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ベックサイド~ボスと皇子と公爵令嬢~

「なんでこんなことに……」


 俺は、義賊『ピュアカルマ』の基地の中で、リネとともに突然現れたアランという男と、『ピュアカルマ』のボスとが対峙する姿を、呆然として眺めていた。


 魔法という存在は知っていた。

 ギルドのメンバーにも、魔法を使える人間はたまにいて、火や氷を使ってモンスターを倒すことができる。だがその威力は、火のついた矢を飛ばすより少し大きい程度。大きくても焚き火程度の火でしかない。

 それをいくつ発動できるか、そういう戦いだった。


 目の前で吹き飛ばされるほどの爆風、巨大な氷の粒の雨、家をも焼くほどの炎、そして洞窟の中なのに発生する雷。そんな魔法の猛攻を、出したり防いだりーーー。

 魔法の戦いってものは、ここまで酷いものじゃないはずだろう?

 これでは天災の猛襲だ。ただの人間が、こんな攻撃をしていいものなのか。


 しかも2人は魔法だけではなかった。剣の腕前も尋常ではない。剣の達人と言われる人がそうであろうという鋭さで、目にも止まらぬ速さの剣を振るい続ける。剣に魔法を流して魔剣にするのも、俺は初めて見たというのに。


 王宮の襲撃のために集まった腕に自信のある連中も、2人の攻防に茫然自失となっている。まるで目の前で起こっていることが、夢の中の出来事のようだ。


 戦いが始まる前、そのアランという男に手を握られていた白い鎧の男ーーーいや、女であったリネは、2人から『リーネ』と呼ばれていた。それが本来のリネの名前なのだろうと察する。

 リネは、2人の戦いに交ざることなく、狼狽えながらその様子を眺めていた。基地は、見たことないほどの立派な素材で作られていて、そんじょそこらの攻撃ではびくともしなさそうなのに、2人の攻撃のせいで壁はひび割れだしていた。地鳴りのような音も聞こえる。

「な、なに、この音……っ」

 リネは大声で2人に叫んだ。

「ちょ、ちょっと貴方達ーーー。アラン、ジルお兄様。もうやめて頂戴。この基地が壊れてしまう」

 そのリネの言葉は、戦う2人には届かないようだった。


 ボスの持つ剣が明るく光る。あの光のように輝く色は雷。ーーーそれにしても眩しい。

 その眩しさは普通の雷魔法ではあり得なかった。


「ーーー剣を構えろ、アラン。お前が勝つか、俺が勝つか」

 その言葉でアランという男が剣を構え、歯をみせて笑った。

「いつかジルとは本気で戦ってみたいと思っていた」

 男が剣に魔力を流すと、その剣が青く燃え上がる。戦いの中で生きる連中がどよめいた。 

 青い炎など聞いたこともないが、青い炎が出現した途端、広いフロアの温度が一気に上がった。かなりの高温だとわかる。

 リネも慌ててアランという男を止める。

「ちょ、ちょっとアラン。それはダメよ。いくらなんでもそんな温度。ジルお兄様が死んでしまうわ」

 青い炎は燃え盛り続ける。

「やめて……っ」

 リネの悲痛な声でようやくアランという男がリネを見た瞬間、アランという男の首をボスの剣から発動した光が貫いた。

 アランの首の横から血が大量に流れ出す。

「アランッッッッ!!!!」

 リネは悲鳴を上げた。

 男の首の肉がえぐられている。しかしたった一瞬だったのに、ギリギリで急所を避けたところは流石だ。だが大きな穴のために血は止まりそうにない。即死は免れたが、出血多量でこのまま死ぬ可能性はある。男は自分の服を破いて、止血のために首に布を巻いて圧をかける。それでも血はとめどなく溢れていた。すでに倒れてもおかしくない量の血がでているはずだが、アランはリネに意地を張る。

