悪役令嬢、皇后達の悪事を暴く
王宮の中。
皇后の部屋の扉がノックされて、皇后が振り返った。
「伝令でございます」
「ーーー入りなさい」
皇后は明るい茶色の、艶のある髪を一つに丸めて、豪奢な飾りで留めていた。服はシンプルながら最高級の質のものを使用している。
皇后は伝令を持って入ってきた男を見据えた。
「伝令とは?」
「は。アラン殿下が市民の者に討たれて、重症とのことです」
聞いて、ガタリと皇后は立ち上がった。
「何ですって?容体は?」
「首を切られ、出血が著しいとのことでした。王宮の前で倒れていたとのことで、現在、アラン殿下は自室に運ばれております」
皇后は頷き伝令を下げた。そして侍女を呼ぶ。
「アランが重症だそうよ。アランの見舞いに行くから支度をして頂戴。皇帝にも伝令は行っているはずね。マルクをここに呼んで」
「承知しました」
と侍女は深々と頭を下げて、皇后の身なりを整えていく。
皇后の、底から沸き上がる笑いが止まらなかった。
「ーーーようやく。ーーーようやくだわ」
ふっふっふっと皇后は目を細める。
皇后の部屋の扉がノックされ、マルクが来たことを告げられる。
「入りなさい」
その言葉で扉が開き、奥から息子のマルクが現れた。発育が良く、すでに大人に近い体つきのマルクは、王族の血を受け継ぐ金髪をしている。だが、母の髪も少し混じっていて、明るい茶色にも見えなくはない。
性格のせいか、ぼんやりとした顔立ちをしていて、不揃いの太い眉にぽってりとした唇。輪郭も歪んで見える。
整いすぎたアラン皇子とは全く似ていなかった。
「どうしたんですか、お母様」
アラン皇子の2つ下のマルク皇子は、少し面倒くさそうに言った。
「アラン皇子が、討たれたらしいの」
「え?」
マルク皇子は目を見開く。皇后は、可笑しそうにふふふと笑って肩を揺らした。
「今にも死にそうということだったわ。すぐにでも治療をしないと」
「ーーー治療をしてしまうの?」
「勿論よ。しないと私達が見捨てたことになってしまうわ」
「そうか……」
マルク皇子は残念そうな顔をする。
「安心して、マルク。聖魔法を使える魔術師は呼ぶわ。でも、治療はしないのよ」
マルクは首を傾げる。
「どういうこと?」
「治療した『ふり』をしてもらうの。治療したけど、間に合いませんでした。ーーーそれで充分だわ。万が一、アラン皇子が自力で助かったとしても、皇帝にこう言えばいいの。『市民に討たれるような評判の悪い人間に、皇帝は務まりません。アラン皇子は皇太子の任を解いた方が賢明でしょう』。そうしたら、最近、妙にアラン皇子を煙たがっている皇帝陛下だもの。そのようにしてくれるわ」
「お母様は賢いな」
マルク皇子は呑気に笑った。
「ーーーアラン皇子の悪い噂を流し続けた甲斐があったわね。ようやく実を結んでくれたわ」
皇后はとても嬉しそうだ。
マルク皇子は少し照れながら、皇后に言う。
「じゃ、じゃあさ。もしーーーもし、アラン皇子が死んだら、リーネ様は僕のものになるかな?」
「え?」
皇后から笑顔が消える。
マルク皇子の頬は赤く染まっていた。
「リーネ様は、『皇后』のお勉強をされたんでしょう?僕が皇帝になったら、リーネ様は僕のものになるよね?」
「……マルク、貴方……」
動揺する皇后の前で、マルク皇子はにっこりと微笑む。
「リーネ様は、キラキラ綺麗なんだ。空に光るお星様みたいだ。僕、リーネ様が忘れられなくて。あんなに綺麗な人は他にいないよ。僕、リーネ様が欲しい。ねぇいいでしょ?お母様。アラン皇子が死んだら、僕がリーネ様を貰っても」
皇后は困ったように考えて、マルク皇子の両腕を軽く掴んだ。
「ーーーマルク。政治というものはね、とても難しいの。貴方がリーネ様を好きなのはわかったわ。でも、リーネ様のお父様は、とても怖いお人なの。あの人が貴方の義理のお父様になったら、きっと貴方も困ることが増えるわ」
マルク皇子は、よくわからない、と首を傾げた。
「ーーーリーネ様は貰えないってこと?」
「いいえ」
皇后はマルク皇子を宥めるように優しく言った。
