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ずっと一緒に。異世界ライフ  作者: 江野喜けんと
第1章 やってきたのは裏世界?
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VS純白の大蛇

 「久来!」


 「先輩、大丈夫ですか!」


 八百屋のシャッターを開けると、綾と美月さんが駆け寄ってくる。


 「いや…、狙撃手は倒したが、美奈がやられちまった…。」


 「そんな…美奈さんが…。」


 美月さんが眉をハの字にして言う。


「久来が3分の1くらい削ってたからじゃない?」


 「言うなぁ〜…本人にも言われたんだから言わないでくれ〜…。」


 綾のあっけらかんとした口撃(こうげき)に耳を塞ぐ。


 「あと、最大ポイントの美奈ちゃんを脱落させたから戦犯ポイント倍付け。ていうかいつまでトマト食べてるの?」


 「あぁ〜ゆるしてゆるして〜!」


 ムシャムシャムシャ。


 「綾先輩容赦ないですね。」


 「美月ちゃん、物食べながら謝ってる人に容赦する必要なないと思うんだよ。」


 それに久来は落ち込む暇ないくらい煽ったほうが良いしね。と言った。


 「じゃあ、そろそろ移動しようか。ところで美月さんってポイントどれくらい持ってるんだ?」


 「私はまだポイントなんて持ってませんよ〜。逃げるだけで精一杯ですから。」


美月さんが困ったような顔で笑う。


 「さっき迷ちゃんが撃ち漏らした参加者を狩ってたって言ってたよね?」


 「…綾さん、細かいことは水に流しましょう。」


 ニコニコ。


 笑い合う2人。やだこの子達怖い。

 

 「美月さんが仮に30ポイントくらい持っているとして、美月さんを俺が倒したら30ポイント手に入るのか?」


 「あからさまに仲間割れ匂わせますね先輩…。入りませんよ。1人撃破につき10ポイント固定です。倒した相手が所持していたポイントは関係ありません。」


 「そうか…有効ならさっきの迷さんを不意打ちで倒せないかと考えたんだが…。」


 「強者狩りなんて無茶ですよ先輩。キャドーの差っていうのは本当に大きいんです。ただでさえ今回は星姫と白煌が参加して」


 ズズズズッ……


 「…な、何の音?」


 美月さんが話していると、何かを引きずるような音がこの商店街に響く。


 俺たちは辺りを見回す。


 「あれだね。」


 綾が指差す方を見ると、商店街の入り口に巨大な白い物体がある。全貌が分からないほどのデカさだ。俺たちからはもはや壁に見える。


 「あれは何でしょう…?」


 「ベ◯マックス?」


 その時、白い物体に突然穴が開く。


 中は空洞のようになっているが、何か起こるのか?


 次の瞬間、空洞から何が伸びて、俺たちに迫ってくる!