「気にするな。これくらいのハンデがあった方が、ジルにはちょうどいいだろう」

 また青い炎を出すと、今度はもっと大きな炎になっていた。あの傷でその魔力。

 化け物か、あいつは。


「ーーー待っていろ。すぐに終わらせる」

 アランがボスを睨み、その炎の剣を振ると、ボスの横腹に激しくぶつかった。

 ボスは防御魔法を使っていた。普通の攻撃程度なら無効化できるはずのその防御魔法を使用していてなお、ボスは遠くの端にある壁にぶち当たる。ぶつかった壁が壊れ、ボスの上から崩れ落ちた。

「きゃあっ!ジルお兄様!!!」

 腹部の肉が焦げ、中から鮮やかな赤い肉が見えているボス。歩いて戻ってくるボスの口から血が溢れた時に、相当のダメージだったことを知る。

 

 2人とも立っていることがおかしいほどの傷だ。

 それなのに2人はまだ目はしっかりと生きており、2人はお互いの隙を狙っていた。そしてーーーー衝突する。


 その時、リネが走り出した。その2人の方に。

「止めてっ!!!!」

 あっと思った時には、リネはすでに2人の間に入っていた。自殺行為だ。俺には止めることもできなかった。


 しかし彼らは、ものすごい身体能力の持ち主なのだろう。リネに気付いて、瞬間、攻撃を無理やりねじ曲げた。

 ありえない。爆弾を掴んでその軌道をむりやり変えるような行為だ。

 相当、身体に負担がかかる。

 どれだけリネが2人から大切にされているか、それだけでもわかるというものだ。

 それでもリネには、わずかに頭に攻撃が当たってしまったのだろう。地面にしゃがみこんでいる。アランという男と、自分の脇腹を支えたボスがリネに近寄った。


「リーネ!!!大丈夫か?」

「リーネ」

 リネは、しゃがんだまま震えていた。

 ボス達が心配そうにリネの兜に触れた時。

 白い兜が割れた。

 割れると同時に、リネが大声で叫ぶ。

「……大丈夫なわけーーーあるかぁっ!!!」

 アランという男とボスが、大きく目を見開く。


 しかしそれ以上に驚いたのは、俺達の方だった。


 兜の中から現れたのは、見たこともないほどの絶世の美少女だったからだ。


 白銀の髪は輝くように美しく、整った顔立ちに白い肌は掃き溜めに鶴が舞い降りたよう。そして空を思わせる深い青色の瞳は宝石のように大きく、鮮やかな赤い唇はその少女の若さを顕著に表していた。


 ーーーいや、鶴ではない。

 舞い降りてきたのは、天使だ。


 そこにいる全ての人間が、リネの姿に目を奪われてしまっていた。あまりの美しさに、自分の目がおかしくなったのかと目を擦る人もいる。


 何もしているわけではないはずなのに、フロア全体が光に溢れ、色が変わって見えた。華やかな香りさえ漂っているかのような幻に襲われ、どこか違う場所に来てしまったかのような。

 

 天使でなければ女神だろうか。

 ではここは天界か。


 ーーーそう思った時に、思い出した。


 あの時。公爵領のダンジョン8階の虹の泉でのことを。虹の泉の中に入るなんて常識知らずのことをしでかす大馬鹿者がいるかと思ったら、女神の水浴びだった。

 あの感動。


 フーイに話しても信じてもらえず、俺はあれからダンジョンに行く度に、また女神に会えないものかと探してしまっていたが。

 

 あれはリネだったのか。

 そういえば女神に会ったすぐ後で、白い鎧をつけたリネに会った。


 ーーーーなんということだろう。


 俺が再び女神に会えた感動にうち震えそうになっていると、近くにいた若い男の1人が突然倒れた。


 どうしたのかと不思議に思っていると、またすぐ傍にいた男が眩暈を起こして倒れる。

 なぜ、と思う。

 すると今度は急に斜め前の男が泣き出した。女神様と呟きながらリネに手を合わせる。死んだ家族を想い、何度も何度も家族のあの世での無事を祈った。

 1人が泣くと、連鎖して厳つい男どもが泣き始める。


「……な、なんだ。ーーーどうなっている」


 俺は辺りを見渡し、異常とも言える光景を恐ろしく感じてしまった。

 リネはただ、顔を兜から出しただけだ。たったそれだけで、人が狂い始めている。

 こんなことーーーあっていいのだろうか。


 リーネが怒鳴ったボスとアランという男も、目の前でリネの魅力に当てられて立てないでいる。ボスなど自分の妹だというのに。 

 意味がわからない。

 

