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「しっかたないな」

 軽く舌打ちすると、コンラッド様は部屋中に散らかした楽譜を取りまとめる。

 次いで落胆してほとんど力の抜けているわたしの腕を掴むと立ち上がらせる。

「えっと…… 」

 何をされるのか戸惑っているうちに強引に部屋を引き出された。

 来た時に通ったロングギャラリーに出ると少し戻った先のドアを開けた。

 流行の壁紙や絨毯という、さっきの部屋とは様子の全く違う部屋に連れ込まれた。

 誰かの使っている居間なのだろうか? 

 あまり広くはない室内には落ち着いたデザインのティーテーブルと椅子。

 それから傍らには大きなピアノが一台据え置かれていた。

 コンラッド様は真直ぐにそのピアノに歩み寄り椅子に座る。

 そしてまとめてきた楽譜を揃えて譜面台に置くと、暫く睨みつけた後鍵盤に手を掛ける。

 程なく、少したどたどしくはありながら、聞き知ったメロディーが流れてきた。

 時々演奏を止めては譜面台の楽譜を追っているから譜面のとおりに弾いてくれているのだと思う。

 だけど、それはどう聴いてもいつも耳にしているあの音楽そのものだ。

 正直少し下手なところを除けば…… 

「っつ…… 」

「あれ? 」

「やべ、違った」

 所々で引っかかるたびに、コンラッド様の口から小さな声が漏れる。

「しかたないね」

 呆れたような息を一つもらすと、それまで黙って立っていた王子様がピアノに歩み寄る。

 身振りでコンラッド様に席を代わるように要求して空いたピアノの前に座った。

 途端に、極上の演奏が部屋に広がる。

 王子様の長い指の奏でる音色は、優雅で華やかで軽やかで、部屋の空気まで違ってきたみたいだ。

 こんなに容姿や声立ち居振舞いや仕草まで似ているのに、ピアノを弾くことに関しては雲泥の差だったとは知らなかった。

 多分、こういうところは上手く立ち回って片方が苦手なことは隠していたんだろうなって思いに至った。

 もともとこんなに似ているんだもん。

 片方が楽器の演奏が苦手だなんて誰にもわからないと思う。

 

「どうだった? 」

 やがて演奏が終わると、王子様は優雅な笑みを浮かべて向き直る。

「素敵でした、凄く! 」

 あまりに素敵な演奏に、うっとりしたままでわたしは答える。

「そうじゃ、なくて。

 一応この楽譜のとおりに弾いてみたんだけどね」

 王子様はの笑顔が苦笑いに変わる。

「えっと、あの…… 」

 まさか演奏に聴き惚れて大切なところを聞き逃したなんて…… 

 恥ずかしかったり、申し訳なかったりで言えない。

「別におかしいところはなかったぜ。

 違っているところがあれば曲にならないところがあるはずだけどな」

 コンラッド様が口添えしてくれた。

 その顔は気に入らなさそうに歪んでいる。

 確かに、子供の頃から親しんでいる曲だ。

 譜面の中におかしい個所があればこんなに気持ちよく聞惚れてなんかいられなかったと思う。

 

 そこまでは良かったんだけど…… 

 

 だったら、この楽譜は何? 

 叫びたい気分でわたしは頭を抱え込む。

 

 結局元に戻ってしまった? 

 

 とりあえず楽譜を手にとりもう一度目を通そう。

 もしかしたらまだ何か見落としているかもしれない。

 そう思って譜面台に手を伸ばす。

 演奏のためにきちんと順番どおりに並べられた楽譜には当然と言えば当然だが表紙がついていた。

 どうして気が付かなかったんだろう? 

 暗号が隠されているとすれば絶対この音符の中、そう決め付けてしまっていたからか、表紙があるなんてこと全く気が付かなかった。

 楽譜とは違う五線糸のない無地の紙の上にはタイトルが印刷されていて、その下に走り書きのような文字で何かが書かれている。

 

 演奏年月日と思える日付と演奏者の名前。

 おばあちゃんの名前のためがきと、そして…… 

 

「ね、これって? 」

 わたしは側に立つコンラッド様の顔を見上げその文字を指し示す。

 わざわざこんなことを書き残しておくのってなんか変な気がした。

「何だ? 