「アラン皇子が死んだら、リーネ様もただでは済まないわ。アラン皇子が死んだのをリーネ様のせいにして、公爵令嬢から市民にーーーいえ、奴隷以下の地位まで引きずり落とすの。そうしたら、マルク、リーネ様は貴方の妻にはなれないけど、あなたの傍に仕えることはできるようになるわ。そうすればリーネ様は貴方のもの。好きにしていいのよ」
好きにしていい、と言われて、マルクは目を輝かせる。
「わぁ、早くアラン皇子、死んでくれないかなぁ」
明るく言ったマルク皇子に、皇后は目を細める。
「ーーーそうね。本当にーーーー」
うっすらと笑う皇后は、もうアラン皇子の死を確信しているようだった。
※※※※※※※※※※※※※※
皇帝と共にアラン皇子の元に向かった皇后は、アラン皇子の部屋の扉をノックした。勿論、後ろにはマルクもいる。
アラン皇子の返事はないが、代わりに侍女が目を赤くした顔で扉を開けて、深々と頭を下げた。
皇后は、ちらりとその侍女を見てから問う。
「ーーー容体は?アランは大丈夫なの?」
侍女は俯き、悲しそうに頭を下げた。
「魔術師が来て、聖魔法をかけてくださいましたが、一向に回復いたしません。すでに状態が悪すぎると。よほどの聖魔法が使える人でないと、ここまで損傷した身体は回復しないと言われて……」
「ーーーなんということ」
皇后は悲しそうに眉を寄せた。
アラン皇子の部屋に入ると、アラン皇子の部屋は閑散としていた。初めてアラン皇子の部屋に入った皇后は、そのあまりの部屋のシンプルさに、わずかに動揺する。
広すぎる部屋にはベッドとテーブルセットしかない。貧しい市民でさえ、もう少し何か物が置いてありそうなのに。
その部屋の真ん中に置いてある大きなベッドに、アラン皇子は横になっていた。
聞いていたよりもずっと酷い状態のアラン皇子に、皇帝も皇后も、顔をしかめる。
身体は傷だらけ。アラン皇子の整いすぎた顔にも無数の傷がついている。首に巻かれた布に染み付いた血はおびただしく、その布をこえて服までべっとりと鮮やかな血がこびりついていた。
アラン皇子の顔色は明らかに悪く、血の気が引いている。なぜまだ死んでいないのか不思議なくらいだった。
「……これでまだ生きておられるの?ーーー本当に?」
また涙をこらえる侍女に皇后は尋ね、侍女は頷く。吹き出すように涙が零れ落ちた。
「……なんとか持ちこたえておられます」
「アラン。こんな姿になって……」
皇帝は、アラン皇子の顔を見下ろしながら、感情の読めない顔で呟いた。
「皇帝陛下」
皇后は横から、悲しそうに皇帝に申し出る。
「どうした、皇后」
「このようなアランの姿は見ていられません。わたくしがせめて、アランのために取り寄せたお薬をアラン皇子に差し上げてもよろしいでしょうか」
「薬を?」
皇后の横から、薬とコップにいれた水を乗せた盆を持つ侍女が、一歩前に歩みを寄せた。
皇后はわずかに目を伏せる。
「もちろん、毒ではございません。アスピンという、痛みや熱を和らげてくれるお薬でございます。毒味をしていただいて構いません」
皇后がそう言うと、アラン皇子の毒味の侍女が前に出て、その粉薬をわずかに出して水に混ぜ、銀のスプーンに乗せる。
それを確認してから、自分の口に含んだ。
しばらくして、「問題ございません」と返事が返ってくる。
皇后は満足そうにして、皇帝に目を向けた。
「アランの痛みが少しでも楽になればと思っての、母心でございます。どうか……」
皇帝は静かに頷く。
「ーーーわかった。許す」
アラン皇子に、アラン皇子つきの侍女が薬を飲ます準備を始める。
意識がなさそうなアラン皇子のために、侍女は枕を腰から上に重ねて、少し上体が浮く角度を作ってみせた。
そしてわずかな水で解いた薬を飲まそうとした時。
ガチャリと、アラン皇子の部屋の扉が開いた。
「ーーーお待ち下さい」
入ってきたのは、長い薄紫の髪の男。黒いローブを纏い、高い背丈だが、やや細い印象の男だった。
「皇帝がおわすというのに無礼な……」
皇后は突然入ってきた男に怒ろうとしたが、その男が国の英雄であることに気付き、口を閉じた。