 リネは一人だけ立ち上がり、周囲をぐるりと見渡す。

 そしてリネは、凛とした声で皆に伝えた。

「ーーー戦いは終わりです」  

 どよめきが起こった。

 それもそうだろう。ここに集まったやつらは、自分の命をかけてここに集まっている。何もしないまま、いきなり「終わり」と言われて納得するはずがない。


 リネの不思議な力でおかしくなっている人間もいるが、まだ大半は意識をしっかり保っている。ボス達の戦いに尻込みはしても、まだ諦めたわけではない。


 どんなことをしても、皇帝を、ーーー王家を倒すと心に決めたやつらだ。そう簡単に心を折られるはずがなかった。

 それを察してか、リネが遠くまで通る声で俺達に話し始めた。

「お聞きなさいーーー。わたくしは、この国のグランドロス公爵家が娘。リーネ・アネット・グランドロス」 

 ざわめきが更に強くなった。

 多くの者が、驚愕していた。


 ーーー公爵令嬢ーーーだと?

 この国唯一の公爵家。

 王族の血を引く、高貴な血筋。

 庶民には会うことさえ難しいとされる高位貴族の筆頭。


 なぜそんな人間がこんなところに。

 ーーーいや、それならば、その兄であるというボスは、まさかグランドロス公爵子息。

 あの、天才にして剣術の達人と呼ばれ、微笑の貴公子とも言われる国の女どもの憧れ。酒場で何度、その男の武勇伝を女達から聞かされたか。


 そして、とリネは話を続けた。


「ここにおられるお方は、この国の皇太子、アラン・ジータ・リンドウ第一皇子です。ーーー貴方達が倒そうと立ち上がった、その王族の1人」


 今度こそ、そこにいる全ての人間が驚いた。


 皇子だと?

 あの男が、この国の皇太子。

 今でこそ悪名が蔓延しているが、元々は国の英雄としてものすごい人気があり、アラン皇子がいればこの国は永世まで安泰と他国の王から言わしめたという男。


 俺達の最終的な標的の1人であり、その強さゆえ倒すのは一番困難だと、計画だけで何度も論争になった。アラン皇子は怪物だ、そう、あちこちから聞いた。

 

 まさか、そのアラン皇子が、目の前に。


「貴方達のボスであるジルお兄様と、アラン殿下との戦いの決着はつきました。2人は共存を選ばれた。ーーー戦いはここで終わりです」

 ざわめきはどんどん大きくなっていく。

 王族側の人間が基地に侵入している。騙されたのか。

 この計画は本当に大丈夫なのか。


 リネは諭すように語る。

「王宮には、大勢の騎士がいるでしょう。その人達は、王族を守るために死に物狂いで抗ってくるはず。ーーーそのうちの一人、ケリー第二騎士団団長は、さきほどの戦いをした二人よりも容赦ない魔法で貴方達を叩きのめすはず。彼の噂は、皆様もご存知でしょう」


 ケリーという男の名を聞いて、顔を青ざめた人は多い。魔術師の塔の管理者であり、騎士団団長の一人。

 世界にも名が届く彼は、ギルドで魔術師の目標とする人物第一位を独走し続けている。 

 

 そうか、王宮にはケリーがいるのかと、今頃気づいた人間も多いのかもしれなかった。


「命を無駄にすることは許しません。ーーーそれは、貴方達も同じです。貴方達にも守りたい人がいるはず。その人達は、貴方達の帰りを必ず待っています」

 

