第8章 20 冬フェス ヴァーチャルリンク開催
リリカは笑いすぎて目尻に溜まった涙を拭う。
そして、明るい笑顔を見せた。
その様子に安堵したように、迅は背もたれに身体を預ける。
「結局、例の話は聞かなくていいの?」
隣で紗良がひそひそと尋ねてくる。
迅は首を横に振った。
リリカとサオリの間に何があったのかは、まだ分からない。
けれど、言いたくないならそれでもいい。
リリカの気持ちは、尊重するべきだと迅は思った。
「で、これからどうする?」
迅が確認する。
紗良とリリカは、そろって頭の上にハテナを浮かべたような顔をした。
「本気でイベント勝ちにいくなら、準備が必要だろ」
美咲は少し考え込む。
「確かに……。こればっかりは私も情報持ってないなぁ」
「そっか、そうだよね!確認してみる!」
リリカは慌てながらも、嬉しそうに参加者に配られたイベント情報を探り始めた。
「新マップだから、地形とかザックリとしか分からないけど……はい!」
そう言って、ウインドウにマップ情報を展開する。
マップは大きく上層と下層に分かれており、巨大な大樹に寄り添うように円形状のビルや施設が並んでいた。
「ずいぶん複雑なマップだね。高低差もあるし、他のチームを出し抜くなら機動力は重要かも……」
美咲は地形を読み取るように視線を動かし、マップとにらめっこしながら呟く。
「リリカ、他には?」
「えーと、あと欲しいのはカメラマンかなぁ。動けて、演出の知識もあって……んー」
「自分で言ってて、そんな人いない気がしてきた……」
確かに、この場にいる誰も撮影技術は持っていない。
カメラ機能を使えば自動撮影もできるが、他のアイドルに勝つにはそれでは弱い。
その時、宿屋のテラスに一匹の猫がやってきた。
陽だまりの中でテーブルの上に丸くなり、気持ちよさそうにくつろいでいる。
紗良はだらしない顔になりながら、いそいそと駆け寄って撫で始めた。
「……あ!」
猫を見つめたまま、紗良が何かを思いついたように声を上げる。
「一人、心当たりがあるかも」
猫は大きく欠伸をしていた。
『ええ!? 私がヴァーチャルリンクの参加者に?』
デバイスの先から、驚きの声が飛び出した。
紗良のアイデアにより、美咲は八雲商会のキャットへ参加の交渉を持ちかけていた。
『ごめん…それが今イベントにお店出す計画で、てんてこ舞いの大忙しで……。あ、資材の帳簿、八雲が持ってるから聞いてみて!』
キャットはギルドメンバーと打ち合わせをしながら話している。
ビデオチャットの向こうでは、慌ただしく人が行き交い、商会の喧騒が響いていた。
「そこをなんとかお願い……!」
美咲が必死に頼み込む。
すると、キャットの映る画面の奥から、ひとりのプレイヤーが近づいてきた。
「お久しぶりです。なんや困ってるみたいですね?」
キャットの隣に座ったのは、見慣れたプレイヤーだった。
関西弁で、のんびりと話す。
「八雲!」
美咲は、八雲とキャットへ今までの状況と協力の申し出をかいつまんで説明した。
「そーですか。ええんちゃいます? 面白そうやし、キャットちゃん協力しよや!」
あっけらかんと答える八雲。
その瞬間、キャットが軽くチョップを入れた。
「アホか! 準備はどうするんや、八雲! 店のデザインから何から、全部アンタ一人でできるわけないやろ!」
「いや~、でもせっかく迅くんらが頼ってくれてるんやし……」
さっきまでの勢いが嘘のように、八雲の語尾が弱くなる。
完全に尻に敷かれている様子に、迅は思わず同情した。
「姐さん! 参加してきてくださいよ!」
「リーダーの足りないとこは、俺らに任せといてください!」
突然、ビデオチャットの画角に、八雲商会のメンバーたちが押し寄せてくる。
「あ、迅さんだ!」
「お久しぶりです!」
「元気してっか?」
「また大阪遊びに来いよ!」
次々と見覚えのある顔が映る。
画面の向こうは、一気に騒がしくなった。
その様子に、八雲とキャットは困ったように笑う。
「お前ら騒がしいねん! 僕らが話してるとこやろー!」
八雲が押し寄せるメンバーに対抗して映ろうと必死である。
どこか楽しく嬉しそうな雰囲気。
「みんなありがと。そういうことやから、私参加できそう!」
「あとで打ち合わせの日程調整したいから、細かい日時連絡ちょうだい!」
そして後ろを振り向く。
「ほら皆! 準備再開して~!」
「へーい……」
キャットの号令に、商会メンバーは気だるそうに返事をしながら、それぞれの作業へ戻っていく。
やがて通話は終了した。