皇帝はその男の名を呼ぶ。
「ケリー」
ケリー。魔術師の塔の管理者であり、王宮騎士団第二軍団長。リンドウ帝国最高の魔術師であり、国を守り続ける英雄として、ケリーの名をこの国で知らない者はいない。
ケリー先生は頭を下げて皇帝、皇后、マルク皇子に挨拶をした。
「陛下。申し出もなく御拝顔させていただいたことをお許し下さい」
「ーーー許す。しかしなぜケリーがここに。お前の持ち場ではなかろうに」
ケリー先生は王宮の騎士なので王宮にいて問題はないが、皇子の護衛は近衛騎士が行う。近衛騎士は騎士団の中でも特別な部署であり、ケリー先生はその部署とは関係がなかった。
「いえ、皇后様のお持ちになった薬がどうしても気になりまして。証拠がなくなってはいけないと、つい出てきてしまいました」
その言葉で、皇后はわずかに身体を強張らせるが、すぐに平然として「何のことです」とシラを切った。
皇帝は眉間に皺を寄せる。
「ではケリーは、この薬が毒と申すか。先ほど、アラン皇子の毒味役が毒味をしておったが」
ケリー先生は微笑む。
「それは薬で間違いございません。我が国ではあまり使われておりませんが、西の薬の発達した諸国では一般的に使用される有名な薬でございます」
「では良いではないか」
皇帝は不思議そうにする。
「しかし」
とケリー先生は言葉を切った。
「それは『アスピン』ではございません。名前の良く似た『バイアスピン』という薬にございます」
「違うのか」
「はい。『アスピン』は解熱、鎮痛、炎症を抑える薬として使われますが、『バイアスピン』は作用が違い、頭や胸の大切な器官に血の塊が詰まるのを予防してくれます。こちらも一般的な薬には間違いなく、普通の人間が多少飲んでも問題ございません」
「では、何が問題なのだ」
皇帝の言葉に、ケリー先生はわずかに目を伏せた。
「これは『血が固まるのを防ぐ』薬にございます。つまり、大量の出血するような怪我をした人間が飲めば、血が固まらず、出血が続き、下手したら最悪の事態にもなりかねないかと」
そこにいた皆の視線が皇后に向かう。
「ーーー皇后は確か、薬大国、西諸国の出身でございましたね?それならば、薬にはお詳しいのでは」
ケリー先生が言うと、皇后は慌てて、首を振った。
「し、知りませぬ。名前が似ているから薬剤師が間違えたのでしょう。わたくしはちゃんと『アスピン』を依頼しました」
ほう?とケリー先生は侮蔑の目を皇后に向ける。
「それは、失礼しました。ーーー皇后が『知らない』とおっしゃるなら、そうなのでしょう。大事に至らず、よろしゅうございました。万が一、薬を間違えて飲んだことでアラン殿下に何か良からぬことがあろうものなら、その御心痛は図り知れないものとなるでしょうから」
にこりとケリー先生は皇后に微笑んでみせた。わずかに皇后の顔がひきつる。
さすがケリー先生。魔法だけでなく薬学にも詳しくとは、頭が下がる。知識欲の塊であるケリー先生に知らないものなどないのではとさえ思ってしまう。
「ーーーまぁ、間違えたのなら仕方がなかろう。皇后も悪気があったわけではない。ーーーさて、あまり長居もアランの身体にはよくないだろう。そろそろ行こうとするか」
「ええ」
皇帝に促され、皇后はほっとしたように頷く。2人がアラン皇子の部屋から出ようとして、皇后が自分を追ってこないマルクに気がついた。
「マルク?」
皇后が振り返ると、マルクはまだベッドに横になるアラン皇子の顔を眺めていた。
「ーーー死んでるんじゃないの?」
その声にアラン皇子は動かない。
「こんなに血が出ているんだから、もうすぐ死ぬよね」
「マルク。早くこっちに来なさい」
皇后の呼ぶ声に、マルクは「はぁい」と返事する。
「ちょっとだけ待ってて。これだけ血が出てるんだから、ちょっとその傷を大きくすればきっと」
マルク皇子が、おもむろに腰につけた短剣を取り出すと、アラン皇子にその刃を向けた。
「っマルクッ?」
悲鳴のような皇后の声と同時に、そのマルク皇子の手は、マルク眺めていた顔色の悪い男から掴まれた。
「随分なご挨拶だな。マルク」