 リーネ・アネット・グランドロス。

 その名前は俺も知っている。

 悪魔の生まれ変わりではないかというほど残虐性を持ち合わせた令嬢のはずだ。

 ボスがリーネと呼んでもピンとこなかったのは、どう考えても俺の知るリーネが、そんな非道な人間には見えなかったからだ。


 俺はリネに何度も助けられた。リネがいなければ、俺は今、ここにはいないだろう。

 そんなやつーーーいや、そんな女の子が、本当に極悪非道であるはずがない。


 むしろ、リネが公爵令嬢という方が間違いないのではと、リネをもう一度見て、俺は改めて目が潰れる思いをしてしまった。


 白銀の髪の少女の美貌が、何度見ても一般のそれではない。仕草も気品に溢れ、凛と立つその姿は、俺とは住む世界の違う世界の人間なのだと思わされた。


 その雲の上の存在が、下々の俺達に優しく語りかけている。

 守りたい人のために生きなければ。そう女神のような姿に言われたら、そんな気がしてきた。リーネの言葉に感銘を受けて、心を洗われた表情で涙を流す男もいる。


 リネはこんなにも天使の心を持った、美しい女神だったのか。

 そう思った時。

 リネが真面目な顔をして言った。


「この戦いは終わりです。ーーーそれでも、どうしても戦いたいというのであれば、この、リーネ・アネット・グランドロスがお相手致します」


 リネは腰につけた剣を引き抜いて、俺達に向けて構えた。目力だけで圧倒されるが、リネの剣の実力は、ここにいるむさ苦しい男達の中では俺が一番よく知っている。


「アラン殿下やジルお兄様ほどはなくとも、わたくしもそれなりに強いのですよ。さぁ、かかってきなさい」

 腕が立つ人間ほど、リネの気迫と剣の構えだけでその実力を理解し後退る。だが、それがわからない男もいて、リネの前に歩み寄った。


「……遠いところから、わざわざこんな土地まで来たんだ。ここでのこのこ帰れるはずが……」


 そこに、首を深く傷つけたアランという名の皇子と、俺にとっては見たこともなかったボスが、リネを庇って前に出てきた。


 ボスの顔を見て、前にでた男の顔がひきつる。

 ボスは各地を回って人を集めていた。この男も、ボスの言葉で王家を倒そうと立ち上がったはずだ。


 ボスは男に優しい声で言った。

「君も王家が憎かろう。先の戦争で、大切な軍も、家族も奪われた」

 男の目に涙が滲む。

「っそうだ。だから俺は…っ」

 だが、とボスは男の言葉を遮って男を睨み付けた。

「それと君が俺の可愛い妹を傷つける行為とは別だ。ーーー妹と戦うつもりなら俺が……」

「ジルお兄様」

 リネの声がボスを止めた。どうしてこんなにも女らしい声なのに、俺は男と思い込んでいたのだろう。

「リーネ?」

 ボスはなぜ止める、という顔でリネを見つめる。

「良いのです、ジルお兄様。この人は苦しんでいるのでしょう?納得できないまま押さえつけると、その反動は悪い方に向かいます。ーーー私の敬愛するお方のように」


 何のことかわからないが、ボスは納得したようだ。

「……そうだな」

とボスは頷き、リネも頷き返しながら、にっこりと優しく微笑んだ。


 横でそのリネの笑顔を見ていたアラン皇子が、一気に顔を真っ赤にして自分の目を塞ぐ。そしてふらついた。目を塞いだから足元がよろけたのか、眩暈を起こしたからふらついたのかはわからないが、アラン皇子がリネの事を好き過ぎることだけは明らかで、俺はアランという王家の人間を、少しだけ好意的に思えてしまった。


 そんなアラン皇子を気にもせず、リネはボスを嗜めた。

「この方は、知り合いであるジルお兄様ではダメですわ。ーーーこれでも王の血を引く人間であり、か弱い女性でもあるわたくしが、ーーーこの方をこてんぱんに倒して、心をボキボキに折ってさしあげませんと」

