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最愛の人を傷つけられたので、最も残酷方法で復讐したいと思います。  作者: 大大大大大確定!!!


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1

 京谷(きょうや) 修(おさむ)の父は殺人の罪を背負い、現在は刑に服していた。 


 父親が殺した相手というのは、当時のクラスメイトの母親であった。二人は当時姦通しており、そのもつれから殺害に至った。


 修にさえも優しく接してくれた当時の想い人は、殺害された女の娘であった。

 

 するとどうだろう。修は瞬きもせぬ間に全て居場所を追われ、失った。

 

 彼には肉欲、愛欲そのものが不浄の罪に思えてならなかった。なのにも関わらず、自身の中でその欲望は際限なく膨張し続けている。それが彼を苦しめて理性を損なわせ、理性を失えば欲望が姿をみせ、また行き場のない欲求が腹の中で渦巻いてくる。

 

 女を欲して女に焦がれ、女を穢し、愛に飢え愛を求め、愛を喪失した。あらゆる欠乏を逃れることはできなかった。


 

 彼が不貞腐れたような顔をして誰も通らない非常用階段を歩いていると、気弱そうな女子生徒が震えながら複数の男女からなる集団に囲われていた。反吐が出るような心持ちで歩いて彼らの横で立ち止まった。


「おい、くだらないことしてんなよ」大きな声ではなかったが苛烈を極めていた。


 このような言動、行動は正義を愛しているからではなく、悪を激しく憎むようになっていたからであって、そしてそれを自身でまざまざと自覚していたからこそ、やるせない気持ちになった。


「は、誰だお前?」取り巻きの女が嘲笑うかのように言い放った。もちろんその言葉とは裏腹に殺人犯の息子、京谷修であるということは承知していた。


「別に誰だっていいだろうがよ」


「あー、そうだった。あの人ご」


「やめなさい」と、リーダー格の女が言い終わる前に制止した。


 “人殺し”言われ慣れた言葉であり、その女に対して大した反感は持ち得なかった。しかし、それを制止して修を睨みつける女生徒の方が気になった。


 俺が逆上して本当に殺されるとでも思ったか? 心の中でほくそ笑みながら、睨みつけ返した。


「はぁ、萎えちまった。もう行こうぜ」一人の不良男が言った。


 リーダー格の女は頷き引き上げて行った。取り残された女生徒は一人で縮こまっていた。修はそっと近づいてその女生徒を見た。可愛らしい女の子だと素直に思った。ただ、大人しく毒にも薬にもならなそうで、こういった子はどうしても虐められるもんだ。そんなふうに考えた。ぶん殴ってやればいいのに、と。


「大丈夫か? 特進クラスっていってもこんなことがあるんだな」普通クラスの修はあまり深刻そうに言わなかった。


 黒く細い縁の丸メガネから覗く鋭く細い瞳は美しく、艶のある黒髪は顔の周りでしなやかに揺れていた。しっかりとした顎の線と鼻筋は彼女を知的たらしめ、引き締まった薄い唇には彼女の幸の薄さがそのまま現れているようだった。


 やっぱり頭がいい子のほうが可愛い子が多いもんだな。なんて、クラスメイトの女生徒と眼鏡っ子を比べて思った。そういえば、さっき睨みつけてきた子も可愛かったな。ぼんやり思っていた。

 

 眼鏡っ子は大人しく震えるだけであった。

 こりゃあ、虐められるわけだ。自身の血液の流れがはっきりしてきて、心臓の鼓動も速くなっていた。


 修は彼女に嗜虐心を唆られ、自身の中に巣食うドロドロとしたものをハッキリと感ぜられた。

 彼女が被虐性欲の持ち主ならそれは天武の才として彼女を喜ばせただろうが、現実はそう上手くいかなかった。


「なあ、本当に大丈夫か? 何かされたの」屈みながら少し近づいた。


「やめてっ!」大きな声を出した。


「なんだよ。俺が悪者みてえじゃん」と、笑って言いながらも、その加虐心を見透かされたのかと思ってビクビクした。もちろん修は加虐心をいくら持ち得ても実行に移すようなことはしなかった。