 ああ、演奏場所だな。

 昔はよくあったんだよ。

 演奏者が演奏を依頼した主催者にその時の楽譜を記念に贈るって風習が。

 演奏者のファンの間で高値で取引されたり、貰った本人自身がファンだったら大事にしまったりしたって話だ」

 さすがというべきか、演奏会の主催者なんてもの縁も縁もない庶民のわたしじゃ知らないことを知っている。

「じゃ、やっぱりこれって、何か意味があったんじゃないのよね。

 もしかして、おばあちゃん、この演奏家のファンだったってこと? 

 それでもって後生大事にあの場所にしまいこんだのかなぁ…… 」

 こうなると絶望的だ。

 もう、こういうややこしいのは止めて欲しい。

 

「一つ気になったんだけどね」

 ピアノから離れゆっくりと歩きながら王子様がわたしの手元の楽譜に手を伸ばす。

「ここ…… 」

 何枚かの紙を捲くった後その中の一枚を指し示した。

「少しだけ原曲と違うアレンジがされているんだ。

 なんていうか音響を意識して特別に響くように作られたような…… 」

 王子様は考えるように首を捻る。

「ん? 演奏場所の『ミュセルの塔』ってあれだよな? 」

 コンラッド様がもう一度走り書きに目を落として呟いた。

「城の東側の。

 あの塔なら天井が高かったはずだし、もしかしてそれ専用の編曲ってことか? 」

「かもしれないね? 」

 何だろう? 

 音楽的知識の皆無なわたしを置き去りにして二人で話が盛り上がってゆく。

「ね、じゃぁ。

 おばあちゃんが演奏家のファンだったって話は置いておいて、何かの意図をもってこの楽譜があの場所に収められていたって仮定してよ。

 この楽譜どおりの演奏をその場所ですれば、もしかして答えが出る? 

 答えでなくても次のヒントとか! 」

 僅かな希望を込めて言ってみる。

「かも知れないけど…… 」

 二人の顔が同時に曇った。

「やっぱり違う? か、な? 」

「いや、そうとも限らないけどな、確かめ様がないんだよ」

「その塔なんだけどね。

 十年前、最後の宮廷魔術師が実験に失敗して崩壊したんだ。

 以来、建て直してもいない。

 元々君のお祖母さんの時から宮廷魔術師に遺恨があった父上は以来宮廷魔術師を置かなくなったから、必要がなくなったんだ」

「そんなぁ…… 」

 目の前が真っ黒になる。

 またしても元に戻ってしまった。

 何だっておばあちゃんはこんなややこしいこと…… 

 もしかしてわたしをおちょくっている? 

 今頃草葉の陰からわたしの様子を見て笑っているとか。

 いや、いや…… 

 その前に、おばあちゃんが宮廷魔術師を辞めたのは二十年以上も前で、塔が崩れたのは十年前。

 つまりは手がかりが失われてしまったってことだ。

 まさかさすがのおばあちゃんでも、塔が壊れることまでわざわざ予言して楽譜を隠したとは思えない。

「でも、そういえば確かあの時、チェンバロが…… 」

 何かを思い出したのか王子様が呟いた。

「そういえば、あの塔にあったチェンバロが一台。

 修復不可能なほどに崩壊した塔の中で唯一無傷で残っていたんだったよな? 」

 王子様の言葉に導かれやはり思い出したようにコンラッド様が言う。

「ああ、あの時には、『奇跡』だとか『魔女の呪い』だとか侍従たちが騒いでいたから覚えているよ」

「ね? そのチェンバロ、今何処? 

