第8章 21 冬フェス ヴァーチャルリンク開催
「じゃあ、細かい日程調整とスケジュールは私が作るから、みんな参加できる時間送って!」
美咲が自信満々に言う。
「ええ、大丈夫なの? 私マネージャーいるし、私の方で作るよ。美咲はマップの解析もするんでしょ」
リリカは少し心配そうに話す。
「大丈夫大丈夫! 一回データ入力しちゃえば、いくらでも調整できるし。下にいる明鏡止水にも手伝ってもらうつもりだから!」
美咲は胸の前で、斜め下を指差した。
その先では、まだ子供達に囲まれている明鏡止水の姿があった。
「あいつに共有したら、個人情報とか……問題あるんじゃないか?」
迅が警戒する。
「あはは。流石にスケジュール管理は私がPCでやるよ」
「明鏡止水にはマッピングとかルート設定お願いしようかな。せっかく企業の出してる最新鋭AIなんだし、使わなきゃ損でしょ」
美咲は企むように歯を見せて笑った。
リリカは迅にそっと耳打ちする。
「言っとくけどあんまり無理させちゃダメだよ……」
「そこ近い!!」
再び、紗良と美咲の怒声が重なる。
確かにこれまで美咲に頼り切りだ。
迅は頭を掻きながら、少し反省する。
「悪い美咲。やれることあったら何でも言ってくれ」
「うん! 頼りにしてる!」
迅の言葉に、美咲は素直に頷く。
紗良が明鏡止水を見ながら首を傾げた。
「あれ? そういえば今回のチームって、アイドル1人、サポートメンバー4人だから……1人多くない?」
「リリカ、迅、美咲、私、キャットちゃん……そして明鏡止水……」
「それなんだけど……」
リリカは先ほど見ていた大会規定のウインドウを開く。
「私も気になってさっき調べたんだけど、今回の参加条件としてプレイヤーIDを参加者名簿に明記しないといけなくて……」
「残念だけど……」
リリカは言い淀んだ。
「プレイヤーIDって何?」
「デバイスとアカウント、あと本人照合を一括で管理してる番号だよ」
「なりすましとか身代わりを防ぐための、その人に紐づいたデータって感じかな」
「つまり、明鏡止水はプレイヤーID持ってないから参加できないね」
美咲は説明しながら、さらっと言った。
「……ちょっと待て」
「参加できないとは、どういうことだ?」
明鏡止水が地上からテラスへ飛び移り、着地する。
「ちゃっかり聞いてたんだな、こいつ……」
迅は心の中で呆れる。
「ならば武器として連れて行け……!」
全員が一斉に顔を見合わせた。
迅と紗良は首を振る。
リリカは申し訳なさそうに、自分の拳銃のホルスターを指差した。
そして最後に視線を集めた美咲が口を開く。
「邪魔だからヤダ」
明鏡止水が膝から崩れ落ちた。
「なん……だと……?」
「あはは……アバターを武器扱いで参加できるか、運営に聞いてみるね」
リリカは気まずそうに問い合わせたが、当然のように却下された。
明鏡止水は最後の手段と言わんばかりにユーザーIDを偽造しようとしたが、リリカに迷惑がかかるため、三人で全力で阻止する。
こうして長い説得の末、観測用の小型人形を美咲の肩に乗せ、本体の明鏡止水はストレージで留守番することに落ち着いた。
便利というか、不便というか。
名残惜しそうに手を振る子供たちに見送られながら、一行は村を後にした。
飛行船へ乗り込み、それぞれ席に着く。
リリカは楽しそうにスケジュールを確認していた。
湧き上がる興奮を抑えるように口元をきゅっと結んでいる。
遺跡探索に入る前よりも、どこか表情が引き締まって見えた。
一方の美咲は、何度か操縦を経験したおかげか、すっかり慣れた様子で操縦席に座っている。
距離からして、東京都市まではあと十分ほど。
迅は小さく息を吐き、目を閉じた。
飛行船は渓谷エリアへと入っていく。
機体の下には、底の見えない谷が暗く続いていた。
その時、雲の切れ目に小さな影が映る。
「……?」
美咲は目を細め、その影を見つめた。
影は徐々に大きくなる。
そして、その正体に気づいた瞬間――
美咲はレバーを思い切り横へ切った。
「皆、掴まって!!」