「ご、ごめんなさい……」伏せていた眼をさらに深く沈ませた。


「別にいけどさ。なんかされてるならやり返したほうがいいぜ? なんなら俺がやり返してやろうか、俺は弱いもの虐めってのが反吐が出るほど嫌いなんだよ」


「もう、関わらないでください」上擦った声を必死に張り上げていた。


「……わかったよ」歩き始めた。


 そんなに信用ならねえかよ。まあ、そうか、人殺しの息子だもんな。

 再び自分を嘲笑った。


 修は自分の教室へ戻り席へ座った。周りが楽しそうにしている様子を尻目に、虐められていた女生徒のことを考えていた。彼女の弱々しい美しさがどうにも頭から離れなかった。


 一人で教室で考え込んでも、特に話しかけようとする者もいなかった。そして修も、誰とも関わろうともしなかった。それは修が学校を卒業したら名前を捨て、全くの別人として生まれ変わるためだった。その時に高校の級友などは障壁以外の何物でもないように思われた。一度広まった噂の恐ろしさは、身に沁みて感じていた。

 

 自分の名前を調べれば、有る事無い事書かれているのだから。


「お父さんってどんな人だったの?」なんて倫理観のかけらも無いゴシップ系の配信者がカメラを片手に素知らぬ顔で尋ねにきたことがあった。


「人を殺したけど、あんたよりは随分マシだったよ」ヘラヘラ笑いながら答えた。


 この台詞は曲解され、犯罪者擁護、それも殺人の擁護だと論われ、蛙の子は蛙だと自身まで非難されるに至った。そしてゴシップとしても多くの人の興味を引く事件であったから、親の歪んだ恋愛と子供の無秩序な恋愛として人々は下劣な噂話に興じ、それに伴い修に対する中傷も激しさを増していった。

 

 一番酷い邪推で言うと、修が父に犯行を教唆したのだと唱える者がいた。それにより、被害者の娘は精神的に追い詰められ、自身が彼女を手に入れることが容易になるからだ、と……。

 

 邪推でどれだけ傷をつけられようとも、女について考えることをやめられはしなかった。その愚かさも自分自身では可笑しかった。

 放課後までずっと彼女は頭の中に居座って離れなかった。



 一方その頃、虐められていた彼女は、もう使われていない旧校舎の教室で悪辣な連中と共に過ごしていた。彼女は結局逃げ出すことも、反抗することもできなかった。


 彼女を含め五人組のグループの話題は人殺しの息子、京谷修で持ちきりだった。


「ほんと何なんだよ。あの野郎は!」威圧的な声を出しながら喚く男は、あの気の弱そうな眼鏡っ子を隣に座らせて肩を抱いていた。「なあ?」眼鏡っ子の顔を覗き込んだ。


 眼鏡っ子は俯きながら男を刺激しないように小さく頷いた。


「あいつもやっぱり偽善野郎だよ。葵の顔を見て、ブスだったらぜってぇ見て見ぬふりしてたぜ? 葵が可愛いからあの犯罪者もいきり立って絡んできたんだよ。美人に産まれたのは良かったが、性犯罪者に言い寄られるんじゃ大変だな。気をつけろよ、葵なんてすぐ攫われてどうにかされちまうからな。なんかあったら俺が助けてやるからな、側にいろよ」なんて言いながら肩抱き寄せて撫でてはいるが、結衣という女が自分に好意を寄せているのを知っていて、嫉妬をさせるためにわざとらしく見せつけているのだった。


「葵って普通にブスじゃない? 目細いし、ダッサイ眼鏡かけてるし」男が仕掛けた餌に釣られて結衣は男の隣に座り言い放った。男はこうやって左右に女を侍らせたいがために弄した策であり、簡単に成功していた。


 結衣は男を好意的な視線を用いてじっと見つめた。結衣は顔の造形に関して、自分が二重で大きい眼をしているという点を過大に評価していた。それと同時に目が細い葵を過小に評価していた。しかし葵の切れ長の瞳は顔の全体と調和してその涼しげで知的な美しさを醸していることを考えると決して欠点などとは呼べるものではなかった。寧ろ美点の一つである。


