第8章 22 冬フェス ヴァーチャルリンク開催
明鏡止水の目が光る。
「あれ? あれー!?」
運転席に座る美咲が、レバーをガチャガチャと引く。
そして青ざめた顔で振り返った。
「……どうしよ。操作が効かなくなっちゃった」
「マジかよ……」
迅は紗良を抱えたまま、口をあんぐりと開ける。
リリカは諦めたように笑った。
そんな中、明鏡止水はハッチから飛び降りる。
その身体が、暗闇へと吸い込まれていった。
飛行船の前方には、ひときわ大きな鍾乳石が迫ってくる。
「な、なななんで動かないの!!?
ヤバヤバヤバ!!!」
美咲は半ば発狂したように、あらゆるレバーをガチャガチャと動かす。
だが、まったく反応がない。
「ぶつかるぞ!!」
迅は反射で目を瞑る。
暗闇を落下する明鏡止水の瞳が光る。
その瞬間、サンダーボルトのデバイスにバグが走った。
そして、レバーが勝手に動き始める。
ひとりでにサンダーボルトは飛行を始めた。
「どうなってんの……!?」
機銃の雨をかわしながら、サンダーボルトは斜め上へと曲がっていく。
そのまま円を描くようにUターンし、錐揉みしながら回転。
やや下降し、落下する明鏡止水のもとへ飛ぶ。
そのまま明鏡止水は、サンダーボルトの上へ着地した。
機体は、すくい上げるように上へと推進力を上げていく。
「まさか……あいつの仕業?」
迅は勘繰るように頭上を見上げる。
明鏡止水はサンダーボルトの上で、静かに刀を構えた。
サンダーボルトと赤い飛行船のライトが交差する。
機銃が放たれる。
轟音と共に弾丸が、明鏡止水の横をすり抜けていく。
サンダーボルトは赤い飛行船の下をくぐり抜けるように飛行した。
すれ違う刹那――
機銃の発光を受け、明鏡止水の本体である刀が鋭く光を反射する。
その一閃が、機銃と赤い飛行船の腹部へ差し込まれた。
そして、そのまますり抜ける。
明鏡止水が納刀する。
同時に、機銃は真っ二つに割れた。
さらに赤い飛行船の下腹部から光が漏れ、制御を失った機体は鍾乳石へ激突し、爆発する。
「嘘だろ……?」
迅が呟く。
開いたハッチの向こうで起きた爆発を、迅は呆然と見つめた。
リリカは美咲に抱きつき、喜びの声を上げる。
「え、えええええ?どういうコト!?」
美咲は何が起きたか分からないままレバーを引いた。
飛行船は制御を取り戻し、来た道を引き返すように洞窟を抜けていく。
そして――大空へ飛び出した。
暗闇を抜けた直後、急に開けた明るい空間に出たせいで、目が少し眩む。
眼下には渓谷が広がり、滝が流れていた。
先ほどまでは余裕がなく、景色を見る暇などなかった。
だが今は、思わず息をつくほどの美しさと、畏怖が入り混じった光景がそこにあった。
サンダーボルトは、そのまま東京都市へと飛んでいく。
東京都市の広場に降り立つと同時に、美咲は船体の状態を確認した。
至るところに走る傷。
機銃で穿たれた無数の穴ー。
さらに船体の横には、翼がかすめたことでできた大きな裂傷が、ぱっくりと口を開けている。
「ひどい……まだ数回しか乗ってないのに……」
頭から魂が抜けたような、干からびた表情のまま、美咲は船体をそっと撫でた。
そのとき、明鏡止水が飛行船の頭上から飛び降りてくる。
「あんなんできるなら、最初からやれよ……!」
迅は紗良をおんぶしたまま、呆れ混じりに声をかけた。
「空中戦という貴重なデータ故に、観測が最優先事項であった。文句を言われる筋合いはない」
「お前は監視カメラの方が似合ってるぜ……」
仁王立ちする明鏡止水に、迅は嫌味を返す。
「で、さっきのは何だったの?」
リリカが尋ねる。
「今流行ってるPKじゃないかな。装備も充実してきたし、血気盛んなプレイヤーが多いこと〜」
うんざりしたように、美咲は答える。
「やたら操縦も上手かったし、大手ギルドが絡んでるのかなぁ。そんな噂、聞いたことないケド……」
ウインドウを展開しながら、美咲は考え込む。
そんな美咲を見て、リリカはぎゅっと両手を握った。
「あんなピンチも切り抜けられたし、このチームなら本当に優勝狙えそう!!」
嬉しそうにはしゃぐリリカの隣で、迅だけは赤い飛行船から感じた執念に引っかかっていた。
まるで、すべてを憎んでいるかのような、あの赤い飛行船の狂気。
その残り香が、いまだ脳裏に焼きついて離れなかった。




