表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/86

第3章 4 そして世界へー。

店を後にし、迅はランク戦エリアへと向かった。


先ほど出会ったプレイヤーのことが頭をよぎるが、考え込む間もなく、10分ほどで目的地に到着する。




新調したパーツのおかげで、身体が軽い。


動かした分だけ、反応が一拍早く返ってくる感覚があった。




ランク戦エリアは、巨大なコロッセオのような造りをしている。


外にいても、戦っているアバターの姿や金属音、そして歓声がはっきりと聞こえてきた。




受付エリアでは、途切れることなくプレイヤーが登録を行っている。




足元から、張りつめた空気が伝わってくる。


ピリピリと、電気が走るような感覚。




(……さすがランク戦)




見渡す限り、どのプレイヤーも一筋縄ではいかなそうだ。




「おい、あいつ……」




「意外と弱そー。俺でも余裕じゃね?」




そんな囁きが、耳に届く。




だが迅は気にも留めず、淡々とランク戦登録を済ませた。




――マッチング検索中。




ウインドウに表示される文字を眺める。


このゲームでは、登録するだけでシステムが自動的に対戦相手を選出してくれる。




――マッチング成功。




表示が切り替わり、淡い光が紫電を包み込んだ。




『戦闘エリアへ移動します』




『5……4……3……2……1……0』




視界が反転する。




次の瞬間、立っていたのはコロッセオの内部だった。




壁際には松明が灯り、二階席の観客エリアには無数のアバターが立っている。


見下ろすような視線が、一斉に紫電へと集まった。




「おー! ケルン防衛戦の!」




「大阪の陣の大将やん!」




「へぇ、ランク戦やってんだ」




ざわめきの中、対戦相手が前へと歩み出る。




相手のアバターは、戦鎚使いだった。


巨大な戦鎚の先端には噴射口が取り付けられている。




磨き上げられた鎧は重厚で、軽い攻撃など弾き返しそうだ。


だがその分、重量に引っ張られ、動きは鈍そうにも見える。




(……悪くない)




『対戦カードはこちら!』




『飛龍の座――紫電!』




『地竜の座――麻婆茄子美!』




『それでは、バトル開始!』




「……なんだ、その名前は」




一瞬、意識が逸れた。




その刹那を逃さず、相手が踏み込んでくる。




「まずは一撃!!」




戦鎚の噴射口から火柱が噴き上がる。


振りの威力と速度を増幅するパーツらしい。




地面を砕く一撃。


爆音とともに、土煙が舞い上がった。




「おーっと! 麻婆茄子美選手、凄まじい一撃だ!」




「ああっと紫電選手、あんなに遠くにいる!」




「どうやって躱したんだぁ!?」




司会のコールが、会場をさらに煽る。




紫電は、相手の横をすり抜け、数メートル先へと退避していた。




(……これなら)




跳躍。




先の戦いで見た、ゴクウの動き。


跳躍と走りを組み合わせた、あの軌道。




同じ動きとまではいかない。


だが――撹乱するには十分だ。




紫電は一気に距離を詰め、相手の足元へと飛び込む。




慌てた相手が、反射的に攻撃を繰り出した。




――単調。




(見えた)




最適なタイミングで、カウンターを合わせる。




衝撃。




相手のアバターが、宙に浮いた。




「もう一発――!」




踏み込み、渾身の右ストレート。




拳が胸部に突き刺さり、そのまま壁へと叩きつけられる。




『KILL』




会場モニターに、決着の文字が表示された。




迅は、静かに息を吐く。




観客席がざわめいた。




「おい、あいつ……」




「……例の……」




だが、その視線は紫電だけに向けられたものではなかった。




二階席の一角。




暁月とスクリームが、並んで紫電を見下ろしている。




三人は言葉を交わすこともなく、


ただ静かに――互いを見つめ合っていた。


---




受付エリアへ戻ると、二人はそこに立っていた。




「……何か用ですか?」




迅は丁寧な口調を保ちながらも、無意識に警戒を滲ませて問いかける。




「君、紫電さんでしょ?