「お前も可愛いよ」男は嫉妬心を剥き出しにする結衣の頭を撫でてやった。


 結衣は気分を良くしたのか男に顔を近づけて口付けをした。

 二人の絡み合う音や温度をすぐ側で感じながら葵は目を伏せた。このように葵を側に置いて性的な接触を行うことは男と結衣の共通の性的嗜好であった。二人は互いに異なる種類の優越感に浸るのであった。

 そのグループにはもう一人の男がいるが金魚の糞のような男であった。その男も二人が絡みあっている姿を見て当てられたのか、立ち上がりリーダー格の女の方へ歩き始めた。


「それ以上私に近づかないで!」


 携帯を操作しながら一瞥もせずに強く鋭い声で一蹴され、金魚の糞は大人しくおめおめと自分の席に戻った。


「葵もしてやろうか?」男はようやく結衣と離れると葵を抱き寄せて言った。


 葵は黙って身を縮こめて口を噤んだ。


「ねえ、やだ。葵とするんだったらキスもフェラもしないし、お尻の穴も舐めてあげないよ」少しヒステリックな声を上げた。彼女の中にも一線はあるようだった。


「パイズリは?」下品な笑い声を上げた。


「パイズリもダメ」


「そうなると困ったなぁ。葵のじゃあ挟めそうにないから」


 二人はゲラゲラ笑いながら、葵は言葉では表すことができない恥辱から自身の胸を抱くようにして隠した。下品な二人の関係は男が優勢なようで、その実結衣の方に力は傾いていた。男は力を拮抗させるために、葵を用いて結衣の嫉妬心を煽り、ついでに自身のちっぽけな自尊心を満たしていた。


「そうだ葵、今度あの性犯罪者が言い寄ったとき、お前みたいな性犯罪者を相手にする女は世界中どこを探してもいないから、大人しく一人でセンズリこいてろ。って言ってやれよ。ぜってぇ笑えるぜ?」


「ほんと性格わるーい」


「結衣ほどじゃねーよ」


「あの男は危険だから放っておいたほうがいいかも」リーダー格の女が空間に対してポツリと呟いた。


「あんな男にビビることはねえよ」尊大な態度だった。


 結局ビビってさっきは相手にしなかったくせに。とは思えど、面倒くさいから声には出さなかった。


「彼についての情報はガセが多いとは思うけど、暴行事件に関しては同じ学校に通ってた生徒が多数証言していて、それも一度じゃないみたい。それに遠慮がなく随分と酷かったみたい」


「殺人なんてどうでもいい、みたいなことも言ってたしな」金魚の糞が口を挟んだ。


「それに多分彼の精神状態もボロボロだろうし」


「なんだ、流石の性犯罪者でも情が湧くか?」薄ら笑いながら。


「バカね。もう失う物がないでしょう、そんなやつを追い込んだらどうなるか分かる?」


「いわゆる無敵の人ってやつか」糞はまたしも口を挟んだ。


「そういうこと」


 しばらくの沈黙の後、結衣はハッとしたように口を開いた。


「じゃあさ、葵があいつと付き合ってあげればいいじゃん。二人でお似合いだよ」心底馬鹿にしたように言った。


「おい、勝手なこと言うなよ。俺の女だぞ」


「道具の間違いでしょ? せっかくの道具なんだから面白く使わないと。ねえ、楓?」


 楓は何かを深く考えこむように虚空に視線を投げ出して自身の顎を撫でていた。


「……それもいいかもしれない。ただ、いきなり“付き合って”なんて言われても向こうも怪しむだろうから、私の言うことを聞いて順序立てて相手をして」


「だって葵、どうするの?」


「どうするって言ったって……」拒否権はないんでしょう、と言いたげな表情だった。


「そう、やるしかないの」結衣は殊更下品に笑った。


「あなた、あの男の嗜虐的な欲求を煽らないようによく注意することね。度が過ぎると本当に殺されるかもしれないから」楓は深刻そうに言った。


 葵は放課後、校門の前で渋々と修を待った。

 修が現れて葵を一瞥したが、再び前に向き直って歩き続けた。葵は教室の窓からのいやらしい視線をはっきりと感じ、修の後を追って学ランの袖を掴んだ。

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