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ずっと一緒に。異世界ライフ  作者: 江野喜けんと
第1章 やってきたのは裏世界?
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VS爆裂の雨

 大蛇との戦いを終え、俺たちは林を抜け、再びマンション街に戻ってきた。


 俺たちがいたマンションはもちろん、近隣の建物や道路なども激しい他の参加者による戦いの痕跡でボロボロになっていた。


 「美月ちゃんの髪っていつもセットしてるの?」


 「最初はただの癖っ毛だったんですけど、良い感じのカールになったんでそのまま維持するようにしたんですよ〜。」


 美月さんと綾は俺の少し前で世間話に華を咲かせている。綾のことだから警戒を怠っていることはないだろう。


 …先ほどの綾のキャドーの覚醒。一層氷としての特性が強くなっていた。


 あの時の綾の眼は恍惚に満ちていたが、俺としては僅かな恐怖が迫り上がっていた。


 …このままだと、綾の全てを知ってしまいそうで怖い。


 綾のことはほぼ全て知っているつもりだ。さっきの変化も想像に難くない。だが…



         ◇ ◇ ◇


 「キャドーには第1から第5まであり、5に近づくほど、その人間の本質に近い力が発現するようになる。まぁ、第5まで発現する者はそういないわけだが。」


         ◇ ◇ ◇


 双葉さんの説明が頭をよぎる。第2キャドーでさえ、すでに俺や美奈たちしか知らないような綾を引き出していた。


 このままキャドーを発現させていっていいのだろうか。


 全てのキャドーが目覚めることで、俺が全く知らなかった綾が現れたりしないだろうか。


 綾のことになると、僅かな懸念でも心が揺らぐ。

 

 「先輩聞いてますか〜?」


 美月さんに声をかけられて意識が眼前に戻る。


 「ん、あぁごめん、聞いてなかった。」


 「先輩はキャドースピリッツに優勝して何を願うんですかって話です。」


 元の世界への帰還だけど…正直に話すわけにもいかない。


 「俺たちは具体的な願いはないよ。ほら、祭りにノリで参加する感じだ。」


 「ふ〜ん…まぁそうですね。なんか先輩たちルールもあやふやみたいですし。」


 美月さんはそれで納得してくれた。この世界の知識の無さが逆に幸いしたらしい。


 「美月さん、君の主観で良いんだが、俺たちの優勝は叶うと思うか?」


 「無理だと思います。」


 「あちゃ〜ノータイムで言われちゃった〜。」


 絶望、俺たち勝ち目ゼロ。


 「綾先輩があそこまでの実力者ならワンチャン…と思ったんですが、キャドースピリッツで勝負を決めるのはやっぱりキャドーです。そして先輩たちのキャドーはぶっちゃけ弱い。」


 「ぶっちゃけられた。」


 「仮に綾先輩がさっきのキャドーを使いこなしたとしても、良い所さっきの源氏迷さんと互角くらいだと思います。まぁそれでも超絶強いわけですが…。とにかく、グランド7の白煌と星姫が参加してるわけですから、優勝はそのどちらかでしょう。」


