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第21話 静かな決意

 魔法騎士団は国が有する騎士団で、国の治安と精霊の安寧のために働いている組織だ。

 将来魔法騎士として国に仕えるために、下級貴族や平民でありながら上級貴族の従者として共に学院入りする生徒もいた。


「いくつか隊があって、王家直属の王都を守護する部隊、精霊の安寧のために彼らから受ける託宣(クエスト)を解決する部隊、その他にも治安維持や特殊任務につく部隊とか色々あるっていうのは聞いてたけど。」

「カナンさまってばお詳しいですね。ええ、その通りです。ノーズブラック領にいるのは第二十七団の人たちですね。主に他国との領土防衛のために働かれていらっしゃいます。」


 ここ、ノーズブラック領はコスタルカと隣接している。不可侵協定は双方結んでいるとはいえ、諍いが完全になくなるわけでもないらしい。


「もちろん主となって関わられているのは領土の衛兵の皆さまらしいですが、国が関わるものですから。騎士団も無関係で入れないようで。」

「世知辛い話ね……で、その騎士団の人が今日ここに来るんですって?」

「はい。今度合同演習がある為にそのご挨拶ということで。」


 騎士団と領土の衛兵は別組織だが、同じ場所で任務につく以上連携は必須だ。それは分かる。

 その為に合同演習をする必要があり、あらかじめ上同士が挨拶をする必要がある。それも分かる。

 分からないのは。


「何故領主の妻である私がその事を微塵も把握していないのかしら。いえ、たしかに家のことは家令に任せるお話になっていましたから、言う必要はないかもしれませんが。」


 仮初でなくなったとはいえまだ嫁入りして半年も経っていない身の上。基本の作法は身につけているとはいえ、領のあれこれを知らぬ身だ。

 粗相でもしたらたまらないと思われるのは……シャクだが、まあ許せる。


 だからこの不満は目の前の彼女にぶつけたものだ。

 親愛なる私の従者。学院に入るより前から共にいる私の理解者。

 そのマルゥが理由すら告げずに私に隠しておくなんて!

 空腹の暴食蛇(アナコンダクシア)もかくやと言わんばかりに睨みつけるが、当の彼女は薄桃色の唇を拗ねたように尖らせるだけ。


「んもぅ。だってカナンさまが研究研究ってそっちばっかりなんですもの。『家について何か変わったことある?』って一言お聞きしてくだされば、マルゥだってちゃんとお話ししましたよ。」

「ゔっ、」


 ギャフンと言い返された。たしかに目の前のことで頭がいっぱいになってたのは事実だけど!


「それに旦那さまもあまりカナンさまのお耳に入れたくなかったみたいなんですよね。何でもその二十七団を率いている中隊長さんとやらが曲者みたいで。」

「そうなの?」

「はい。今期に就任したみたいなんですが、今日いらっしゃる前の手紙のやり取りもこっちを馬鹿にしてる様子が見られたって、ワイマンさんをはじめ皆さんぴりぴりしてるんですよ」


 ……全然気がつかなかった。

 これは本当にマルゥに文句を言う前に周りに目を向けるべきだったわ。


「それは気付けなくて悪かったわね……。でも、それなら逆にオスカーさまの風評の原因についてもよくご存知かもしれないわ。」


 逆に向こうはその風評を知っているからこそ失礼な態度を取っている可能性もある。

 上手くいけば怪物伯と呼ばれるようになった謂れが分かるかもしれない。心変わりまでさせられれば満点!



「今日の午後……でしたよね?ええ、是非私もご挨拶させてくださいとオスカーさまにお伝えしてもらってもいいかしら?マルゥ。」

「はぁい!」


 私の頼みに元気の良い返事がかえってくる。


 ……それにしても、仮初でなくなったからと甘えすぎてたわね。ノーズブラック夫人として、家のことにも気を配っておかないと。

 綿雲茸を机に置いて決意する。


 ワイマンさんやマルゥに甘えてばかりではいられないわ。オスカーの妻としてやるべきことはしないと。

 離縁の危機がどこに転がっているかなんて分からないものね!



 …………マルゥが聞いたら間違いなく「そんな決意をするくらいなら旦那さまともっといちゃいちゃしてあげてください!」と言い出すようなことを考えながら、私は一人握り拳をつくっていた。

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