 壊れていないんならどこかにあるわよね」

 一時は絶望的だと思えたのに、一筋の光が差した。

 もしおばあちゃんが意図的にこの楽譜を隠したんだとしたら、正解に辿り付くまでの手がかりを失われないように残した可能性がある。

 楽器だけが壊れていなかったんだとすればそれは奇跡じゃなくておばあちゃんの仕業だろう。

「さあな? 」

 コンラッド様は首をかしげて視線を王子様に送る。

「何分古い楽器だからね。

 ピアノが一般的に普及してからはほとんど使われなくなっているし…… 

 多分、どこかにはあると思うんだけど。

 さすがにそこまでは…… 」

「俺、侍従長の爺さん所いって訊いてくる」

 さすがにこういう時の仕事はコンラッド様の役目なんだろう。

 さらりと言って当たり前のように部屋を出て行った。

 

 ってことは…… 

 なんか、いやぁな状況になっている事にわたしは気がつく。

 前科のある王子様と二人きりってのはさすがに気まずいを通り越して、逃げるべきだろう。

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ」

 隙をうかがってちらりと王子様の様子を盗み見ると、やんわりとした笑顔で言われた。

「とりあえず今はね。

 こんな子供の遊びみたいなの久しぶりだし。

 もし君を今怒らせたら、この遊びは立ち消えになってしまうだろう? 

 だから休戦。

 もちろん、君を諦めたわけじゃないけどね」

 

 最後のひと言は余計だけど、とりあえずは安心していいってこと? 

 

「どうしてわたしなんですか? 

 その、殿下の周りにはわたしなんかより産まれが良くて綺麗で頭のいい人が沢山いますよね? 」

 正直、興味を持ってもらっても困ると言うか…… 

 だからとりあえず聴いてみる。

「それじゃ、私の方からも質問。

 どうして、私たちの区別がついたんだい? 」

「それは…… 」

 わたしはこのとき初めて明確な答えを持っていないことに気が付いた。

「はじめは光に透けた髪の色だったの。

 それを目で追っているうちに、片方の妙に作ったような笑顔が気になって…… 

 そのあとはもう意識しなくても自然に区別がついていたわ。

 だって、わたしの側にいるコンラッド様は見た目王子様と同じでも中身は全く違って、それを全面に出してくるんだもの。

 それじゃ区別以前の話でしょ? 」

「でも、君は公衆の面前で全く同じ風を装ったわたし達の区別も付いていたよね? 」

 王子様がわたしの顔を覗き込んできた。

 そんなこと訊かれてもわたしにだってわからない。

「はぁ…… 

 どうして私じゃなかったんだろうね? 」

 言葉に詰まっていると大げさなため息を吐かれた。

「正直うんざりしてたんだ。

 いくら故意に似せているからといっても、誰一人区別がつかないことに」

「どうして、わざわざそんなことをしているんですか? 」

 ずっと気になっていた。

「有事の際に替え玉を立てて逃げ出すとかならわかるんですけど、お二人とも普段ずっと並んでますよね? 

 それじゃ替え玉の意味ないんじゃないの? 」

「そうでもないんだよ。

 同じ男が二人並んでいればどっちがどっちだかわからないだろう? 

 相手に一瞬判断するための躊躇が産まれる。

 もしコンラッドを先に襲えばその間に私は逃げられる。

 私が先に襲われた時には真横にいるんだから楯になってもらうって手順かな。

 それに時々だけど、別の仕事を手分けでこなすこともできて便利だしね。

 ほかにもいろいろ…… 」

 王子さまは疲れたような笑顔を浮かべた。

「どうしてそんなことに? 」

 一国の王子さまなら命の危機に晒されることだってあるのはわかる。

 だけど、そっくりの人間を常に隣に置いて置くのはさすがにやりすぎだとわたしには思えた。

「国王の正式な王妃の息子は私だけだけど、父には他にも複数の子供がいてね、虎視眈々と王座を狙っている。

 子供の頃から刺客に襲われるのは日常茶飯事だったんだ。

 それで苦肉の策として母上が考えた」

「じゃ、コンラッド様って…… 」

 だから、あの人の笑顔は何処となく不自然だったんだ。

 王子様と全く同じ顔、同じ表情をしていても、何処となく漂ってくるものが違っていた。

 そりゃ、毎日ずっと張り付いた王子さまの護衛を人にはわからせずにするのって、半端ない気苦労だと思う。

 

