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「あー…良いです良いです。実験に参加出来たら良いかな、くらいの発想だったので。そこまで嫌がられるとは思っていなかったので。私がやるので良いですよー」
ため息混じりにそう告げ──よいしょ、と一歩踏み出す──と。
「あだだだだっ!?」
それはもう、肩の骨が砕けるのでは、というほどに強い力で私は斜め後ろから、土方さんに肩を掴まれた。
──目が……怖い!
そして、凶悪な目つきで睨まれることたっぷり三秒。人の肩に阿呆のような力で指を食い込ませながら、土方さんが地を這うような声を上げた。
「俺が……やる……ッ」
「え。本当ですかー?」
──何だ、本当はやってみたかったのか?
もう少し押してあげるべきだったか、などと考え──
「ではでは、どうぞどうぞ」
と、火が消えるのを待つために、池の縁に屈み込む。
──燃え上がって、五分ほどか。水の嵩は、水質はどうなっているのか。
これは是非とも確かめねば。そう思っていたのだが──。
「副局長が憤死する前に部屋に帰ろうな。狂科学者──」
私は藤堂さんに後ろ襟を引かれ、自室へと戻らされてしまった。
しばらくすると、屋外から今まで聞いたこともないような、沖田さんの大きな笑声が聞こえてきた。
次いで、土方さんの怒号も。
──何か、楽しそうだな。
藤堂さんの制止を無理矢理振り切って外を覗く──と、池の火はしっかりと消えており──
「沖田ァァ! てめえは今月減給だ──!!」
どこからかやって来た沖田さんへと、土方さんは減給を言い渡していた。
鬼など生易しい。今なら眼光だけで人を殺せるかもしれない。そんな土方さんの前で、未だに腹を抱えていた沖田さんは、
「ゴメンゴメンって! でも……っあははは! 土方さんが池で用を足してるトコロが見れるなんてね──」
と、このままでは笑い死にするのではというほどには、笑う笑う。笑い転げる。
「これしか消火方法がねえんだ! 笑うんじゃねえ!」
尚も牙を剥く土方さんに私は──
──実は砂をたくさん掛けても消えました。
とは、今更言えず。
「池だから尿を選んだんだけど……」
この真実は黙ったままローマまで持って帰ろう。そう決めた──。
その後、再び自室に戻った私はサイトウくんに話し掛けながら、恋茄子をゴリゴリとすり潰したり、箪笥にしまい込んでいた梅の種やら枇杷の種やらを潰したりする。
「この前試したのがこの配分だったから……と……」
配合の分量を変えていると、未だ、頑として部屋から出ていこうとしない山崎さんが、それはもう穴が空くのでは、というほどに手元を見つめてくる。
──興味津々すぎやしませんかねえ。
そんなことを思いつつ、私は完成した粉を薬包紙に落とし込んだ。
「サイトウくんサイトウくん。薬効、試したらご飯にしましょうか。蟇蛙も鼠も、あちこちに五万といますからね〜」
──蛇とはいえ、部屋に生き物がいるのは悪くないな。
呑気にサイトウくんへと話し掛けていると、山崎さんの手が薬包紙へとそっと伸びてくる。
「一応お聞きしますが……何をされているのですかね山崎さん?」
「そこに僕の知り得ない医学があるのなら……是非その薬を僕にも試させてほしいわけだ」
薬に手を伸ばす、医学馬鹿の山崎さんの息は、興奮しているのだろう。やたらと荒い。
「これはまだ開発途中。つまり、ただの毒の塊ですが?」
薬包紙に伸びる手を叩き落とすも、不撓不屈の手は再び持ち上がってくる。
「大丈夫だ。僕もあんたと一緒さ。度重なる服薬のお陰で、毒も薬も中々効かない、難儀な身体を持ってしまったからな──」
勝手に一緒にしてくれるな。私はあくまでも──
「主の一番近くで働くよう幼少期から仕込まれた奴隷だったから、主の毒殺を防ぐためにこんな身体にならざるを得なかったんです。誰が好きで毒なんて試しますか」
立場上、仕方がなかっただけだ。
私が治療を受ける度に、山崎さんが「薬が効かない」と愚痴を零していたが、そういう理由なので許して欲しいところである。
「まあ側仕えでなかったとしても、奴隷は服毒実験の実験台ですからね。……クレオパトラ七世、ご存知ですか? かの女王が最期を楽に迎えるために、どれだけの奴隷が、苦しまずに死ぬことのできる毒蛇を見つけるための実験台として、犠牲になったことか──」
奴隷とは、そういうものなのだ。
命は軽く、殺されることへの拒否権もない。
「もしかして、その女王が結局、最期に選んだ毒蛇とは──」「──はい正解です。サイトウくんと同じ、アスプコブラでよ」
山崎さんが言おうとしていることを先回りし、正解判定を出しておく。
「やはりな! では安芸副組長、正解した褒美に、僕にその薬を試させてくれ!」
──コレ、試すまで絶対引かないんだろうな……。
私は深いため息を吐き出し──彼を止めることを諦めた。
「……絶対に、一舐めだけですよ? 分かっているとは思いますが、症状、時期、それから──」
「──分かっている! 臨床経過ほど大切なものはない、だろう。当然のことを一々聞くな。さあ、試すぞ!」
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