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「まだか……」
私は辺りをキョロキョロと見回し──商人が現れるのを待とうと、その場に屈み込む。
「んー、やっぱオレ、苦手だなココは……」
隣で立ったままの藤堂さんが、腕と肩を捻るようにして、身体をほぐしながらそうボヤいた。
「刑場だからな……あまり人も訪れんだろう……」
山崎さんが薄い表情で、そんなことを言っていた時だった。
私の耳が小さな物音を拾う。
「む! 来た!」
弾かれるように立ち上がり、私は懐から二十両を取り出す。──と、藤堂さんが目を剥いた。
「お前……どうしたんだよそんな大金!?」
「いやあ、ずっと給料貯めてましたからねぇ……最近こうしてパーッと散財しているのですよ」
散財しすぎじゃね? と零す藤堂さんから目を離し、物音のする方を眺める。
物音はすぐに足音へと変わり──藤堂さんと山崎さんも、その足音に気付いたようで。
河原に姿を現した足音の主は、今日会う約束をしていた、京へとたまに来る、オランダの商人だった──。
「コレはドウモ。安芸さん。例のモノ、持ってキタですよ」
それでもまだ比較的流暢……なのだろう、商人の言葉に私は目を輝かせる。
「やった! ありがとうございますルーカスさん!」
「安芸さん、ヘンタイ。私死んだカラ頑張りましタ……」
「ルーカスさん、変態じゃなくて変人、ですよ……。後、訂正するなら死ぬほど頑張りました、ですね」
何やら変態扱いされてしまった私であるが、別に怒ってはいない。
彼らはオランダの人なのだが、ココまで頑張って他国の言葉を習得したのだ。
多少おかしくても、腹を立てるほどではないだろう。
「まずはコレ」
ルーカスさんが手渡してきたのは太い芋のような根が枝分かれした、葉付きの植物。
「ん? 何だそれ、色が山芋みたいだけど……形は甘藷みたいだな。なあなあ、食える芋か?」
「はい、食べられる芋ですよ」
手元を覗き込んでくる藤堂さんは、よほどソレが気になったのか、私の手から芋を奪い取ると、くんくんと匂いを嗅ぎ──
「ちょっとだけ食っていいか?」
「はい、構いませんよ。──牛でも死にますけど」
刹那、さっそく枝分かれした芋の一つを口に運ぼうとしていた藤堂さんは──
「ざけんじゃねぇ──!」
毒じゃねえか、と怒号とともに、芋を遠くへと投げ捨てた。
「ちょっと──!? 拾ってきて下さい! 野良犬が食べでもしたらどうするんですか!」
──高いのだぞ、あの芋は!
「あ……あのゥ……」
ルーカスさんの声に、私ははっと正面へと向き直る。
「ああ、すみませんすみません。で、どうでした?」
「ハイ、コチラもバッチリ」
次いで手渡されたのは、茶色の歪な太い根を持つ──
「何だ今度は……何かやたらと、えーと……不気味な見た目してるんだけど……」
「これは、恋茄子ですよ」
私の使っていた呼び名はマンドレイクなのだが、少しでも彼らに伝わりやすい名を選び、説明した。
「なんと! これが恋茄子というものか!」
山崎さんは珍しく、僅かに頬を上気させて、恋茄子を見つめている。
「コイナスビ……なすび……なるほど、外国の茄子か!」
藤堂さんは嬉々として恋茄子をまた私の手から奪い取ると──
「茄子だしな。今度こそ食っていいか?」
その問いに答えたのは、どことなく上擦った声の山崎さんだった。
「藤堂組長。頼む。食してみてくれ! ──間違いなく死ぬが」
刹那、芋に続き、私のなすびちゃんは宙を舞った。
「恋茄子を書物以外で見るのは初めてなんだ。どのような症状がどれくらいの時期から出始めて、ああそれから──」「──ざけんな山崎!」
山崎さんの言葉は、藤堂さんの怒号によって一刀両断された。
「商人お前もだ! お前は! 毒しか! 持ってねえのかッッ!」
哀れにも、藤堂さんに詰め寄られたルーカスさんは「エェ…」と困った様子で。
まあ、彼は依頼されたものを掻き集めてきただけなのだから、とばっちりも良いところだろう。
「藤堂組長のことなど放っておけ! 他には何持って来ている、あんた!?」
「え、エェト……コチラとかコチラとか……」
敵意と興奮と。左右から男二人に詰め寄られるルーカスさんが取り出したのは、キラキラと輝く二つの美しい石。
──あ。アレは。
「お? コッチの石なら知ってるぞ! 確か鶏冠石だろ!」
藤堂さんの言葉通り、それは鶏冠石。真紅の透き通る、美しい宝石だ。
「鶏冠石と……こっちの白い石は何だ?」
「ナトロンですヨ」
ルーカスさんの声に、なとろん、とオウム返しに呟く藤堂さん。
「んだよ、毒以外もあるじゃねーか。しかも宝石とはなー。お前、意外とこういうの好きなのか──?」
今度はルーカスさんの手から直に鶏冠石とナトロンを奪い取った藤堂さんは「ちゃんと可愛い所もあるじゃねーか」などと謎の発言をしながら、それを合わせ持とうとした。
──あ。石が擦れる。
「藤堂さん、ぶつけないで下さいよ! 粉が勿体ないから!」
私は咄嗟に藤堂さんへと両手を伸ばし、石をぞんざいに扱わないよう注意した。
藤堂さんは何度か目を瞬かせ──
「あ。悪りぃ。石が傷付くよな……」
と、素直に片手ずつに石を載せる。
「安芸副組長。僕の知識には鶏冠石は絵の染料という使い道しかないのだが……」
期待に満ちた山崎さんに、私は大きく頷き──
「ふっふっふ。それはなんと! 鉱石同士で反応して、ど──」「──毒かよ結局ッッ──!」
刹那、六条河原に藤堂さんの怒声が響き渡った──。
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