第6章 2 暴かれる真実
迅がメールを受け取って3時間後。
アメリカ――サウスカロライナ州。
サウスウインド・ギルド本館。
一人の青年が、机にしがみつくようにしてデータを閲覧していた。
窓の外には、豊かな自然と一体化した庭園が広がっている。
整えられた芝生の合間を縫う小道。
時折、噴水が水しぶきを上げ、その粒が陽光を受けてきらきらと瞬く。
「ワトソン〜、どこにいるの〜」
遠く、廊下の向こうから女性の声が響く。
だが青年は気にも留めず、デバイスのウインドウと睨めっこを続けていた。
やがて、青年のいる部屋の扉が開く。
「あ、ここにいた!
返事くらいしなよ」
声の主である女性が、扉にもたれかかるようにして言う。
青年はようやくウインドウを閉じ、面倒くさそうに振り向いた。
彼の頭上に、プレイヤーネームが表示される。
**ジェニス・ワトソン**
獣人のアバターで額から伸びる角には金の装飾が施されている。
ワトソンは眼鏡を持ち上げ、位置を調整する。
「……ローゼ。
どうせ、また面倒事だろ?」
ローゼと呼ばれた女性は、小さく息を吐き、手を振った。
彼女の頭上にもプレイヤーネームが浮かぶ。
**ルージュローゼ**
「あなた、その面倒くさがりな態度……
皆の前では出さないでね」
「ギルドリーダーなんだから……」
ローゼの言葉に、ワトソンは目を細める。
「……別に、僕は気にしないけど」
「アタシが気にするのよ! もう!」
煮え切らない態度に、ローゼは食い気味に言い返す。
「はぁ……。
で、肝心の要件は?」
ワトソンは聞く。
“話の腰を折ったのはそっちでしょ”
そう言いたくなるのを飲み込み、ローゼは本題に入った。
「九尾の晩餐に対抗して、連合ギルドを組む件。
もう話し合って決めたことでしょ?」
ワトソンの視界に、ウインドウが展開される。
参加ギルドの一覧が共有された。
「……そうだったっけ」
そう言いながらも、ワトソンの視線はすでに別の所を追っている。
参加ギルドの名前と、サウスウインドが集めた情報を次々と照合し、
戦力、役割、得意分野を整理していく。
ローゼは、その様子を黙って見守っていた。
やがて、まとめられた情報がローゼの元へと返される。
「ほんと……
あなた、こういうところは天才よね」
「別に……
ただ情報をまとめただけ」
「さ、ラウンジに来て」
ローゼは笑いながら、ワトソンがまとめた情報を指でトントンとつつく。
「皆、待ってるわよ」
ワトソンは舌を出し、
今日一番と言っていいほど嫌そうな顔をした。
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迅たちはサウスウインドの誘いに応じ、他のギルドの面々と顔を合わせていた。
今回、連合に参加するギルドは以下の六つ。
* 南の風
* 三剣の騎士団
* 黒の狼
* 傭兵同盟
* 一粒の星の砂
* 紫の境界
サウスウインドを除く五ギルドの主要メンバーが、
本館ラウンジに集められていた。
広々とした空間に、微妙な緊張が漂っている。
互いに敵ではない。
だが、味方だと決めるには、まだ早い――
そんな距離感だ。
「……大丈夫なの?
いきなり来ちゃったけど……」
紗良が小声で囁き、周囲をうかがいながら迅の腕にしがみつく。
迅も、その不安には頷くしかなかった。
「……まぁ、変なことになったら、
さっさとトンズラすればいいんじゃない?」
美咲が、あっけらかんと言い放つ。
身も蓋もないが、迅と紗良は顔を見合わせてから頷いた。
そのとき、奥へ続く扉が開いた。
現れたのは、三人のプレイヤー。
その瞬間、ラウンジにいる全員の視線が、そちらへ集中する。
彼らの頭上には、共通してギルド名が表示されていた。
――《サウスウインド》。
先頭に立つ女性が、一歩前へ出る。
「お集まりいただき、ありがとうございます」
「本日、皆さんを招待しました
サウスウインド副団長、ルージュローゼです」
ローゼは丁寧に一礼する。
少し遅れて、隣の二人も頭を下げた。
そのうちの一人、体格の大きな獣人が口を開く。
「俺は、サウスウインド戦闘隊長、マーク・ミハイルだ」
「まぁ、堅い話はほどほどにな。
楽しんで攻略しようぜ」
ミハイルは豪快に笑う。
「…………」
ただ一人。
最後のプレイヤーだけは、自己紹介をせず、
じっと迅たちの方を見つめていた。
「……ねぇ、迅」
「めっちゃ、こっち見てない? あの人……」
紗良が、迅の背中に半分隠れながら囁く。
ローゼは、その視線に気づくと、
自己紹介を促すように肘でワトソンを軽くつついた。
「……ジェニス・ワトソン。よろしく」
短く、それだけ。
その名を聞いた瞬間、ラウンジがざわついた。
「……錬金術師のワトソンか!」
「想像と、だいぶ違うな……」
囁き声が、あちこちから漏れる。
そのざわめきを切るように、一人の騎士が前へ出た。
白銀の鎧に身を包み、背後には同じ装備の二人。
三人は揃って剣を掲げる。
「それで……サウスウインドの御三方」
「我々は、何を話し合うために呼ばれたのですか?」
「……あいつらは!」
プレイヤー達がざわつく。
「ポンコツ騎士団のアーサーだ!」
「誰がポンコツ騎士団だ!!」
「……っ!
さては貴様らも我々のアンチだな!?
日夜、俺等がどれだけコメントで争っていると思って…!」
本気で悔しがるアーサーの姿に、
ラウンジのあちこちから笑いが漏れる。
「くっ……!」
顔を真っ赤にするアーサー。
「笑うなぁぁぁぁ!!」
アーサーの声が虚しくラウンジに響くのだった。