 強いって聞いたけど――大したことなさそうだね」




「おい、失礼だぞ」




嘲るように言うスクリームを、暁月が手で制した。




「すまない。この前の戦いだが……


 俺たちは、ボス討伐を目的に参加していた」




暁月は静かに続ける。




「思ったより君たちが早く着いてしまってな。


 コイツは獲物を取られて、少し機嫌が悪い」




「私は早い者勝ちだと思うが…」




「いやー、納得いかないっしょ?」




スクリームが肩を揺らして笑う。




「あんだけ御大層に宣伝しといて、


 ボス掻っ攫っちゃうんだからさ」




「俺らだけでも、ヨユーだったし」




「……まぁな」




二人の言葉には、揺るぎない自信が滲んでいた。




「てことでさ」




スクリームが一歩踏み出す。




「ボス討伐した八雲って人、ここに連れてきてよ。


 実力差、ハッキリさせてあげるからさ!」




マスクをカタカタと揺らしながら嗤う。




「いや、連れてこない」




迅は即答した。




「八雲は忙しいからな」




「あれー? 逃げちゃうの?」




迅は一歩、前に出る。




「俺も、今は強いやつと戦いたい。


 ――俺と、サシでやろう」




呼応するように、紫電の身体から電気が迸った。




---




転送。




コロッセオ内部。




スクリームと紫電が、向かい合う。




互いに距離を詰める。




スクリームは武器を持っていない。


両手は素手。だが、ロングコートの内側に“何か”を隠している気配がある。




近づくほど、脈が早くなる。


心臓の音が、耳元で鳴っているかのようだった。




――先に仕掛けたのは迅。




内側に締めた、最短距離のフック。


速度を最優先した一撃。




「アハッ! 早漏ヤロー!」




スクリームは跳躍し、紫電の腕を踏み台にしてさらに跳ぶ。




真上。




同時に、マスクを外した。




「――バウッ!!」




鉛のような圧が、空気ごと叩きつけられる。




紫電は即座に後方へ加速し、ギリギリで回避する。


だが、雷鳴のような衝撃が先に届き、装甲が軋んだ。




「そんなの、見てから避けても無駄無駄!


 どんどん行くぜオラ!」




「バウ! バウ! バウ!!」




着地と同時に、スクリームは四足獣のような姿勢で突進してくる。




(――速い)




紫電は意識し、脱力。


姿勢を落とし、加速へと繋げる。




コロッセオに、雷の軌跡が走った。




「それ、さっき見たー!


 早いねぇ!」




並走。




紫電は音の一撃を一つ一つ、正確に躱していく。




壁を蹴り、再加速。




渾身のアッパー。




「はぁー……単純すぎ!」




ロングコートの内側から、2本のナイフが閃いた。




「ザシュッ!」




右腕を、2本の刃が両側から挟み込む。




「まず1本!」




ナイフを引き抜こうとするスクリーム。




だが――迅は逃げない。




むしろ、距離を詰めた。




刹那。




肘打ち。




スクリームの体勢が崩れる。




「おいそれ!


 ボクシングじゃ反則だろー?」




「……これは、ボクシングじゃない」




迅は冷静に言い返す。




解放された右手に、力を込める。




「じゃあさ……潰れなよ?」




音波攻撃。




正面から、紫電は踏み込んだ。




音の一撃を浴びる。


だが、それは“予備動作”。




耐えながら、拳に力を溜め続ける。




次の瞬間、空気の塊が吐き出された。




「……は?」




スクリームは、なお突っ込んでくる紫電を見つめる。




(――今だ)




カウンター。




空気の塊を砕き、右ストレートを叩き込む。




そしてスクリームの顔面へ命中。




「ぐはっ!?」




さらに加速。




左フック、右ジャブ、右フック。




相手の動きを完全にトレース。


攻撃も回避も、全て潰す――カウンターの連打。




紫電のゲージが、最大まで跳ね上がる。




「馬鹿が! 喰らえ!!」




「――バンッ!!」




スクリームの口から、弾丸のような空気の塊が放たれる。




不意打ち。




だが紫電は――すでに見ていた。




予測。




既に後方へ退き、打つ体勢に入っている。




「あっ……やめ――」




「紫電一閃――!」




閃光。




背中を捉えた一撃が、スクリームを貫いた。




力なく、崩れ落ちる。




極限まで無駄を削ぎ落とした一撃が、


正確に――心臓部を撃ち抜いていた。




『KILL』




会場モニターに、決着が表示された。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