 リネが物騒な事を言った。

 ボスも妹を止めない。むしろ、成長した我が子を見るように、温かい瞳になっていた。

 妙な兄妹だった。


 リネは周りをぐるりと見て、声をかける。

「ーーーさて。お待たせ致しましたわね。他にも誰か、我こそはというお方がいらっしゃったら、御一緒にどうぞ。わたくしは構いませんわよ。ーーーさぁ」


 リネの言葉に動く人は誰もいなかった。

 リネは少しつまらなさそうにして、歯向かってきた男に目を戻す。リネが一歩前に出ると、男は一歩下がった。とても顔色が悪い。

「……なんですの?わたくしと戦うために出てこられたのでしょう?それでは戦えませんよ。あぁ、間合いがわたくしとは違うのですね。それは失礼致しました。良いのですよ、どのタイミングでも。どの位置からでも。お好きにかかっていらして」

 笑うリネが、俺には恐ろしかった。

 言葉遣いはとても丁寧なのに、なぜこんなにもリネを怖いと思うのだろう。

 

 しばらくリネは待ったが、かかってこない男にしびれを切らしたらしい。しびれを切らすにはだいぶ短い時間だったが。相変わらず、リネは気が短い。

「……かかってこないのなら、わたくしから行きますわね」

 リネは男の方に歩いていく。

 散歩の途中、折れた木の枝を見つけて、その枝で別の枝を叩いて遊ぶような軽やかさでーーーリネは男の剣を叩き折った。


 え、と、剣を折られた男だけでなく、周りにいる連中も目を見開く。

 俺だけはリネの剣の鋭さを知っているから驚かなかった。初めてリネに会ったあの日。巨大で頑丈なホワイトベアーの首を、小さい人間がたった一振りで斬り落としたあの衝撃は忘れられないでいる。


 リネを相手にする方が悪い。

 そう思うしかない。


 リネが楽しそうに笑った。

「何を驚くことがあるのです。鉄の扉なら時間がかかるでしょうが、たかが鉄剣」

「……ひぃ」

と男は短く悲鳴をあげた。それも仕方がないかもしれない。あんな間近でリネの美貌を見た上、自分の剣を簡単に折られては、心も一緒に折れるだろう。

 女神の怒りに触れた人間の末路だ。


「さて。剣が折れてしまいましたわね。別の剣を持ってきますか?それならお待ちしますが……」

 リネの言っている途中で男はその場から逃げ出した。

「ーーーあら」

 残念。

 リネの顔にそう書いてある。


 リネがぐるんと周りのやつらを振り返ると、目を反らす人が幾人。あとは、リネに目を奪われて思考が停止してしまっている人が大半だった。

 つまり、そこにいる殆どの人が戦意喪失してしまっていた。

 リネはそれを一瞥して、俺の名を呼んだ。

「ベック」

 リーネが俺の名を呼んだ瞬間、アラン皇子が俺の方を睨み付けてきた。

 あのお綺麗な顔の皇子様は、首を怪我して死にそうなんだから、そっちに集中しておけばいいと思うのだが。

 できるだけ皇子を気にしないように努めながら、俺はリネに返事をした。

「何だ」

「王宮を襲撃する予定の一万人は、もう出発しているのかしら」

 リネの透明にも似た青い瞳に、吸い込まれるような感覚に襲われる。俺はゾッとして、リネの顔を直視するのをやめた。

 リネは綺麗すぎて、徐々に恐怖さえ感じ始めた。

 こんなにも人間離れしている存在に対して、目をハートにできる人間の気が知れなかった。

 でも、リネはリネだ。

 姿を気にしなければ、良いヤツであることを俺は知っている。

 俺はできるだけリネの顔を見ないようにしながら返答した。

「そいつは、ボスからの合図を待っている。ボスが合図を出さない限り、王宮に攻めいることはないだろう」

 その言葉に、リネはボスを向いてボスの意思を問う。

 ボスは小さく首を振った。

 ーーーもう、王宮を襲う気持ちはないのだと、そういうことなのだろう。

 ボスも腹部を激しく焼かれ、今にも倒れそうな顔色をしている。すぐにでも治療しないとまずいことになりそうだ。

 これでこの計画は終了したのだとーーー誰もが思ったその時。

 リネが呟いた。

「ーーーいいえ。王宮を襲いましょう」

 

 そこにいた誰もが、自分の耳を疑った瞬間だった。

 


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