声は、山南さんか。


珍しく怒っているような、苛立っているような、そんな声である。


『俺は我々新撰組はまだ此処に留まって、本当にいざと言う時に、遊撃に出るべきだと思う。御所は会津藩が──松平容保公直属の兵が護っているんだ。それなら、そちらはギリギリまで会津に任せて、俺達は通常通り隊務に励むべきだ──』


──このやたらとぶっきらぼうな声は、間違いない、土方さんだ。


新撰組をどう動かすのか、意見がぶつかり合っているのか。


『それではあまりにも呑気です! 万一御所に踏み入られたらどうするのですか!』


『会津藩にそこまでの戦力がないと思うか? いや、戦力がないと思うなら、尚更、御所から敵を遠ざけるべきだとは思うが──?』


口論の声は徐々に大きくなってゆく。


「間違ってない……」


──どちらの言い分も、決して間違ってなどいないのだ。


『そも、兵力差は圧倒的に幕府軍の方が多い。中立売(なかだちうり)御門は筑前(ちくぜん)藩、新在家(しんざいけ)御門は会津藩、下立売(しもだちうり)御門は桑名(くわな)藩、堺町(さかいまち)御門も越前(えちぜん)藩、(いぬい)御門に至っては薩摩(さつま)藩が守っているんだぞ。名立たる侍方の中に、俺達芋侍が飛び込んだって鼻つまみ者扱いされるだけだ──』


それくらいなら、端から違う場所で戦えば良い、と言い切る土方さん。


『我々は確かに農民町民の寄せ集め。ですが、腕前だけなら彼らにとて劣らないはず──!!』


『逆だろ。腕前が劣らないからこそ、ケチ付けてくるんだよ、あーいう手合いは』


あのなあ、と土方さんは続ける。


『山南。お前が一番良く分かってることだろが。士気の低い軍なんざ、いくら人数を掻き集めたって、胡麻胴乱(ごまどうらん)と同じだ。中身なんざねえスッカラで、クソの役にも立ちゃしねえんだよ。敵なんざその内、四方八方から攻めて来る。敢えて奴らと同じ土俵に立つ意味はあるか?』


土方さんの声は止まらなかった。


『何なら、そんなところに新撰組を展開させて、長州藩を待ってなんてみろ。俺達を妬む奴らに、やれ給料泥棒だの穀潰しだのと言われて…たまったもんじゃない──』


『そんな者達が集まる場だからこそ、我々の…新撰組の掲げる『誠』の武士道を見せ付けなくて何とするのです──!』


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