 グランド7…双葉さんがチラッとそんな感じの単語を漏らしていたことがあったな…。

 聞きたい情報ではあるんだが…。




 ポトッ…ポトポトッ、、


 「久来っ!」


 「あぁ!」


 俺は1コンマ早く落ちてきたソレを掴んで前に放り投げる。


 「えっ、せんぱ……わわっ!?」


 俺は美月さんの襟を掴んで後ろに飛んだ。


 直後、前方から大きな破裂音。同時に地面に大穴を開ける。


 「きゃぁ!」


 俺と入れ替わりで綾が進み出て、残った数瞬遅れのダイナマイト目掛けて、


 「真剣・土竜弾板!」


 足からの衝撃で放った剣山を突き立てる。


 ダイナマイトは打ち上げられ、上空で爆発。


 「き、奇襲っ?」


 「そうだっ。上から来るぞっ。」


 見上げると、そこには空を浮いている人の姿が。


 「やっべえぇ!! 今の爆発はやべぇぜぇ!! まじやべぇぜ! やべぇ!! 芸術はやべぇ爆発だぜぇ!!」


 奇声を上げる男は再びダイナマイトの雨を降らせる。


 「どう考えてもヤベェのはあの人の頭ぁ!!」


 「何度も同じ手は喰らわないよっ。」


 綾が地面に手を当てると辺りに冷気が蔓延し、鋭い氷塊がいくつも宙に浮かび上がる。


 「はっ!」


 綾の合図で氷塊が飛んでいきダイナマイトと衝突。そのまま凍らせて無力化する。


 「やっべぇ! 氷とか相性悪すぎやっべぇ! でも頑張る俺やっべぇ!」


 ダイナマイトの雨と綾の氷塊が衝突し合う。


 「これでも…喰らえっ!」


 氷塊刃を直接男目掛けて発射する。


 「ははっ、やっべぇくらいおせぇ!」


 男はただの空中移動ではなく、噴射するような勢いで避ける。


 「だったらっ…これでぇ!」


 今度は複数の氷塊を作り出し、手で握る。


 「はぁっ!」


 そのまま投擲。綾の技術と膂力により、先ほどの発射の倍近いスピードで男に氷塊が殺到する。


 「あらよっ、やっべぇいきなり早くなりすぎ! でもそれすら避ける俺はもっとやべぇ!」


 男はまたしても回避。


 「くっ…速いっ…!」


綾が苦々しい顔をする。


 「それは…傍迷惑なんです…よぉ!!」


 美月さんが続けて煙幕を発射、上空の男に覆い被さる。


 「大丈夫か…流石に空を覆い尽くすには…」


 「心配ご無用ですっ。」


 すると、美月さんの背中に小さな黒いコウモリのような羽が生える。


 「桃色大煙幕・夢魔出力(アラモード)!」


 美月さんが放つ煙幕が爆風の如くうねり、あたりの空中一帯がピンク一色になった。


 「あああぁ!? 見えねぇ! 見えねぇぞ!やっべぇ! ヤッベェマジで見えねぇぇ!!」


 やっべぇやっべぇと男の狼狽える声が聞こえる。


 美月さんから翼が……そして今までとは桁外れの威力を持つ煙幕。一体どこまで彼女は実力を見せているのだろう…。


 「あ! でも見えなくても関係なくね!? やっべぇ!」


 ポイポイポイッ


 「わああぁ!? 適当に投げてきたぁ!?」


 「久来と美月ちゃんは下がってて。大丈夫、ここは私がやっつけ」


 俺は黙って前に出ようとする綾を手で制する。


 「綾、ここは俺に任せろ。」


俺が言うと、綾は一瞬呆けたがすぐにカッとなって、


 「ダメだよ久来っ! これはただの喧嘩じゃないのっ、変なカッコつけはやめ」


 あ……!


 美月さんのか細い声と綾の声が被る。目の前には男が放ったであろう鉄棒。大回転しながら俺たちに迫る。綾は目を剥いていたが…


 グシャァ!!


 俺は綾の顔を見たまま拳大の石を握りぶつけた。鉄棒は歪んで地面に叩き付けられる。


 「…え?」


 「…やっべぇ…。」


 辺りが静かになる。


 「カッコつけじゃない。俺の方があいつの相手には適しているあんまし俺を舐めるなよ綾。黙って俺の背中にいろ。」


 「………うん、ごめんね久来……ちょっと天狗になってたよ…。」


 綾はしおらしくなって項垂れる。


 俺はそんな綾の肩に手を置いてニッと笑う。


 「心配すんなっ。お前を守るのは俺の役目だからな。それにここまでほとんど良いとこなしなんだ。少しは役に立たないとなっ。」


 「…ふふ、やっぱりカッコつけじゃん。」


 そして煙幕が晴れ、男の姿が見え…あれ?とっくに晴れてる? よく攻撃してこなかったな…。


 ボガァン!!!


 …美月さんが1人で俺たちを守りながら耐えていた……。


 「やっと戻ってきましたかぁ〜せんぱぁい?」


 美月さんが鬼神の表情で振り返る。


 ひぇ……


 「なぁ〜んか2人でいい感じの雰囲気だしてましたね〜? よかったですね〜私がやっさしい〜後輩で身を挺して守ってあげてぇ?」


 美月さんの手にはいつのまにか槍。あれで戦っていたのか。


 「やっべぇ! 攻撃を続けるぜやっべ」


 「五月蝿(うるせ)ぇ。」


 「はぃ…。」


 男は美月さんの威嚇で攻撃を中断。


 「お約束で敵が待ってくれると思いましたぁ? まってくれませんよねぇそんな仮◯ライダーやプ◯キュアの敵じゃないんですからぁ? 私が1人で耐え忍んでたんですよぉ? 何? 自分ら主人公補正かかってると思った? アホか? 阿呆なんか?」


 「い、いや…美月さんも今敵を威嚇して待たせて」


 ガンッ!


 「()?」


 槍で地面を突く。


 「なんでもありません…。」


 「申し訳ありません…。」


 俺たちは2人揃って縮こまる。


 「まぁ、時間の無駄なんでこれ以上は言いませんけど…。ほんとお願いしますよ先輩。大見得切ったんですからとっととぶっ飛ばしちゃってください。」


 声低いっ、声低いって美月さん怖いっ!


 「よ、よしやるぞ! おい、待たせたなっ。」


 「お、おう。…っしゃいくぜぇ! やっべぇ!」


 俺たちは同時に動き出す。俺の手には2本の氷塊。


 「美月さん、煙幕頼むっ。俺たちの周り一帯にだっ!」


 「おまかせくださぁい!」


 声の調子が戻った美月さんが煙幕を撒き散らす。


 「喰らえぇ!! やっべぇぜ!」


 そしてダイナマイトの雨。


 「やぁ!」


 綾が氷塊で相殺。言われた通りサポートに徹してくれるらしい。


 「さっきからポロポロ落としてきやがって…投擲ってのはなぁ…」


 俺はこれまで何万ととってきたポーズで…


 「がぁっ!?」


 氷塊は、次の瞬間男の右肩に突き刺さっていた。


 「こうやるんだっ。」


 久々の全力投球。体が鈍ってなくてよかった。


 「せ、先輩の投げた氷…はっや……。」


 「それは当然だよ。なんたって久来は…。」


 「はっ!」


 男が氷塊を引き抜いているうちにほぼ凹凸のないマンションの壁をよじ登る。あるのは窓とベランダの突起だけ。でも、それだけあれば十分。


 あっという間によじ登り、俺はもう一つの氷塊を振りかぶる。男とは、最後の瞬間に目が合い、驚愕に見開いて


 やっべぇ…


 と言う口の動きを最後に、俺は氷塊を投擲し、男の胸を貫いた。


 「最強のフィジカルを持つ、私たちの世界NO1球児だからね。」


 綾がそう言った瞬間、男の手に持っていたダイナマイトが大爆発し、決着の花火として飾った。


 



 相手自滅により、撃破ポイントなし。



 

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