「わかったぜ、チェンバロの保管場所」

 あわただしい足音が近付いてきたと思ったら、部屋に飛び込むなり、いきなりコンラッド様は大声を張り上げた。

 よほど急いできたのか、息が上がっている。

「おまえ、何にもされなかったよな? 」

 何気にわたしの背後に立つと耳もとで囁いた。

「うん、休戦協定結んだの」

「なんだ? それ」

 頷いて言うわたしの言葉にコンラッド様は呆れた声をあげた。

 

「ですから、殿下。

 チェンバロがご入用でしたらわたくしどもがお持ちしますから」

 王子が探し物をしていたということでその要望にこたえようというかのようにロングギャラリーには数人のお仕着せを着た人が来ていた。

「いいよ、べつに。

 少し見てみたいだけだから。

 わざわざ運び出してもらわなくても充分だよ」

 王子様が隙のない笑顔を浮かべる。

 やっぱり誰に対してもこの人の笑顔は自然だ。

「ですが…… 」

 侍従の一人が渋い顔でちらりとわたしの顔を見る。

 部外者にはこれ以上お城の裏側に入れたくないんだろう。

 とは言っても、自分の目でそのチェンバロは確かめたいし、それだけのために、何処からか持ち出してもらうのはあまりにも申し訳ない。

 物は本一冊みたいに片手で持てるものじゃなくて、少なくとも数人以上の手がないと運べないものだ。

「このお嬢さんなら安心していいよ。

 先々代の宮廷魔術師ロングハート師のお孫さんだから。

 その昔おばあ様が、残していったものを探しにきただけだよ」

「! 」

 王子さまの口からおばあちゃんの名前が出たとたんに一番年嵩の侍従さんの顔が変わった。

「殿下、申しあげにくいのですが、前国王陛下がロングハートには何一つ持ち出させるなと、きつく言い付かっておりまして…… 」

 やっぱりといおうかなんと言おうか、話が面倒臭いほうに向いてきた。

 そもそも、門前払いを食ったわたしがここまで来られたほうが奇跡だ。

「知ってるよ。

 でもおじい様が亡くなって何年になると思っているんだい? 

 その話、そろろろ時効になっていると思うんだけどな」

 あでやかな笑みを浮かべながらあくまでも穏かに話す王子様なんだけど、その気迫が怖い。

 さすがに次期国王様、有無を言わせぬ何かがある。

 そう感じたのはわたしだけじゃないみたい。

 侍従の人たちも青ざめて表情を引きつらせていた。

「わかりました。

 ご案内いたします」

 一度姿勢をただし、深深と頭を下げると侍従さんは先に立って歩き出した。


 ロングギャラリーを抜けてその先の大きなステアケースを上る。

 更にその先…… 

 やっぱり建物が大きいと、お部屋の数も半端じゃなくて廊下の長さも長い、複雑。

 一人でいけなんて言われたら迷子になりそうなほど引き回された挙句、古い粗末な廊下の先にあるドアの前でようやく侍従さんが足を止めた。

 バックヤードの使用人しか使わない場所なんだろう。

 豪華できらびやかな今までの内装は消え、実用本位って感じだ。

 やっぱり運んできてもらわなくて良かった。

 これだけ距離があると運んでもらうのも申し訳ないけど、待っているのも大変そう。

「どうぞ、古い家具等が雑多に積み上げてありますので少々散らかっておりますが」

 侍従さんが釘を刺してドアをあける。

 扉の向こうには言葉どおり家具らしき物が白い布を掛けられて置かれていた。

 閉ざされた鎧戸の隙間から入り込むかすかな光にそれらが浮かび上がる。

「殿下がお探しの品物はこちらでございます」

 侍従さんは壁際に押し付けられた優美な足のついた楽器に掛かる布を外してくれる。

「それでは私はこれで、御用がお済になりましたらお声をかけてください」

 一礼して侍従さんが姿を消した。

 

 さすがにお城の物。

 布の下から出てきた装飾の、その細工の見事さには思わず息を呑んだ。

 いや、姿に見とれている場合じゃない。

 ここはで重要なのはこの中に隠されている何か…… 

「いいぜ、触っても」

 躊躇っていると促すようにコンラッド様に言われる。

 近寄ってまず深呼吸。

 これだけ大きなものだと探しがいがある。

 そもそも、どんなものが何処に隠されているのかわからないし。

「なんだ? これ」

 屋根をあげてくれたコンラッド様が声をあげると本体の中から何か一枚の紙片のようなものを引っ張り出しわたしに差し出す。

 ひと目で古いものだってわかるブルーグレーの紙片。

 おばあちゃんの本の装丁の色だ。

 そう思いながら、二つに折られたそれを開く。

 