サンダーボルトは横へ大きく傾き、そのまま縦へ回転する。
船内もぐるりと回転し、迅、紗良、リリカは席から投げ出された。
「ちょ、いきなりどうしたの!?」
紗良が叫ぶ。
その瞬間――
赤い飛行船が、すぐ横をかすめて通り過ぎた。
鋭い赤い翼がサンダーボルトの船体を掠める。
翼は紗良の鼻先をかすめ、削られた船体の隙間から外の景色が見えた。
紗良の顔から血の気が引いていく。
「なんだ、あれは……!?」
迅は壁をしがみつきながら体勢を保ち、横向きのまま操縦する美咲へ叫んだ。
「分かんない……! でもまだ来る!」
「機体戻すから! 皆ちゃんと掴まって!!」
3人は辺りの物にしがみつき、サンダーボルトは再び水平に戻る。
その背後で、赤い飛行船がUターンし、再び加速した。
船体には機銃が備え付けられている。
まるで獲物を狙う猛禽のように、サンダーボルトの後ろへ張り付いた。
美咲は下を確認し、操縦席横のレバーを引く。
翼が傾き、機体は急降下する。
サンダーボルトは渓谷の狭間へと滑り込んだ。
その頭上から、赤い飛行船が機銃を放つ。
空気を裂く重い音。
外れた銃弾は谷の岩肌を削り、砕けた岩が奈落へと落ちていく。
「ヤバイヤバイヤバイ……!」
美咲は焦りながらも、機銃の照準を定めさせないよう機体を左右へ揺らして飛ばす。
その先に、渓谷を流れる幾筋もの滝が見えた。
さらに奥には――
巨大な洞窟群が口を開けている。
滝を避けながら、サンダーボルトは飛ぶ。
水飛沫が激しく舞い、船体を濡らしていく。
洞窟の入口は、まるで巨大な蛇が大地を掘り起こしたような異様な形をしていた。
その奥は果てしなく続いているように見える。
頭上では、赤い飛行船がしつこく斜め上後方へ張り付いていた。
「……ああ、もう!!」
美咲が覚悟を決めるように叫ぶ。
迷っている時間などなかった。
サンダーボルトはそのまま直進し、洞窟へと進路を進める。
「ぶつかる…!?」
紗良はそのまま気を失って席へ崩れ落ちた。
サンダーボルトが洞窟へ逃げ込もうとするのを見て、赤い飛行船は機銃を砲身へと換装する。
そして、銀色の弾頭を射出した。
サンダーボルトの操縦席で、エマージェンシーコールが鳴り響く。
美咲は素早く二段階で出力を上げ、急加速した。
ぎりぎりで弾頭をくぐり抜け、そのまま洞窟へ到達する。
直後、弾頭が岩肌に突き刺さり――炸裂。
禍々しい黒煙とともに爆発が巻き起こった。
空気が震え、風圧でサンダーボルトも大きく揺れる。
舵を持っていかれないよう、美咲は歯を食いしばり、両手でレバーを握り締めた。
岩肌にかすめながらも体勢を立て直し、さらに洞窟の奥へと飛ぶ。
後方では、爆発によって洞窟の入口が崩落していく様子が見えた。
煙によって洞窟の入り口が塞がれていく。
美咲は少し息を吐き呼吸を整える。
しかしわずかな安堵も、すぐに打ち砕かれる。
煙を突き抜けて、赤い飛行船が洞窟へと侵入してきたのだ。
「……しつこい!」
ハイエナのような執念。
奥へと進む度に洞窟に差し込む光は次第に減っていく。
両機体はライトを照らしながら飛行することになった。
飛行船が通れるほど巨大な洞窟だったが、ライトの届かない少し先は深い闇に沈んでいる。
美咲は飛行に全神経を集中させる。
時折現れる石柱や鍾乳石を避けながら、機体を滑り込ませるように飛ばしていく。
赤い飛行船との距離は、わずかずつだが開き始めていた。
――だが。
再び機銃が火を吹く。
サンダーボルトの船体に、いくつもの穴が穿たれた。
明鏡止水が刀を構え、撃ち込まれた弾を弾く。
「反撃する手段はないのか……!?こっちも機銃とかミサイルとか…!」
迅は気を失った紗良を抱えながら叫ぶ。
「予算オーバーでそんなの積んでませーん!!」
美咲も叫び返した。
「ハッチを開けろ。迎撃する」
明鏡止水が刀を納め、静かに言う。
美咲は後ろを振り向かないまま、ハッチを開いた。
明鏡止水は階段を一歩、また一歩と下っていく。
その眼下には、高速で流れ去る空気と、底知れぬ暗闇が広がっていた。