 「うおっ!」


 「きゃぁ!」


 距離があったため綾は回避し、俺は美月さんを掴んで飛び退いた。


 伸びてきたソレは、俺たちの後ろにあった精肉店に突っ込む。


 ソレは肉を巻き取ると、再び白い物体の方に戻っていく。


 「これは…舌? あの白いのは生き物で、空いた空洞は口ってわけか。」


 「生き物……でも、何だかおかしい気が…。」


 俺と綾が観察していると、


 「いいから下ろしてください先輩っ、乙女を米俵みたいに担いでっ!」


 美月さんがジタバタし、慌てて下ろす。


 肉が白い物体の中に吸い込まれると、白い物体からギョロリとこちらを覗くものと目があった。


 再び白い物体は引きずる様な音をたてて動き出す。


 すると、白く長い体が商店街の中に入ってくる。


 「蛇だ! 馬鹿でかい蛇だっ!」


 俺がそう叫んだのと同時に、蛇がまた大口を開ける。


 「久来、美月ちゃん、走って。一撃目は返すから。」


 「…分かったっ。」


 「わわっ!」


 俺は美月さんの手を掴むと商店街の出口へ走る。綾がそう言うなら、下手な事はしないほうがいい。


 凄まじい勢いで蛇の下が綾に伸びて迫る。


 「真剣……」


 綾が腰を低くし、続け様に飛び上がる。跳ねて避けるのかと思いきや、そのまま勢いよく急降下。


 「土竜弾板(もぐらだんばん)!」


 綾がつま先から地面を蹴ると、土が盛り上がって土石が突き出し、蛇の舌をアッパーするように弾いた。


 「あ、綾さん、あんなキャドーまで持ってたんですかっ。」


 「あれはキャドーじゃないっ。とにかく今はダッシュだっ。」


 

 舌による攻撃を返され大蛇が怯んでいる隙に、俺たちは商店街を脱出する。


 高い建物に避難したかったが、この商店街付近に高い建物はなかった。


 そして大蛇のスピードは、俺たちの思うより速く、あっという間に商店街を抜け出して追いすがってくる。


 蛇の舌から逃げ回るうちに、俺たちは見通しの悪い林の中に追い込まれた。


 「まずいな…こんなでかいやつどう相手にすれば…」」


 俺の視界には、木々の中に大きな蛇の胴体が見える。


 林に入ってすぐに、綾と美月さんとはぐれてしまった。早く合流しないと、最悪ゲーム終了まで会えず仕舞いになるかもしれない。


 シャァァァ…


蛇の鳴き声が聞こえる。頭の部分に遭遇しないように注意しながら移動する。


 しばらく歩くと、木が丸々一本溶かされているのを発見する。


 黄色い液体がかかっており、湯気を発している。


 「あの蛇は消化毒まで使うのか…。」


 戦々恐々とする中、溶けた木の近くにまだ新しいと思われる足跡を見つけた。よく見ると足跡はそのまま奥に続いており、蛇の引きずる跡も、それ追うように続いている。


 「まずい、2人は見つかっちまってるのかっ。」


 俺はその跡を辿り、さっきとは逆に蛇の頭を目指す。


           ◇ ◇ ◇


 「はぁ…はぁ…、や、やっと撒きましたかね?」


美月は息を整えながら、息も絶え絶えに言う。


 「うん…蛇の頭はとりあえず見えないかな。」


 綾は木の陰から追手の蛇が来ていないか捜す。


 林に入ったのが10分前、蛇の追撃から逃れるうちに、久来とはぐれてしまう。


 蛇は綾たちの方を追いかけてきて、美月の煙幕や綾の体技で何度も撒くのだけれど、すぐ追いつかれてしまう。


 なんとか撒いたと思ったら、蛇は消化液のようなものを飛ばしてきて、近くにあった木を溶かし始めた。


 もう何度目かになる煙幕を発動させ、なんとか視界から外れたようだ。


 「美月ちゃん、少し座って休んでて。またいつ来るか分からないから。」


 「はい…そうします…。」


 綾はまだ余裕があったが、美月は、10分間休みなしで逃げ回ったため、もう立っているのもやっとだった。


 ズズズズッ…


 再び蛇の近づいてくる音がする。そして綾たちが隠れている付近で止まった。


 シャァァァ!!


 すると、蛇は木一つ一つに消化液を吐き始めた。


 「…冗談きついんだよねっ。」


 美月を木陰に残して綾は囮となり飛び出して走り出す。


 「っ!」


 美月は何かを言いかけるも、綾の意図を読んで口を噤む。


 シャァァァ!


