第6章 暴かれる真実
翌朝ー。
迅は、アラームが鳴る前に目を覚ました。
デバイスを装着し、洗面台へ向かって歯を磨く。
何気なく開いたSNSには、今回の奪還戦に関する情報と、プレイヤーたちのコメントが次々と流れてくる。
一番のトレンドは、やはり――九尾の晩餐。
歯ブラシの動きが、思わず止まった。
〈躍進!九尾の晩餐が数多の戦場を制覇
突然の躍進に、困惑するプレイヤーたち〉
煽るようなネット記事のタイトルが並び、コメント欄は荒れている。
「さすが最強ギルドだ」と擁護する声もあれば、
「大手ギルドの強引な立ち回りは問題」
「システムバランスが崩れているのではないか」
と、運営への不満を持つ内容も目についた。
準備を終え、迅は学校へ向かって家を出る。
外は、静かに雪が降っている。
サクサクと雪を踏みしめながら、駅へと向かう。
電車を待っていると、聞き慣れた声が背後から飛んできた。
「おっはよ!」
横から肩をすくめるように、美咲が体当たりしてくる。
「寒ーい……」
相変わらず鼻を赤くして、必死に寒さに耐えている。
「……ん」
迅はポケットに忍ばせていた携帯カイロを取り出し、無言で差し出した。
「あったか~い!」
美咲は縋るように両手でカイロを包み込み、その熱を感じている。
その様子を見て、迅の口元が自然と緩んだ。
「そういえば、SNS見た?」
美咲の問いに、迅は頷く。
「九尾の晩餐の話なら少し。
……とんでもない奴らみたいだな」
「ほんとそれ!
まだ調べてるけど、九尾の晩餐の影響で仮想世界、かなり混乱してるみたい」
線路の奥から、電車の音が近づいてくる。
二人は電車に乗り込む。
美咲はすぐにデバイスを操作し、迅に情報を共有した。
表示されたのは――
**イタリア・ローマ都市。奪還戦、未だ成功せず。というタイトルの記事**
防衛戦に移行してから、すでに一日以上が経過している。
「防衛戦は一カ所だけなのに……どうして勝てないんだ?」
迅の疑問に、美咲は欠伸をしながら答える。
「一カ所だけなのが逆に問題みたい。
大手ギルドが我先にって奪還戦エリアに入って、戦闘始めちゃってさ。
プレイヤー同士の戦闘が増えて、大混乱。
今は完全に膠着状態みたいだよ」
電車の揺れに身を任せながら、美咲の身体が左右に揺れる。
「運営も、ここまで防衛戦が成功するとは想定してなかったみたいだね~」
迅は、窓の外に流れる雪景色を眺めながら言った。
「……今日、放課後。様子を見に行くか」
美咲は、ぱっと表情を明るくして頷いた。
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学校に着き、美咲と下駄箱で別れ
席に座ると、デバイスに通知音が鳴った。
紗良からだ。
> おはよ!
> 放課後、仮想世界行ってみない?
迅は少し考えてから返信する。
> いいよ
> 今日、朝に美咲とも行こうかって話してたところ
しばらくして、すぐに返事が返ってきた。
> 分かった!
> 家に帰ったら、さっそくログインする!
迅はグッジョブのスタンプを送り返す。
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そして放課後。
迅は家に着くなり、そそくさと準備を済ませ、デバイスを展開した。
視界が切り替わり、仮想世界へとログインする。
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**仮想世界・東京エリア。**
眼下に広がる光景に、思わず目を疑った。
都市の真上を、何隻もの飛行船が悠然と飛んでいる。
一昨日までは、こんな光景はなかったはずだ。
目を凝らすと、それぞれの飛行船にウインドウが表示される。
どうやら、すべてプレイヤーが所有している機体らしい。
「……どういう事だ?」
そのとき。
「迅!」
声のする方を見ると、紗良がカフェエリアの方から駆け寄ってくる。
どうやら先にログインして、待っていたようだ。
迅の視線を追うように、紗良も空を見上げる。
「すっごいよね。
飛行船の色もカラフルだし……ほんと、未来の都市って感じ!」
「……だな」
二人は、しばらく言葉もなくその光景に見入っていた。
と、その背中をトントンと叩く感触。
「お二人さん、ちょっと近すぎじゃないのかい〜?」
振り返ると、いつの間にかログインしていた美咲が、
ジト目でにやにやと笑っている。
「……っ!
べ、別に普通でしょ……!」
紗良は慌てて顔を背ける。
迅も少し困ったように、後頭部に手をやった。
「青春ですなー」
「おじいちゃんみたい……」
茶化す美咲に、紗良が冷ややかに言い返す。
「飛行船がこんなに飛んでるけど、俺たちがログインしてない間に何があったんだ?」
昨日、日中にログインしていた美咲に尋ねる。
「あ〜、昨日からちらほら増えてきてたよ。
確実にコレ、防衛戦の影響だろーね」
迅の脳裏に、あの防衛戦の光景がよぎる。
そして、一つの答えに辿り着いた。
「……あの時の戦艦か」
「そ。
みんな、飛行船の重要性に気づいたんだと思う」
「……でも、たった二日でここまで変わるなんて……」
紗良は、変わり果てた景色にまだ納得しきれない様子だった。
「仮想世界だからね。
“欲しい”って思ったら、すぐ手に入る」
その言葉に、迅と紗良は改めて思い知らされる。
ここは、現実とはまったく違う世界なのだと。
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ピロンー。
迅の元に新たな通知が届いた。
見慣れないプレイヤー名。
表示された所属ギルドは――**サウスウインド**。
**副団長:ルージュローゼ**
迅は、少しだけ表情を引き締め、メールを開く。
> 紫電殿
>
> イタリア・ローマにて発生している奪還戦、
> および九尾の晩餐に対抗するため、
> 協力関係を結びたいと考えています。
>
> 参加の意思があれば、返信をお待ちしています。
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