 書き付けられた文章を目に、わたしは思わず脱力した。

 ついでに怒りが湧いてくる。

 

「いつか生まれるかも知れない孫娘へ」

 

 そんな宛名書きで始まる、懐かしいおばあちゃんの文字。

 それは、若きおばあちゃんが明らかにわたしに充てたもので、普通に考えれば感慨深いものなんだけど…… 

 

「お疲れ様でした。

 宝探しはこれで終わりよ。

 どう? 楽しめた? 

 子供の頃に戻ってわくわくしたんじゃないかしら? 

 たまには羽目を外して皆でわいわい楽しむことも大切よ。

 そしたら、きっとあなたの探しているものも見つかるわ。

 見つけたら、そこから先が踏ん張りどころよ。

 じゃぁね、頑張って! 」

 

 などという、よくわからないふざけたメッセージが綴ってあるだけだ。

 

「何よ、これ! 」

 

 わたしは思わず読んでいた紙片を力任せに握り締める。

 終わりって明記してあるってことは、これ以上先はないってことだよね。

 つまりは切羽詰ったわたしは、あのタイトルに躍らされ完全におばあちゃんにおちょくられたわけだ。

「ちょっと見せてくれる? 」

 王子様がわたしの手からくしゃくしゃになったそれを引き抜いた。

「……なるほどね」

 目を通すと感心したように呟いて、それをわたしに返してくれる。

「じゃ、私は時間だから、ここまでかな? 

 後はごゆっくり」

 呆れたような様子を隠すことなくそう言って、王子様が部屋を出てゆく。

 

 わたしはコンラッド様と二人、その部屋に残された。

 おもむろに近付いてきたコンラッド様がわたしの肩越しに手の中の紙片を読むと、笑みをこぼした。

「あのさ、俺じゃ駄目か? 」

 肩越しにボソッと呟かれる。

「へ? 」

 何のことかわからずにわたしはその顔を見上げた。

 コンラッド様の顔は気のせいか少し上気して桜色に染まっているように見えた。

「だから、おまえの探し物。

 俺じゃ駄目かって…… 」

「あのね、わたしが探してたのって、その人間じゃないって言うか」

 戸惑いながら声をあげる。

「まだわからないのかよ? 」

 コンラッド様が王子様同様呆れたように呟く。

 わたしが探していたのは、多分お婿さんを探す方法で…… 

 

 まさか、それを飛ばして? 

 

 妙な考えに側にあるコンラッド様の顔を見上げる。

 

 ううん、飛ばしたんじゃない。

 今までの子供の遊びのようなこの宝探し自体が「婚活レシピ」だったってこと? 

 落ち着いて考えたら、そうなのかも知れない。

 おばあちゃんがもし何かをわたしだけに伝えようと思ったら、こんな手の込んだことしなくたっていい。

 水晶球を通して、魔力を使えば、夢の中に出てくれば済むことだ。

 お城なんていう特別の場所で、どうしても誰かの手を借りないと解けない、でも魔法とは全く関係のない謎掛け。

 おばあちゃんらしくないからくり。

 

「俺にしとけよ。

 それともあいつの方がいいか? 」

 ドアの外に消えた背中を追うようにコンラッド様の視線が動く。

「それは絶対嫌! 

 コンラッド様がいいな」

 同じ顔、同じ仕草、同じ声。

 何故だかわからないけど、何もかも同じ筈なのに、わたしの目はいつでもこの人だけを追っていた。

 怖かったはずなのに、何時の間にか側にいてもらう時間が心地よくなっていた。

 そんな存在生まれて初めてだ。

「じゃ、決まり、な…… 」

 背後から抱きしめられ頬を寄せられて囁かれたその声にわたしは幸せを噛み締めながら目を閉じた。





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