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社畜保育士だって異世界転移したらフリーターです。  作者: 蒼乃ゆら


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第三話 大抵のことは笑って誤魔化しとけば何とかなる

馬上の男が一歩前に出る


他の兵士よりも一段豪華な鎧

無駄のない動きと、圧のある視線

この場を支配しているのが誰か、一目で分かる


「そのドラゴンから離れろ」


低く、よく通る声が響く

空気が張り詰める


私は思わずごくりと唾を飲み込んだ


男はゆっくりと名乗る


「我が名は――グランヴェル王国騎士団団長」


一瞬の間


「レオンハルト・グレイヴだ」


剣を抜く


「その魔獣、ここで討伐する」


その鋭い視線が私を射抜いた


「貴様は、魔女か?それともドラゴンテイマーか?」


低い声が響く


「早くそのドラゴンから離れろ」


「……はぁ?」


思わず声が出た


魔女?

ドラゴンテイマー?


(何言ってんのこの人)


「そのドラゴンは――」


レオンハルトが一歩踏み出す


「この国に残る歴史の中で最も最悪な事件」


その声には、わずかな緊張が混じっていた


「一夜にして国を火の海と化した」


剣先が、ドラゴンへ向けられる


「滅国の炎竜 ゼルカディアだぞ!」


空気が凍る


「それを知っての行動か!何を企んでいる!?」


一方的にまくしたてるレオンハルト


私はぽかんとしたまま、状況を整理する



広い海岸


その中心にいるのは

赤黒い鱗に覆われた巨大なドラゴン


そして――


その背中に、当たり前のように乗っている私


――どう見ても


完全にドラゴンを従えている人間だった


(ちょっとまてぇぇぇぇぇ!?)


(これどっからどう見ても――)


(ドラゴン手懐けちゃってるじゃん!?)


(滅国の炎竜とか言ってなかった!?)


(お前そんな感じ全然なかったじゃん!?)


(何しれっと私のこと背中に乗せちゃってんのよぉぉぉ!!)


混乱のまま固まっていると

レオンハルトがさらに迫る


「このドラゴンは三百年前――」


「我が国の総力を挙げて封印に成功した存在だ」


兵士たちが一斉に武器を構える


「だがしかし、今日――何者かによって封印は解かれた」


「そしてドラゴンは姿を消した」


一歩、また一歩と近づく


「しかし!」


鋭い眼差しが突き刺さる


「今、目の前にそのドラゴンと共にお前が現れた」


剣がこちらへ向く


「貴様は何者だ!」


「あ、あの〜……」


とりあえず笑ってみる


「私は柊木心春と言います。初めまして。ははは……」


全然笑えない


「別にね、封印?とか解くつもりはなかったんですよ〜」


手をひらひらさせる。


「なんか流れでこうなっちゃっただけで〜

 まさかそんな伝説のドラゴン?なんて知らなくて〜

 ちょっと軽い気持ちでこの辺、散策したいな〜

 みたいなほんの出来心だったんですよ〜」


我ながら意味不明


レオンハルトは険しい顔をしている


「あ!そうだ!」


ぱっと思いつく


「ここは話し合いで解決しませんか?」


にこっと笑う


「ほら、このドラゴンも皆さんと戦う気は無いみたいですよ?」


背中をぽんぽん叩く


「こんなにおとなしいじゃないですか――」



ゴォォォォォッ!!


次の瞬間


ゼルカディアは口から炎を放った


空に向けて一直線に


まるで兵士たちを威嚇するかのように



(おぉぉぉぉぉい!!!)


(何やっちゃってんのぉぉぉ!?)


(せっかく私がいい感じにまとめようとしてたのにぃぃぃ!?)


「総員、攻撃!!」


号令が響く


魔法が、矢が、一斉に放たれる


「うわぁぁぁ!?」


私は必死にしがみつく

振り落とされないだけで精一杯だ

その間にも、攻撃は続く

ゼルカディアの身体に、次々と打ち込まれていく


そのときだった



「……」


ふと、目に入る


赤黒い鱗の隙間


そこに刻まれた、無数の傷


抉れた跡

焼け焦げた跡

新しいものも、古いものも


まるで何度も何度も繰り返されてきたみたいに


「……こんなに」


思わず声が漏れる

そのとき

また攻撃が飛んでくる

ゼルカディアの身体がわずかに強張る

そして 次の瞬間、口元に熱が集まる


――反撃しようとしている


(……あ)


頭より先に 感覚が理解する


(このまま戦わせちゃだめだ)


ふと 目が合う

赤く透き通る瞳

その奥にあるのは怒り

でもそれだけじゃない

警戒と諦めと

どこかずっと繰り返してきたような慣れ


(訳もわからず攻撃され続けて三百年も一人で封印されてた?終わりのない先の見えない孤独の中にいたんだ……このままじゃまた同じことの繰り返しになる……なんとかしなきゃ)


胸がぎゅっとなる


次の瞬間

兵士の魔法が一直線に飛んできた


「……っ」


考えるより先に 体が動いた

私はゼルカディアの首元へ身を乗り出す


「やめて!!」


声が響く


その瞬間、ゼルカディアの動きが止まった

集まりかけていた炎が ふっと消える


「……なんだ」


兵士たちがざわつく


一瞬の静寂


けれど次の瞬間


「ひるむな 攻撃を続けろ!!」


再び魔法と矢が放たれる

空気が張り裂ける


(だめだ とまらない このままだと……)


