第一話目覚め
暗闇だった。
どこまでも、何もない。
音も、光も、感覚も。
ただ、静かな“無”だけがあった。
(……ここは)
何も分からない。
自分が何なのかも。
どこにいるのかも。
ただ――
ぽつりと、何かが浮かぶ。
(……さむい)
感覚。
それが最初だった。
次に――
(……いやだ)
理由のない拒絶。
何かを、恐れている。
けれど、その“何か”が分からない。
思い出そうとすると、頭の奥が痛む。
(……だれか)
言葉のようなものが浮かぶ。
でも、それが誰なのか分からない。
顔も、声も、思い出せない。
ただ、強い感情だけが残っている。
守りたかった。
そんな気がする。
――その瞬間。
光が、差した。
暗闇が裂ける。
一気に、世界が流れ込んでくる。
「……これが、今回の支給品だ」
低い声。
誰かが、何かを持ち上げる。
視界――のようなものが、ぼやけて広がる。
(……みえる?)
はっきりしない。
形だけが分かる。
ぼやけた人影。
揺れる光。
(……なんだ、これ)
違和感。
体がない。
触れているはずなのに、触れていない。
動こうとしても、動けない。
「……随分と地味だな」
別の声。
「新人にはこんなもんだろ」
軽い笑い。
(……こえ)
聞こえる。
はっきりと。
でも――
(……へんだ)
自分は、何も話していないのに。
声だけが、外から流れ込んでくる。
「ほら、お前のだ」
その瞬間。
ぐっと、何かに“掴まれる”。
(……っ)
意識が、引っ張られる。
持ち上げられる。
位置が変わる。
(……なにが……)
混乱する。
だが、少しずつ理解していく。
視界の中心。
細長い何か。
光を反射する、鋭い形。
(……これ)
直感的に分かる。
自分は――
「しっかり扱えよ、レオン」
その名前に、意識が反応する。
「……はい」
少しだけ緊張した声。
その声の主が、自分を握っている。
(……このひと)
不思議な感覚だった。
触れている。
いや、持たれている。
それなのに――
(……あたたかい)
温もりを感じる。
初めての感覚なのに、どこか懐かしい。
レオンは、剣を見つめる。
少しだけ戸惑ったような顔。
「……よろしくな」
小さく呟く。
誰に向けたのかも分からない言葉。
それでも。
その声は、確かに届いた。
(……よろしく)
同じ言葉が、内側で響く。
声にはならない。
でも、確かに思った。
その瞬間。
ほんのわずかに――
記憶が、揺れた。
燃える光。
誰かの背中。
伸ばした手。
(……まって)
次の瞬間、消える。
何も残らない。
ただ、胸の奥に。
ぽっかりとした感覚だけが残る。
(……なんだろう)
分からない。
でも――
確かに、何かを失った気がした。
レオンは剣を腰に差す。
動きに、少しだけぎこちなさがある。
まだ慣れていない。
(……よわい)
ふと、そう感じる。
理由は分からない。
でも、はっきりと分かる。
この少年は――弱い。
それでも。
(……でも)
剣は、わずかに感じていた。
震えている手。
でも、離さない。
その奥にあるもの。
(……にげない)
言葉にはならない。
でも、確かに伝わる。
弱い。
でも、折れていない。
その在り方が――
どこか、引っかかる。
(……しってる?)
そんなはずはない。
何も覚えていないのに。
それでも。
わずかに、心が動く。
理由も分からず。
ただ、静かに。
物語は、ここから始まる。
剣と、少年。
どちらも未完成のまま。
それでも――
確かに、出会った




