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第22話 売り言葉に買い言葉

気が付いたら3か月以上空いておりました……今後はまったりペースで完結までがんばっていきたいので、まったり見守ってくださったらうれしいです(*‘ω‘ )

そんなこんなで午後からの会合に当たり前のように入り込ませていただきましたが、成程。


「(………オスカーさまが私を同席させることを渋られた理由も多少なりとは理解できますね)」


先ほどまでさんざん胸中でついていた悪態のみっつやよっつや五つは許してあげましょう。いえ、私が午後の会合に参加させていただくことをお伝えしたときのあのびっくり顔で、溜飲の9割は実のところ晴れていたのですが。

それよりも腹立たしいのは、目の前の狐顔男だ。魔法騎士団第二十七隊中隊長、ヴィッツ=イシルドールと名乗った男は、客人でありながら誰よりも我が物顔でソファに居座っている。


「いえ本当に。昨年の合同演習で前任が記したという資料を拝見して非常に驚きました。なにせ他場所との合同演習に比べて予算の高いこと高いこと!」

ぺらぺらと回る口はいかにこの合同演習が無駄金をかけているのか、そういった機微に配慮できないとは野蛮なものたちだということを口さがなく言っている。

これでも最初は慇懃なオブラートが申し訳ばかりにかかっていたが、気が付いたらそれも見事なまでにはげていた。


オスカーさまもワイマンさんも、よく聞き流していられるわね!?!?

少なくとも私には無理だ。我儘を言って同席させていただいている身の上でありながら私が空気を壊すのは問題だろうか。当たり障りのない表情で口角だけを心ばかりあげていれば。


「カナンさまはたしか王都の出身でしたか?このような辺鄙で野蛮な場所などへ、よくぞ輿入れなさいましたね」


こちらへと水をむけられる。これはつまり喧嘩を買っていいということでしょうか?

向こう側の棚のガラス越しにマルゥに目配せをすれば、『そんなわけがないでしょう』と言いたげに首を小刻みに横に揺らされた。


「……いいえ、確かに王都からは離れておりますがのどかで良い土地ですよ」

「土地柄もですがね。汚らわしい怪物伯の夫人などと、よくもまぁそのような立場を容認できたものですね。私にも妹がいるが、そんな立場になるなどと言ったら何をおいても断らせるでしょうに。」


憐憫たっぷりに口にする男にプツンと堪忍袋の緒が切れた。こういうものは概念だから本来音には聞こえないはずですが、後ろにいたマルゥにはしっかり耳に入ったのでしょう。

『あちゃー』という声が聞こえた様な気もしました。……いえ、きっと私の幻覚でしょう。

なにせこういった時に怒りを分かりやすく表に見せるのは領主夫人としてはよろしくないという理性ばかりは残っているのですから!

紅を差した唇の端を上げ、艶やかにほほ笑んでみせた。



「ふふ、私もはじめてお話をいただいたときは驚きました。」

「そうでしょうそうでしょう。まさか遠方の野蛮人と契りを交わすことになるなど。怪物との婚姻などよく受け入れられましたね。」

「確かにはじめは驚きましたが……」



笑顔での相槌に同調を得られたと思ったのだろう。気を大きくしたようにヴィッツと名乗った騎士の男は大仰に頷いた。

同調?するわけないでしょう。うちの夫を馬鹿にするのもよしていただきたいものだ。口元に手を当てて笑みを深める。



「確かにうちの夫は森林熊(フォレスビア)にも負けず劣らずの体格ですが、熊というのは本来臆病なもの。こちらが領土を侵したり不用意な真似をしなければ襲うことはありません。

どこぞの銀狐(シルバーフォックス)のように勝手に人の縄張りを我が物顔で荒らし回る厚顔さには負けましょう。」

「……、……ッ!!」


一瞬でその細目の、狐らしい顔立ちが赤く染まる。

後ろに立っていた青年騎士が唇をかみしめて笑うのをこらえたあたり、もしかして普段からそう裏で呼ばれてたりするのかしら?


