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第20話 冒険者の業。夢のためにこれからも歩き続ける

イノさんの冒険もいよいよ最終回! みなさま、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。


 穴から出たところで、私とセリスさんはバーバリックと対峙する。



「バーバリック!? 生きていたの!?」


「あれくらいで死ぬもんかよ。オレさまは無敵のバーバリックだぞ!」



 バーバリックはそうやって叫ぶが。



「ごほっ!」



 血を吐いてしまう。よく見れば身体中、傷だらけだった。

 それはそうだ。甲冑を棄て、生身でモンスターの巣にいたのだ。

 生きていたのが奇跡だ。



「セリスさん。バーバリックに【治癒】を」


「かしこまりましたわ。【治癒】!」



 セリスさんがバーバリックに回復の奇跡をかける。

 するとバーバリックは私を睨んだ。



「やめろ! 情けのつもりか。オレを見捨てりゃいいだろう」


「使えない、足手まといになるって見捨てたらあなたと同じになる。それはイヤ」


「ちっ。ただのわがままか」


「そうだよ。私は私が納得できる冒険をするって決めたんだ」


「【治癒】終わりました」


「ありがとうセリスさん。それとごめんね」


「かまいません。これでも聖職者の端くれ。けが人を見殺しにしたとあれば親にも神にも顔向けできませんもの」


「クソが。この優等生どもめ」


「命の恩人に向かってなんですかその言い草は!」


「言い争ってる暇はないよ。もうすぐこのダンジョンは崩壊する」



 ――ゴゴゴゴゴゴ。



 私がそう言うと地面が揺れて、遠くの方で何かが崩壊する音が聞こえた。

 元々デスピードが地脈の魔力を吸い上げていた。おまけに最深部で派手に暴れた。

 内部が脆くなって、いつ崩壊してもおかしくない状況なのだ。



「さあ、行くよ。【誘導(ガイダンス)】【整列(フォールイン)】!」



 こういう時こそスキルの使いどころ。

 緊急事態なうえにパーティーでもないメンバーを出口まで誘導するには、【整列(フォールイン)】が一番効果的だ。

 だが――――



「なんだぁ! こんなところにお宝があるじゃねぇか!」



 バーバリックは通路の先にあるお宝に目がくらんでしまった。



「ギャハハハ! 勝負はまだ終わってねぇ! こいつがあればオレはまたやり直せる。そうだ! 強い武器があれば誰もオレを見下さねぇ! オレがオレこそが最強なんだ!」


「バーバリック!」


「イノさん! こちら側の通路も崩れ始めましたわ!」


「でも!」


「あれが彼の選んだ夢なのです! すでに手は差し伸べました。その手を取るかはあの方の自由ですわ!」


「くっ…………!」


「宝はすべてオレのもんだ! ハハハハッ! ハハハハハハハハハッ!!」



 崩れゆく腐毒の沼穴。

 ゴールドランク冒険者、バーバリック・デズモンドはその最後の瞬間まで自分の夢を追いかけ続けた。



 ◇◇◇



「以上が今回のクエストのあらましです」


「報告ご苦労様です」



 数日後。私はオランドのギルド長室にてレポートと地図を提出した。

 カーミラさんはそれを受け取り、内容を確認した上で棚にしまった。



「セリスさんの件、ゼロノアから正式に通達がありました。イノさんをパートナーとして認めるそうですよ」


「そうですか……」


「浮かない顔ですね。嬉しくないのですか?」


「嬉しいですよ。頑張った甲斐もあります」



 腐毒の沼穴の実体解明を行ったことで、私はゴールドライセンスを貰った。

 ギルドからボーナスも出て懐も潤った。


 カーミラさんはゼロノアさんに貸しを作るつもりで、私をセリスさんの実家に向かわせたらしい。

 商業都市に居を構えるギルドだけあって、商人から何かと制限を受けているとのこと。

 娘とギルド職員が仲良くなれば、向こうも圧力をかけづらいだろう。そういう判断だった。


 ギルド間の政権争いに興味はない。私が気にしているのは……。



「夢を叶えるって大変ですね」


「初めてのツアーで失態を犯したのを気に病んでいるですか? 参加者の誰もイノさんを責めていません。むしろ対処がよかったと褒めていましたよ」


