第6章 5 暴かれる真実
名称を修正しました ルージュ→ローゼ
ラウンジにいた連合ギルドのプレイヤーたちは、次々と退出していく。
騒がしかった空間は、少しずつ静けさを取り戻していった。
俯いたままの紗良を、美咲がそっと抱きしめる。
「ごめんね…気づかなくて」
その言葉に、紗良は声にならない嗚咽を漏らした。
その様子を見て、ローゼが静かに近づく。
「……すまない。
配慮が足りなかった」
ローゼは肩を震わせながら、頭を下げる。
紗良はゆっくりと顔を上げた。
「……私こそ、ごめんなさい。
本当は、自分の言葉でちゃんと伝えなきゃいけなかったのに……」
悔しさに、目尻が滲む。
ローゼは一度目を閉じ、天を仰いだ。
「……その気持ちは分かる」
「私も、さっき皆の顔を見て……言葉に詰まってしまった。
失望した表情を見た瞬間、何も言えなくなってしまってね」
ローゼは一歩踏み込み、紗良の両肩を掴む。
「あの場で、皆の意見を変えた。
私は尊敬している…」
「…どうか!
自信を持ってくれー。」
突然の言葉に、紗良は驚く。
そしてー。
紗良はローゼの言葉をゆっくりと噛みしめ、目尻の涙を拭う。
「…はい!美咲はすごいんです!」
その一言に、迅は思わず頭を抱えた。
(自分が褒められてると気づいてない……!)
美咲も乾いた笑いで、その場を誤魔化すのだった。
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その後、ローゼはすっかり紗良を気に入り、3人をサウスウインドの庭園へと招待した。
丁寧に手入れされた庭の一角に、赤い薔薇園が顔を覗かせている。
「これは、私が遠征調査で持ち帰った種でね」
「逆に、こういった現存に近い種は一部の特定の地域にしか咲かない、かなりの貴重品なんだ」
自慢げに語るローゼ。
「へぇ……薔薇が好きなんですね」
紗良は薔薇とルージュを交互に見つめる。
「実は母の影響で、現実でも薔薇を育てていてね」
「この美しい赤には……どうにも私の心をくすぐる何かがあるらしい」
少し照れたように、困ったように話すローゼ。
庭園に隣接する部屋の窓が開いている。
その奥では、机に向かいウインドウを見つめている人物がいた。
ジェニス・ワトソンだ。
不意に、迅とワトソンの視線が交わる。
「……なんだ。まだいたの、君たち」
相変わらずぶっきらぼうな口調だが、悪意は感じられない。
むしろ、世界を俯瞰して物事を見ているような、達観した雰囲気すらあった。
ワトソンはウインドウを閉じる。
「……ずっと気になってたけど、そのアバターのラインは何?」
「何かアドバンテージでもあるの?」
紫電のアバターを観察するように問いかける。
「ふふん!それはね……カッコいいから!!」
美咲は迅の隣に立ち、胸を張る。
「……つまり、何の効果もないのか。
理解に苦しむね」
「ええ!?外見は大事でしょ!
モチベーションとか上がるじゃん!」
「精神論には興味ないかな。
僕なら意味を持たせるけどね」
気づけば二人は、窓枠越しに顔を突き合わせていた。
「精神論じゃないし!
それに紫電がシンプルだから、プレイヤーの資質が輝くの!」
「シンプルを重視するなら、ラインをつけること自体が間違いだよ」
「それにシンプルって聞こえはいいけど、使用者の応用力の低さを棚上げしてるだけじゃない?」
即座に返される反論に、美咲は身悶える。
「…確かに迅は頭が硬いけど…!」
「……お前ら、言いたい放題だな……」
目の前で好き放題に言われ、
間に挟まれた迅は、ますます複雑な気分になる。
「まぁまぁ兄ちゃん!
ワトソンが人にここまで興味示すの、かなりレアだぜ?」
「むしろ誇っていいと思うぞ!」
ミハイルが近づき、迅を励ます。
「……おかしなこと言うなよ、ミハイル。
僕は観察対象として見てただけだ」
ワトソンは不機嫌そうに言い放つ。
「じゃあ、僕は作戦考えてるから。これで」
バタン、と勢いよく窓が閉められた。
美咲と迅は面を食らう。
「ははは、あいつはいつもあんな調子だ。気にするな」
ミハイルは擁護するが全く同意できない美咲と迅だった。
気を取り直し、庭園の雰囲気を楽しむ。
薔薇を気に入った紗良を見て
薔薇園で摘まれた一輪の薔薇を、ローゼは紗良に差し出した。
「よければ……受け取ってくれ」
紗良は少し驚いたように目を瞬かせ、それから大事そうに両手で薔薇を受け取る。
「ありがとうございます……!」
そのまま、壊れ物を扱うようにウインドウを開き、丁寧に薔薇をしまった。
「君たちとは仲良くやっていけそうだ。
これから戦う同志として、協力すると…
渡した薔薇に誓おう」
ローゼのウインドウからタイマーが鳴る。
「……すまないが、時間だ」
ローゼはウインドウに映る時間を見る。
「そろそろギルドメンバーを集めて、作戦会議をしなければならない」
どこか名残惜しそうに、ローゼは告げる。
紗良は首を横に振った。
「ローゼさん!
薔薇、大切にします。
ありがとう!」
その無邪気な笑顔に――
「……はう……!」
ローゼは思わず声を漏らし、胸元を押さえる。
そしてしばらく硬直するローゼ。
「おーい、
早く戻ってこーい」
呆れた様子で声をかけるミハイル。
「……!」
「……コホン」
我に返ったローゼは、軽く咳払いをする。
「それでは……ローマで会いましょう」
階段に躓きながら、ギルド会館に戻るのだった。




