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零ノ型

 ネルの魔力回復を待ち――その間に、俺は結界魔法を一度張りなおしている――先ほどよりも威力を弱めたネルの新魔法で三体のゴーレムを掃討した。

 この魔法は衝撃波が飛んでくるのである程度の距離を取る必要があり、ダンジョンの中で使うのは向いていない。だが、今のところそれ以外に倒す術はなかった。


 最初の部屋を出て、通路を歩き7つの小部屋を抜けて、ブリックゴーレムを追加で4体ばかり倒した。その甲斐があってか核の場所がようやく特定できた。首の下、鎖骨と鎖骨の中間くらいの位置に核は眠っていた。首を落としても、心臓あたりを貫いても無駄なわけだ。

 

 しかし、場所がわかっても位置が高いという問題はなくならない。足を砕くか切り落とせば、どうにか手が届くかというところで、それでも手足を斬り飛ばすのとは勝手が違うので俺やフランでは対応が厳しい。さすがに急所を狙うとゴーレムも防御行動をとるからだ。

 土魔法のストーンミサイルでも核だけを打ち抜くということはできないようだった。


「こういう大型の魔物と戦うときって普通どうしているんだろうな」

「頑なに武器を取らないどこかの誰かが、槍の一つでも装備すれば解決しそうな気がするけど」

「仕方ないだろ。そういうなら、フランが魔法剣で斬ってくれてもいいじゃないか」

「何よ。私の剣が足りないっていうつもり」

「そんなこと言ってないだろ。剣は立派だし」

「腕か。私の腕の問題なのね」

「ちょっと、二人とも」

「ケンカはダメです」


 ネルとシエスに仲裁に入られる。

 先の見えない感じと、厄介な相手を前にいらだっていた。攻撃が利かないわけではないが、どうしても決定打にかけていた。足を砕いて、急所を攻撃しようとすれば両腕で防御される。それをどうにかはじいたところで、ゴーレムの足が修復されて再び急所が遠く離れてしまう。

 三人を守るつもりだったのに、ネルの魔法に頼っているという状況に焦りを感じていた。それが何も生み出さないことはわかっていても、なんとなくフランにヤツあたりをしてしまった。

 フランもきっと同じなのだろう。


 それに比べてシエスはできないものはできないとして諦めている。できることだけを素直に頑張っている。ここの壁も床もネルの魔法では操作できないので、ブリックゴーレムを壊した時の破片が重要なのだ。それをダンジョンに吸収する前にシエスができる限り袋に入れて運んでいる。それが爆弾の材料になるし、土魔法のミサイルにもなっている。


「ねえ、行き止まりなんだけど」


 俺が頭を悩ませていると、フランがそんなことを口にした。そんなもの、道を引き返して別の通路に進めばいいだろうと思っていたら、そういう問題ではなかった。


「確かに、もう分岐はすべて回ってます」


 手元の地図を確認しながらネルが決定打を口にする。

 階下に降りる階段がなくても、最悪エリアボスのようなものが出てくるのだろうと高をくくっていた。読みがことごとく外れている。それでもだめなら、もう一度落とし穴を踏み抜いて下層に行ければそれもありだと考えていた。

 でも、すべての道を歩き終えた俺たちに進むべき場所はなかった。


「もう、どうすんのよ」


 苛立ちに任せてフランが壁を蹴った。ゴーレムを粉砕するネルの爆発魔法でもびくともしない壁だ。無情にもフランの蹴りをはじき返す。


「お兄ちゃん。どうなるですか」


 くいくいっとシャツの裾をシエスに引っ張られた。


「大丈夫だ。手はある」


 安心させるようにそう口にして、いつものようにシエスの頭を撫でた。もちろん、出まかせで、いつも口にする”大丈夫”と同じように根拠はない。だけど、みんなが不安に陥るときに、俺まで一緒になったらだめだと思う。


 その言葉に希望を見出すのはシエスだけでなく二人も一緒だ。

 期待を込めたまなざしで見られるのはちょっと辛いけど、俺は余裕たっぷりに答える。さっきまでの苛立ちや焦りは極力抑え込む。


「轟流に不可能はねえよ」

「さっきまで何もできなかったくせに」

「まあ、見てなって」


 フランの軽口に、軽く応じて見せる。

 が、正直そんなに自信はない。

 零ノ型『驫木』、すべての技の基本となる瞑想。

 大地に根を張って立つ大木をイメージして両足を少し開き、手足はだらりと下げる。目をつむりイメージを思い描く。

 はたから見れば何をしているのかすらわからないだろう。


 足裏から根が生まれ大地に根差していく姿を想像する。


 星と一体になったときには何物にも揺らぐことのない芯を手に入れることができる。


 嵐が吹き荒れようと、洪水に押し流されようと、地滑りが起きてもすべてを受け止めることのできる太くたくましい一本の樹。


 それは地面深く深くに根を広げるからこそできる絶対の安定感。


 轟流の基礎にして、極みの型。


 根は硬い岩盤を時には打ち砕き、あるいは避けて広がっていく。


 俺の展開する根は、このダンジョンの形を正確に把握していく。そこにはいまだ足を踏み入れていない部屋が存在していることを知らせてくれる。


「部屋を見つけた」


 俺はゆっくりと目を開いて、三人に答えた。

 うまくいくか自信はなかった。

 ここが本来の大地であるなら、可能かもしれないと思った。だけど、ここはダンジョン内部でネルの土魔法を拒絶した以上、地面が地面ではないからだ。


「どこに?」

「三つ前の部屋の隣にもう一つ部屋がある」

「なんでそんな事がわかるのよ」

「そんなに食って掛かるなって。行ってみればわかるから」

「そうですよ。お兄ちゃんはすごいんですから」


 シエスの手をつなぎ、行き止まりの部屋を後にする。

 納得してない顔のフランを引っ張る様にしてネルが後をついてくる。魔物はいずれ湧いてくるだろうけど、すぐには出てこないと思う。

 

 三つ前の部屋に戻った俺は、壁に向かって轟流奥義弐ノ型『椿』を叩きこむ。

 ほかではビクともしなかったはずの壁が粉砕され、それ先に通路が姿を現した。

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