「貴様ッ……!一夫人ごときが不躾な!」

「不躾なのはそちらでしょう。北方を守護する領地の領主に対し、国から遣わされたと言えど外様のものがそのような振舞いなど。

ノーズブラックの民とあなたが仕えるべき国、その双方を穢す行いと知りなさい。」


ぴしゃりと言葉を返せば、自らの言葉と立場を省みることは出来たようで低く唸りをこぼした。


「演習に金子がかかるとお話、私もすでに資料を拝見しておりますがそれは前回の演習でちょうど国外からの不埒者を見つけたということで、その対応にかかったものでしょう。

収支表ばかりではなく報告書もしっかりと拝見された方が、この地を知り護るのには一助買うのではなくて?」

「はっ。お飾りの道楽の末にこのような僻地に押し込められた放蕩娘らしく、そういった下らぬことには目が行くのですね」

キャンキャンと吠え立てる金切り声に対して、再び口を開いたところで低い声が響く。


「………彼女は優秀な細君だ。自らの持ちうる才と情熱をこの領土のために賭してくれている。未だ着任して間もない、一隊長風情が無礼だぞ」


それまでただ言われるままだったオスカーさまが、その瞳を細めてヴィッツをにらみつける。

出会った頃のような魔獣めいた風貌は整えられているとはいえ、いかめしい顔立ちと鋭い瞳は向こうに十分な圧を与えるものだったのだろう。

ヒュ、と息を吸うのに失敗するような音が聞こえた。


私としては才能と情熱を認めてくれたという嬉しさと、これまで自分事では一言も言い返さなかった旦那様が急に口を出したことに対してのときめきと混乱で脳裏が渋滞する。

いえ、庇ってくださるのは……そりゃあ嬉しいですけれど!もっと自分のことでも怒りなさいよ!


「持ちうる才と情熱だと……?自らの趣味に熱中して追いやられたの間違いでは?」


とは言え向こうの胆力もそれなりだったようで、こちらより一拍早く我に返って追撃をしようとしてくる。……仕方がありません。こうなったらあのカードを切りますか。


「あら、流布ばかりで裏の情報も取らなかったのですね。旧ヘイスティア子女がカナン、末席ながらも魔法学院にて魔法具学を中心に専攻しておりました身です。精霊と直接の契約はなくとも、彼らの祝福と恩寵をこの身に受けたこととてございます」

「〜〜〜〜っ!」


真っ赤になって息を呑む顔に胸がすっとする。

この国が唯一公として運営している魔法学院は、いわば所属の門戸が限られるエリート校だ。

在学しているだけで魔法について、一般の人ではおよそ身につかないだけの専門知識を学ぶことができる。

また、彼らが日夜契約を望む精霊は、契約者本人のみならずその周囲の者の魔力すら伸ばすという。


魔法騎士団の者だとしても、学院出身者はそう多くない。普段学院出身であることを鼻に着せるのは好まないが、嫌味には嫌味だ。

もう最初のオスカーさまについての話を騎士団の方から聞こうという発想はどこかにいっておりました。



「────ならば」

向こうは向こうで未だにその口を閉ざさない様子。矛先をオスカーさまから私に変えるように剣呑な表情をこちらに向けてくる。

私ももちろん、負けじと睨み返しますとも。

どんな無茶ぶりをされても絶対にうなずいて、くーだかぐぅだかの音も出ないようにしてみせましょう。


「どれほど彼女がこの領土に必要な存在なのか見せていただくとしましょう!精霊の祝福と恩寵をもってこの地に貢献を果たせるというのなら、今度の合同演習でより低予算で!より隊の指揮を上げれるようなものを生み出すことくらい簡単でしょう!」

「えっ!?そんなご褒美みたいな課題でいいんですか!?!?」


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