起き上がったアラン皇子に、皇后もマルクもぎょっとして目を見開いた。
「アラン!?」
死にそうなのではなかったのか。
そんなに血を流して、生きていることさえ不思議なのに。ーーー皇后達はそんな顔をしている。
アラン皇子は、マルク皇子の腕を掴んだ反対の手で、自分の透き通るような金髪の髪を搔き上げた。
「ーーー具合はかなり悪い。半分ーーいや、1/3程度しか治療してもらっていないしな。ここにきた治療の魔術師は治すふりだけして全く治療しないし。仕舞いにはリーネにこき使われて……」
ブツブツとアラン皇子は文句を言っている。
「リーネ」
とマルク皇子は、アラン皇子の言葉につられて私の名前を呟いた。
あぁ、とアラン皇子はマルク皇子を見る。にやりと笑った。
「リーネはやらんぞ。あんなじゃじゃ馬、マルク、お前には荷が重い」
誰がじゃじゃ馬よ。
私はコンコンとアラン皇子の部屋の扉をノックした。
「入れ」
誰がノックしたかも聞かず、アラン皇子は入室を許可する。私だと知っているから。
「失礼致します」
私は丁寧に淑女らしい態度で、アラン皇子の部屋に入った。
服は鎧からちゃんとしたドレスへ着替え、髪も整えた。細かく言えば、ちゃんと風呂にも入った。
私は皇帝や皇后に向けて、正しいカテーシーをしてみせる。
「リンドウ帝国の星、皇帝陛下におかれましては、ご清祥のこととお喜び申し上げます」
私の姿を見て、皇帝は冷笑する。
「これは公爵家の。リーネだったか。相変わらず美しいな」
「お褒めに預かり光栄にございます」
「アランの見舞いか」
「いえ」
私は頭をあげる合図がないのに、頭をあげる。
「いえ?」
皇帝の疑問符に、私はにっこりと笑った。
「アラン殿下の見舞いではございません。わたくしは、皇后様達の、悪事を暴きに参りました」
「ーーーなんですって?」
皇后は顔を険しいものに変えて、私を睨み付けた。私はそれを無視する。
そして私は、手に持った透明な球体を、皇帝に掲げてみせた。球体はぼんやりと光りだし、その中に映像を映し出す。
皇后の姿が映し出された。
さっきの映像だ。
【治療した『ふり』をしてもらうの。治療したけど、間に合いませんでした。ーーーそれで充分だわ。万が一、アランが自力で助かったとしても、皇帝にこう言えばいいの。『市民に討たれるような評判の悪い人間に、皇帝は務まりません。アランは皇太子の任を解いた方が賢明でしょう』。そうしたら、最近、妙にアランを煙たがっている皇帝陛下だもの。そのようにしてくれるわ】
【お母様は賢いな】
【ーーーアランの悪い噂を流し続けた甲斐があったわね。ようやく実を結んでくれたわ】
ひとまず映像を切る。
皇后は顔が真っ青に変わっていた。
私は皇帝を見上げる。
「皇帝陛下。これは神のギフトで『過去も見渡せる千里眼』にございます。これは真実であり、どのようなものでも、その過去を映し出せます。もちろんーーーお望みであれば、皇帝の『過去』さえも」
私は皇帝に憑依していることを知っているのだと匂わせる。
「ほう……」
皇帝は自分の長い豊かな髭を撫でて、私を眺めた。
「それはまた、面白くも貴重なものをもっておるな」
「学園の『プレゼントボックス』でいただきましたの」
「そうか」
皇帝はそう言うと、興味なさそうに左手をあげて、近衛騎士を呼んだ。
「この娘を捕らえよ。牢屋に閉じ込めておけ」
言った皇帝の言葉に、さっきの透明な球体の映像を一緒に見ていた近衛騎士達は「え?」と言って戸惑う。
捕まえるなら皇后達であり、私ではない。
だが、皇帝は近衛騎士達を睨み付けて、もう一度言った。
「何をしている。この娘を捕らえよ。勅命だ」
「はっはい」
騎士は慌てて私の腕に手を伸ばそうとした。
それを別の手が伸びて叩き落とす。
なに、と近衛騎士達が私からその方に視線を移すと、そこにはジルお兄様がいた。騎士達はジルお兄様に気付いて驚いてみせる。
「ジルッ!!」
ジルお兄様は今年から近衛騎士として働いている。この人達はジルお兄様の仲間だ。そのジルお兄様が急に現れて戸惑っていた。しかもジルお兄様は騎士の服でなく、普段着を着ている。