「それはありがたいんですけど、自分的には許せないというか」



 バーバリックの件も後を引いている。助けられたかもしれない命だったのに。

 私が落ち込んでいると、カーミラさんは窓の外を見つめながら言った。



「以前、私の息子がダンジョンで命を落としたと言いましたよね」


「はい」


「あの子は勇敢で物怖じせず、弱いモノの味方で。ですがその性格が災いして、ダンジョンに迷い込んだ子供を助けるために命を落としたのです」


「そうだったんですか……。無念だったでしょうね」


「いいえ。息子は本望だったと思います」


「え……?」


「助けられた子供が言っていたのです。自分を怖がらせないように、戦士のお兄ちゃんがずっと笑いかけてくれていたと」


「そんなことが……」


「もちろん命を落としたことは悲しい。ですが、最後まで己の信念を貫いた息子のことを誇りに思っています」



 カーミラさんは優しく微笑むと、私の方に向き直った。



「夢のカタチは人それぞれ。終わらせ方も異なるでしょう。困難も立ち塞がる。不幸な出来事にも見舞われる。それでも夢を諦めない。憧れを止められない。それが冒険者です」



 カーミラさんは私の顔を見つめて問いかける。



「イノさん。あなたの冒険はまだ始まったばかり。先に進みますか? それとも荷物をまとめて帰りますか? 選ぶのはあなたです」


「私は…………」



 カーミラさんの問いかけに、私は迷うことなく答えた。



「進み続けます。だって叶えたい夢が、計画しているツアーが山ほどありますから。立ち止まってる暇はありません」


「よろしい。では、本日の業務を始めてください」


「はい!」



 ◇◇◇



「イノさーーん」



 ギルド長室を出て受付カウンターに向かうと、クッキーを食べていたリセ先輩が手を振ってきた。



「これ商店街の新作クッキーなんですよ。これがまた紅茶にあうんです。どうぞ一枚」


「いただきます」


「それにしても大変でしたねぇ。まさかダンジョンが崩落するなんて。お宝もすべて地の底じゃないですか」


「仕方ないよ。ダンジョンにも寿命もあるから」



 腐毒の沼穴は壁が脆かった。

 元々地盤が緩く、ダンジョンセンチピードが巣として使う前から寿命がきていたのだろう。



「やっぱり現地に赴いて調べる必要があるな。地図も更新していかないと」



 そのためにギルドに申請して、私の任意でダンジョン調査隊を編制できるようにしてもらった。

 ダンジョンを探索するのに必要なのは、水と食料と冒険者セット。

 もちろん、地図も忘れてはならない。

 それと――



「おーーーほっほっほっ!」



 バーン! と勢いよくギルドの扉を開けて、白い僧侶服に身を包んだセリスさんが現れる。

 その腕にはシルバーライセンスの証である、銀色のバッチがつけられていた。



「外にいた初心者冒険者さんをお連れしましたわ。ダンジョンツアーに参加したいそうですわよ」


「わざわざありがとう、セリスさん」


「これくらいブレックファースト前ですわ! わたくしはイノさんのパートナーですから!」



 セリスさんは今日も朝から元気がいい。彼女の側にいると元気を分けてもらえる。

 ほんわかしてるけど頼りになるリセ先輩もいる。

 計算高く、けれど人の思いを大切にするカーミラさんもいる。


 私は地味で愛想のない、ただのマッパーだ。

 けれど、頼れる仲間がいる。頼ってくれるみんながいる。

 これからも頼り頼られ、私の夢を叶えよう。


 私の夢、それは――――



「いらっしゃいませ。おすすめのツアーはこちらになっております」




 ダンジョンコンダクター。


 それは人に冒険の楽しさを、そして厳しさも伝えられる大切なお仕事。

 私らしく、私だけのステップで、自分の夢に挑み続けよう。



お話はここまで! お付き合いありがとうございました。

以上、イノさんの最高のパートナー。ギルド案内役のセリスティア・ホワイトブルームでした。

ダンジョンコンダクターとして歩み出したイノさんのご活躍にご期待くださいませ☆


読者さまの☆やブックマークが創作の後押しになります。少しでも面白い、先が気になると思われたら、応援よろしくお願いいたします。

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