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社畜保育士だって異世界転移したらフリーターです。  作者: 蒼乃ゆら


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第十一話 人にはそれぞれ事情がある

預かり屋を後にして 並んで歩く帰り道

夕方の風が少しだけひんやりしている

さっきまでの慌ただしさが嘘みたいに 静かな時間

砂利を踏む音だけが 一定のリズムで続く


「あ あのさ さっきは助けてくれてありがとう

ほんとにもうダメかと思った」


前を向いたまま ぽつりとこぼす


「だろーな 俺に感謝しろよ」


隣からいつもの調子の声に少しだけむっとする


「………」


少しだけ間が空き 歩く音だけが響く


「実は私……召喚士らしいんだけどさ……」


思い切って口に出す


アルトはちらっとだけこちらを見る


「知ってる ついでに全く使えない召喚士ってことも知ってる」


即答


「こっちの世界に来て 魔法使いのおじいさん?に言われたんだけど……召喚ミスがついてるらしい……」


「…………」


アルトは何も言わず ただ前を見たまま歩いている

風で前髪が揺れる


しばらくの沈黙


そしてようやく


「それ……なんも使えねーじゃん」


「やっぱり ……?私も薄々気づいてた……」


「一番最初に自転車召喚しようとしたらゼルが出てきて その次は果物ナイフ そしてウルちゃんを呼ぶためにベルを召喚しようとしたらこれ出てきたんだよね」


足を止めて さっきの笛を取り出す

夕日に照らされて 古びた表面が鈍く光る

アルトも足を止める

その瞬間 わずかに表情が変わる


「お お前……まさか それ使ったのか」


「……え 使ったけど……なに?」


一瞬の間


アルトは笛をじっと見つめる

風が二人の間を通り抜ける


「お前それ誘魔笛(ゆうまてき)だぞ」


(誘魔笛……?なにそれ……)


「音に釣られて魔物やモンスターが寄ってくる

 便利そうに見えるが 制御できなきゃただの事故装置だ

 昔それ使ってたテイマーがいたらしいが そいつごと

 消えてからは見つかってねぇ

 正直 もう存在しないもんだと思ってた」


(えぇぇぇ〜 またとんでもないもの召喚しちゃってた

もしかしてウルちゃんがきてくれたのも あの魔物が来たのもこの笛の力だったってこと!?)


アルトは小さくため息をつき歩き出しながら


「俺は知らねーからな」


少しだけ顔をしかめる


「てかお前 もうその召喚の力使うなよ いいことなさすぎ」


そう言ってまた前を向く

その背中を 少しだけ慌てて追いかける

しばらく何も言えないまま歩く

砂利の音だけが響く


(……言うなら 今……だよね)


ぎゅっと手を握る


「……ねぇ」


少しだけ声が震える

アルトは振り向かない

でも ちゃんと聞いているのがわかる


「さっきの話なんだけど……」


言葉を探がうまくまとまらない


「その……召喚士っていうのも そうなんだけど……」


一歩踏み出す


「実は私……」


喉が詰まる

それでもなんとか絞り出す


「この世界の人間じゃないんだ」


風が吹く


一瞬


音が消えたみたいに静かになる

アルトは足を止めない

そのまま歩きながら

ぽつりと


「……だろうな」


「はぇ?」


思わず間の抜けた声が出る

アルトは肩越しにちらっとだけこちらを見る


「お前の言動 見てりゃわかるだろ」


それだけ言ってまた前を向く


「いや もっと驚くとこじゃない!?」


思わず声が大きくなる


「異世界から来ましたって言ってるんだけど!?」


一度言葉を飲み込む

少し迷ってそれでも続ける


「……大嫌いな上司がいてさ」


ぽつりと


「その人を異世界送りにするはずだったんだ」


アルトの足がわずかに止まりかける


「半信半疑で見つけたんだよね 異世界転移ってやつ」


苦笑する


「で やってみたら……」


少しだけ間


「気づいたら私がこっちの世界にいてさ」


静かに言い切る


沈黙


アルトはゆっくりとこちらを見る


「お前……まじで何やってんだ……」


ため息まじりの呆れた声

そしてアルトが続ける


「で?」


(で?って言われても……)


少しだけ真面目な声


「帰り方は?」


「……わかんない」


小さく答える


「気づいたらここにいて……」


視線を落とす


「帰れるのかも わかんない」


沈黙


風の音だけが通り過ぎる


アルトはしばらく何も言わない


そして


「まぁ……いいんじゃねーの?」


ぽつりと呟く


「転生してスライムになったやつとか 無職から頑張るやつとか そういう話もあるらしーし?」


「え?」


顔を上げる


「ごめん よく聞こえなかった なんか言った?」


「……なんも言ってない」


「いや……絶対なんか言ったよね!?転生?スライム?無職?聞き覚えのある言葉言ったよね!?」


「気のせいだろ……」


それ以上聞いてはいけない気がして この話はそっと流すことにした……


アルトが少しだけこちらを見る

心春はぎゅっと手を握る


「……私さ」


ぽつりとこぼす


「こっちの世界では スローライフ目指そうかなって思ってる」


「スローライフ?なんだそれ」


少しだけ照れくさい


「なんか……働き詰めでさ

 せっかくだし のんびり生きるのもアリかなって

 魔法使いのおじいさんにも言われたし」


アルトは何も言わずに聞いている

夕焼けの光が横顔を照らす


「まぁ……」


小さく息を吐く


「俺も似たようなもんだしな」

「こっちの世界 楽しんでみてもいいんじゃねーの?」


夕方の風が吹き抜ける


「え?」


思わず顔を上げる

でもアルトはそれ以上何も言わない

少しだけ視線を逸らして 前を向く


「その異世界でスローライフ?だかに俺も付き合ってやるよ」


そのとき ふっと笑った


いつものどこか作ったような笑いじゃない

力の抜けた自然な笑みで


「……」


一瞬

言葉が出てこない

胸の奥がきゅっとする


(……なにそれ……)


少しだけ顔が熱くなる

慌てて前を向き歩き続けた


ーーーーー


そんな話をしているうちに

家に到着する

扉を開けて中に入ると

一気に気が抜ける


「はー……疲れた……」


思わずその場で伸びをする

その横で アルトは靴を脱ぐなり

そのまま真っ直ぐソファーへ

どさっと倒れ込む


そして


迷いなく 小指を鼻穴に入れる


「……は?」


一瞬思考が止まる

ついさっきまでのあの自然な笑顔


——全部


一瞬で吹き飛ぶ


「ちょっと!?帰って来たら手くらい洗ってよ!」


思わず大きな声が出る


「んー……あとでいいだろ……」


やる気ゼロの声

完全にくつろぎモード


「いやよくない!外から帰ってきたんだよ!?」


何度言っても全く動く気配なし

むしろ さらにだらけている


「……っ」


顔がじわっと熱くなる


(さっき……)


(なんでこんなやつに……)


(一瞬でもキュンとした自分が憎い!)


ぎゅっと拳を握る


(全面撤回!)


(さっきのなし!)


(全部なし!!)


じとーっとアルトを見る

当の本人は 何も気にしていない顔で

ぼーっと天井を見ている


「……ほんと残念なイケメン」


ぽつりと呟く


でもその口元は

ほんの少しだけ緩んでいた


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