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3-1-6

「おおおお! それで、どうなったんだ!」


藤堂さんは胸の熱くなる展開に、さっきまでの不機嫌そうな顔もどこへやら。再びキラキラと目を輝かせ始めた。


──本当に子供のようだなぁ。


零れそうになる苦笑を何とか顔の奥に押し留める。


「王の親衛隊は男子の世継ぎのいる男達ですから、もうこの世に未練がなかった、と伝えられています。そんな親衛隊と共に正面から総攻撃を仕掛けてきたペルシア軍を弾き返す王でしたが、そんな彼も、ついには数の暴力の前に討死しました」


「ぁぁ……」


──あ。子供が目に見えて落胆した。


ガックリと項垂れる姿が少しだけ可愛らしくもある。


「ですが、スパルタ部隊の士気が衰えることはありませんでした。王の遺骸を守るため、小高い丘を死地と定め、剣も槍も折れた彼らは素手と歯で戦い抜き、全滅しました」


それは、奇跡などない、当然の結末。


奇跡などないからこそ、私はこの戦いが好きだった。


「その僅かな手勢の前に、結局ペルシア軍は二万の死人を出すこととなり、この時間稼ぎによって、連合軍は新たにペルシアを迎え討つための準備が出来た、と言われています──」


おしまい。と私はテルモピュライの戦いについて締め括る。


「何か、寂しい終わりだったけどよ、こう、心熱くなるよな。やっぱりそういう話ってさ」


藤堂さんは大きく伸びをしながら、そう呟いた。


「ですよねえ。だから私もスパルタの戦は全て網羅しているのです。まあ聞いての通り、軍略などはありませんが、心躍る話としては最上かと」


「ん? そういや、お前、そのすぱるたの育成がどうとか言ってなかったか?」


と、伸びたままの体勢で、藤堂さんがふいにそんな声を上げる。


「ああ。そういやそんなコト言ってましたねえ。……えーと、スパルタはそんな兵達を叩き出すくらいですから、国家総出で兵の育成にあたっていたのですよ。まず、体が弱い赤子は産まれた直後に、山に捨てられたり崖から落とされたりして殺されます」


「は!? 産まれた直後に!?」


「はい、そうですよ? 生きている男子は全員七歳から軍事施設で毎日訓練。履物禁止。イジメや暴力は逞しい精神が培われるということで推奨事項──」


皆が、引いていた──。


やはり、ココの時代の倫理観からは少し外れているのかもしれない。


「敵を騙す力となるから窃盗も容認。ただ、手際の悪さは戦闘時において足元を掬うことに繋がるかもしれないので、窃盗が見つかれば、鞭打ちです。ちなみに、私はこの敵を騙すという点は隊士達の稽古にも取り入れています。生き残ってナンボですからね」


良いところは模倣するに限る。


騙し討ちは取り入れているが、窃盗の方は、取り入れようものなら私が土方さんに追い掛け回された挙句、半殺しにされかねないので、そっと、なかったことにした。


「そんな感じで、かの国では成人の儀では短剣一つで街の外に一年放り出され、それでも生き残った者のみが、スパルタ兵になれた、というわけです──」


「なんと言うか……凄まじい話だった……」


軽く頬を引き攣らせている斎藤さんに、私は「あ」と、思い出したことを告げてみる。


「彼らは普段、豚の血に胆汁を入れ、野菜を入れた黒い汁を飲んでいたそうです。ですが、戦争の時だけは美味しいものを食べられる。……彼らにとって、戦争とは決して辛いものではなかった、ということで……あの、ですねえ」


もし、できるならば──。


「斎藤さん、三番隊だけでも取り入れませんか? この名付けて『戦い嬉しい大作戦』。絶対に戦においては今より士気が上がると──」「──却下する」即答。


「はあ……そうですかぁ」


いいと思うんだけどなぁ、と独りボヤく。


「毎日そんな物食わせてみろ。隊士達が首を吊る──」


「けっ、軟弱」


私はぺいっと吐き捨てた。


「お前が図太すぎるのだ……」


ため息混じりの斎藤さんの声を聞き流しながら、私は少しだけ目を伏せる。


実は私はもう一つ、スパルタとこの国と、掛けている部分があった。


それは、スパルタもまた、少し前までの、この国と同じ、鎖国状態であったということ。


スパルタは鎖国されていたが、王が代わり、軍の力が衰えるまでは他国にその領土が脅かされることはなく──。


決して敵がいなかったワケではなく、それは偏に、スパルタが強大な力を有していたから。


私はどうしてもそれをこの国に重ねてしまった。


力があれば、開国をせずにずっとやっていけるのか……。それとも、偉大な王がいなくなった先を考えて、やはり他国と同調しておく道が正しいのか……。


この国にとって、どちらが正解なのか、私には分からない。


分かることは、スパルタは偉大な王がいなくなった後は、やはり他国からの侵略の憂き目に遭ったということだけ──。


と、その時、壁に掛けてあった時計が正午の鐘を鳴らした。


──お昼か。


時間的にもそろそろ山崎さんがやって来る頃だろう。


「また、興味があれば心躍る話の一つ二つ、いつでもお話ししましょう。そうですね、今度は、マケドニアのアレキサンダー大王のお話など……夏の宵に話すには丁度良いかもしれませんね」


なぜなら、長い長い話になるだろうから。ぼんやり寝耳に聞く程度に──暑くて寝苦しい宵の徒然(つれづれ)に話すのが一番だろう。


面白い、続きが気になる!


と思ったら星5つ、


つまらない……。


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