第3章 6 そして世界へー。
葵・時雨は冷ややかな顔で転送ゲートを通り、
中国――**上海都市**へと戻った。
都市を進むにつれ、視界の正面に
絢爛豪華な宮殿が姿を現す。
**九尾の晩餐・ギルド本館。**
巨大な門の前で立ち止まり、
葵・時雨が手を掲げる。
手首の腕輪が淡く光り、
それに応じるように門が、ひとりでに開いた。
本館の内部には、数多の銅像や武器が並んでいる。
いずれも、これまでの戦いで得られた戦利品だ。
「……」
歩きながら、ぽつりと呟く。
「ここは、いつ来ても息が苦しくなるね」
圧迫感――
それは建物の大きさだけではない。
積み重ねられた“勝利”そのものが、空間を支配している。
そのとき、正面から大柄な男が現れた。
**李・酒龍**
二メートル近い長身。
黒と赤を基調とした装束を纏い、背には青龍刀。
側近のプレイヤーを従え、堂々と歩いてくる。
「やあ、李。
エジプト観光はどうだった?」
葵時雨が軽く声をかける。
「……もう少し楽しめると思ったんだがな」
李・酒龍は顎を擦りながら答える。
「期待外れ、というほどではないが」
腰元にぶら下げた黄金の拳銃が、わざとらしく光った。
「それ、なに?」
葵・時雨は、面倒そうに視線だけ向ける。
「ははは、そんな顔をするな」
李・酒龍は笑う。
「先ほど、総帥から正式に所持を認められた。
どう身につけようと、俺の勝手だろ?」
エジプトに現れた
**キャプテン・ブラック**の戦利品。
「……ふーん」
興味を示さず、葵時雨はそのまま横を通り過ぎる。
「…つまらん女だ」
吐き捨てるように言い、
李・酒龍は外へと向かっていった。
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本館の最奥。
巨大な九尾の絵画が、壁一面を覆っている。
その瞳は、見る者すべてを映し込み、
まるで内側まで見透かすかのようだ。
円卓の、最も奥の席。
そこに、一人のアバターが腰掛けていた。
九尾の晩餐・ギルドリーダー。
**総帥**と呼ばれる男。
――**中国の至宝・白澤である。**
「総帥。
ただいま帰還しました」
葵・時雨が軽く頭を下げる。
「おかえりー、葵」
総帥は穏やかに笑い、そう言った。
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白澤は、葵・時雨に視線を向けた。
「さっそく、今の日本の状況を教えてくれるかい」
「はいー」
葵・時雨は、淡々と報告を始める。
日本都市の経済状況。
所属プレイヤーの戦闘能力。
広まっている噂や、裏で囁かれている情報。
一つ一つ、過不足なく。
「……なるほど」
白澤は静かに頷いた。
「随分と、日本にも動きが出てきたようだね」
ふと、視線をウインドウへ向ける。
そこには、**スクリーム**と**暁月**の情報が表示されていた。
「それにしても、予想外だった」
白澤は小さく息を吐く。
「猿の王は、彼らが倒すものだと思っていたが」
そう言って、ウインドウから
**神珍鉄**をストレージより取り出す。
「おかげさまで、オークションに流れ、
我々の元に英雄具が渡った」
柔らかな笑み。
「これも、葵時雨が日本監視の任に当たってくれたおかげだ」
「ありがたき御言葉です」
葵時雨は両手を合わせ、静かに跪いた。
「……紫電、か」
白澤は目を細める。
「どうやら、腕の立つ協力者が何名かいるようだね」
「引き続き、監視が必要そうだ」
一瞬、夢を見るように目を閉じる。
「できることなら――
彼の“軍師”には、我々のギルドへ来てほしいものだ」
神珍鉄を再びストレージへと納める。
呼吸ひとつひとつが、異様なほどゆっくりで、丁寧だった。
円卓の周囲には、**九つの椅子**が用意されている。