ジルお兄様は、もう左腹部を手で抑えていなかった。
アラン皇子の方から女性の声が聞こえた。
「アラン殿下。すぐに残りの傷を治療しますね」
アラン皇子のすぐ横で声をかけたのは、ピンクのフワフワの髪の少女。
聖女のスミレだ。
ジルお兄様の転移魔法でスミレと一緒にこの部屋に来てくれた。他の人からは急に現れたと思われただろう。
ーーー急に現れたんだけど。
つまり。
こういうことだ。
義賊『ピュアカルマ』の基地を征服した私は、次の問題に気づいた。アラン皇子とジルお兄様。その二人がすぐにでも死にそうな状態だったということだ。
転移の魔道具は三人しか使えない。
私は自分が抱えることしか思い付かず、意識が薄れていくジルお兄様から無理やりスミレの場所を聞き出して、立派な成人男性の体格の男二人を担いで、スミレのところに転移の魔道具で飛んだ。
二人を担いで現れた私を見た時のスミレの驚いた顔は、見た人にしかわからない面白いものがあった。できればジルお兄様に見せてやりたかった。
スミレは確かに、成長していた。
聖女として大魔王を倒せるかは別として、傷の手当てくらいならすぐに治せるようになっていた。
ジルお兄様の腹部が焼け焦げているのを見た瞬間、駆け出して治療を始めた。
どちらかといえば血を流し過ぎたアラン皇子の方が死にそうだったのだけど、スミレのジルお兄様を見る瞳を見ると文句も言えなかった。
ジルお兄様が回復して、ようやくアラン皇子の治療に移ったが、私はその途中でストップをかける。
それにはアラン皇子、ジルお兄様、スミレが「えっ」って私を化物か悪魔でも見るような顔で見ていた。
治療を途中で止めるだけで何故そんな顔をされなきゃいけないかわからないのだけど。
王家の人間を騙すには、まだアラン皇子には大怪我をしていてもらわないといけなかった。死なない程度に傷を回復してもらって、アラン皇子を王宮の外に放り投げた。王宮の人間達がアラン皇子が行き倒れているのに気付いて、慌てて皇子の部屋に連れていってくれる。
アラン皇子には、私達がアラン皇子の部屋の近くに来たら、透明な球体を使って皇后達の様子を映し出してもらうように頼んだ。球体を使うには相当の魔力がいるようだが、状況が状況だ。仕方ないと諦めて頑張ってもらうしかない。
心底ぐったりしたように運ばれていくアラン皇子の様子を陰から見ながら、私はアラン皇子の演技の上手さに感心する。
その後、私はジルお兄様に飛んでもらい、ケリー先生のところに行った。ケリー先生に詳しく状況を話し、ケリー先生に協力を依頼する。たまたまケリー先生のところにノクトがいたので、ノクトにも協力をお願いした。
計画の名前は『王家の悪い人間だけを捕まえよう』作戦だ。ケリー先生とノクトは、私の作戦名が気に食わず小言を言ってきたが、私がひと睨みすると二人は黙ったので満場一致ということにした。
準備を整え、ジルお兄様にお願いして転移の魔法で、アラン皇子の部屋の裏手の部屋に飛んだ。アラン皇子は、繰り返し透明な球体を使う中で、少し離れていても球体に魔力を流せるようになったらしい。そこに私が触ると、比較的簡単に過去まで見れることがわかった。
私達は、ずっと皇后達の様子を見張っていた。アラン皇子が死にかけていると何かしらの動きを起こすと踏んでいたのだ。
案の定、皇后は動きだし、皇后の今までの悪事も確認できた。
球体を見ていたケリー先生は、皇后がアラン皇子に飲まそうとした薬の違和感に気付き、飛び出していったのが作戦とは違うけれど。
ーーーそういうわけで。
皇帝が私を捕らえようとするのも、多少は想定内であった。
そして今。
ジルお兄様が、捕らえられそうになる私を助けてくれて、スミレはもう怪我をしたままでいなくても良くなったアラン皇子を治療しているというわけだ。
アラン皇子、ジルお兄様、そしてケリー先生。
この国の最強の男が三人も揃っていて、私も全く負ける気がしない。
例え、それがこの国の皇帝であろうと。
私は皇帝を前にして、少しだけ笑った。