そう思った瞬間

ぐっと身体が浮いた


「えっ」


ゼルカディアが大きく翼を広げる


バサァッ――


強い風が巻き起こる

砂が舞い上がり 視界が揺れる


「うわっ」


私は必死に鱗にしがみつく


次の瞬間

地面が一気に遠ざかった


「ちょっ ちょっと待って待って待って!?」


体が持っていかれそうになる


「落ちる落ちる落ちる!!」


必死にしがみつく

下では兵士たちが叫んでいた


「逃すなー!!」

「撃ち落とせ!!」


矢が空を裂く

魔法が飛び交う


けれどゼルカディアは止まらない

大きく羽ばたきながら 空へと上がっていく

遠くへ逃げるように

――離れるように



レオンハルトは その様子を見上げていた

剣を構えたまま


「……」


違和感があった

あのドラゴンは

一度もこちらに攻撃をしていない

そして――あの女の声で、確かに動きが止まった


「……こはる」


小さく呟く

遠ざかっていく影を見つめながら


「不思議な奴だ……」


目を細める


「お前は……何者なんだ」



心春は必死にゼルカディアの背中にしがみついていた


(落ちたら死ぬ落ちたら死ぬ落ちたら死ぬ……)


強い風が全身を打ちつける

指先に力を込める

離したら終わりだと本能が叫んでいる


(むりむりむりむりむり!!)


それでも

おそるおそる目を開けた


――そこには


地平線に沈んでいく夕日

空一面が赤く染まり

雲がゆっくりと色を変えていく

海も大地も すべてが輝いている


「……きれい」


思わず声が漏れる

こんな景色 見たことない

こんな風にゆっくり空を見たのも いつぶりだろう

ただ必死に働いて

余裕なんてどこにもなかった


「……すごいなぁ」


恐怖の中に

ほんの少しだけ 安らぎが混ざる



そのとき


ゼルカディアの中に古い記憶が浮かび上がる


生まれたときから

災厄の竜と呼ばれていた

近づけば恐れられ

視界に入れば攻撃される


理由などなかった

ただそこにいるだけで敵とされた


幼い頃

人の気配に惹かれて 近づいたことがあった

けれど返ってきたのは

恐怖と攻撃 痛みと拒絶

それだけだった


やがて

身を隠すようになった

誰にも見つからないように

静かに生きるようになった


それでも 人間は追ってきた


そしてある日

光に包まれたかと思えば

気づけばそこは光の届かない暗闇


冷たい石の中

動くこともできず

ただ閉じ込められた


三百年


寒い 暗い 何もない

ただ 憎しみだけが 積もっていく


人間は敵だと それだけが残った


――なのに


目の前に現れた人間は違った


逃げなかった 恐れなかった

それどころか

意気揚々と話しかけてきた


そして


守ろうとした……理解できない


だが


その存在は今までとは違う

確かに特別だった



どれだけ飛んだのかは分からない

気がつくとゼルカディアは

ゆっくりと高度を下げていた


木々に囲まれた小さな広場

人の気配はない、静かな場所

風もやわらかい

その中心へと 降り立つ


バサァッ


大きな羽ばたきとともに 着地する


「はぁぁぁぁ……」


心春は力が抜けたように息を吐く


「し 死ぬかと思った……」


震える足で ゆっくりと降りる

周りを見渡す


木漏れ日 やさしい風 静かな空気

すぐに気に入った


「安全な場所まで運んでくれたんだね ありがとう」


ゼルカディアを見上げる


「ここ いい場所だね」


少し笑う


「追手もすぐには来ないだろうし」


ひとつ息をつく


「君はもう自由になりな、今度は誰にも見つからないように 静かに暮らすんだよ」


くるっと背を向ける


「私はここで ゆっくり自由に暮らしてみようと思う」


そう言って歩き出そうとする


――が


動かない


(……あれ?)


振り返る


ゼルカディアはその場から動こうとしない

それどころか

ゆっくりと身体を横たえた


そして――


そのまま目を閉じた


「……え」


(寝た?)


「え ちょっと待って」


ゼルカディアは動かない

完全にくつろいでいる

安心しきったように寝ている


(……あれ? もしかして懐かれた……?)


思わず笑う


(まぁ いいか)


肩の力が抜ける


(これで私もドラゴンテイマーの仲間入りかぁ〜)


「いやいや、そもそもドラゴンテイマーってなんなんだよ、誰か教えてくれ〜」


空を見上げる


(次見つかったら絶対逃げられないなぁ)


でも

不思議と怖くなかった


「……ま いっか」


そのまま ゼルカディアのそばに座る

温かい

ほんのりとした熱が伝わってくる

心地いい


「ちょっとだけ……休も」


そのまま 身を預ける

まぶたが重くなる

風が優しく吹き抜ける

思えば今日は色々なことがありすぎた


心春はゼルカディアに寄りかかりながら 眠っていた


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― 新着の感想 ―
ドラゴンは孤独だったし、誤解され続けたんですね。 (;∀;) パートナーと認めてくれたのかな? (´・ω・`) とても良かったです。 (*´ω`*)
こはるがゼルカディアと共に大空に舞い上がった時、まるでアニメのように情景が目の前にありありと広がりました。その美しさは、こはるが今まで抑圧されていたからこそ、より強く感じたものだということが伝わってき…
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