 「もうちょっと…離れれば…!」


 美月を巻き込まないくらいの距離を取り、綾は大蛇に向き直る。


 噛みちぎらんとする大蛇の大顎を最小限の動きでかわす。


 大蛇の猛攻を避けながら、綾は別のことに想い馳せる。


 空想のような脅威が当たり前に存在するこの世界、綾にとって退屈しない世界、そして、一番の願望が叶う世界。


 「2人とも! 大丈夫か!」


 走ってくる久来を綾は一瞥する。


 「…この世界なら、久来を守れる。私の力を存分に発揮できる…私は…みんなと、久来とずっと一緒にいられる。」


 綾は不敵に嗤いながら蛇の噛みつきを避ける。


 「あぁ…この世界は最高…帰りたくない…久来、私、帰りたくないよぉ…。いつまでも、いつまでもこのままで。」


 戦いの最中らしからぬ思考に高揚する綾。その心と身体は、誰しもが想像もできぬほどに…冷え切っていた。


 その心は、冷気となって辺りを震撼させる。


         ◇ ◇ ◇


 綾を見つけて近づく…が、すぐに異変に気付く。


 寒い…気候? いや、綾の周りだけが異様に冷たい。


 「綾っ!」


 呼びかけると、綾はこちらをゆっくりと向く。


 「っ…!」


 その表情に思わず脚が止まる。確信できる…俺が何をしようがしまいが、勝負はもう…。


 「美月さんこっち!」


 ならばおれは彼女を安全地帯へ逃すだけっ。


 「先輩っ、綾さんはっ!」


 「…まぁ、見てて。」


 綾はゆっくりと大蛇に向けて歩き出す。その手に集まった冷気は、長く鋭利な氷剣と化しておさまっていた。


 剣を手にした綾と対峙することは…。


 シャァァァアアア!!!


 綾にかぶりつこうとした大蛇、しかし、その牙は全て砕け散る。綾が剣を振るった瞬間など、見えはしなかった。


 シャ…カ…カ…カ…!!!!


 大蛇の斬られた口元から霜柱が広がっていき、瞬く間に顔面の半分を凍り付かせた。


 「へぇ、面白いね。凍りつかせる剣なんて、ゲームの中みたい…でも…まだ私には馴染みそうにないかな。」


 綾はそう言って剣を深く持ち直す。


 シャァァァアアア!!


 大蛇は怒り狂い、消化液を綾に吹きかける。が、彼女から発せられた冷気だけで消化液を凍りつかせた。


 しかし、めげずに決死の猛攻。体の全てが凍りつく前に綾を倒そうと飛びかかる。


 「真剣…」


 そんな大蛇の頭を…


 「網錚(あみどら)。」


 一振りで、無数の肉塊へと変えた。


 そして大蛇はあっけなく倒れ伏し、消滅した。


 「ふぅ……。」


 綾は一息ついて、剣を溶かして水に変えた。


 「先輩…綾さんは…今、キャドーを使ったんですよね…?」


 「あの剣そのものはキャドーだが、剣技に関しては…なにも。」


 俺が答えると、美月さんは驚愕に目を見開いていた。


 「だ、だって……一振りで、無数の斬撃が起こったんですよ…? あんな魔法みたいな…そんな、そんな…」



          ◇ ◇ ◇


 「そんな人間が…存在するのか…?」


 モニターで綾を見つめる双葉が呻く。


 「しちゃうんですよ。あれが、結城綾という…剣士ですから。」


 「魔剣使い、なんて言われたりもするけど…ありゃタネも仕掛けもないんだ。アタシたちにも、姉貴の見ている世界は分からない。」


 直と美奈が神妙な面持ちで言った。その顔は、嬉しそうでも誇らしげでもなかった。双葉には、2人の表情にどこか寂しさを覚えた。



          ◇ ◇ ◇


 「じゃ、行こうか。2人とも。」


 綾はそう言って、俺たちを先導して歩き出す。


 秘匿されし剣術…真剣流・免許皆伝。

 

 狭き門を潜った中で、魔法のような剣技を一つ身につけられるのが10人に1人。2つ、3つの技となりさらに人数は減り、ついに奥義にまで手を届かせた100年に1人の逸材。


 結城綾は、その剣を可憐な仮面の下に隠して今日も生きる。



 結城綾  撃破ポイント10

  

 

 第2キャドー覚醒 「氷塊刃」

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