表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
湖畔のマリス  作者: 夜風 紅葉
第1章:覚醒した…かも
16/21

第8話:フェクスト家と因縁

 犯人は、特定されるような凶器をなるべく使わない。使っても、証拠隠滅をしようとするはずだ。それなのに名前が書いてある凶器……セテンが犯人であると、周囲に示そうとしたようだ。

 そもそも、セテンの部屋から「剣」をバレずに持ち出すことが可能なのだろうか。

 頭の片隅でそんなことを考えつつ、次に呼び出す人を決める。

 ここはやはりセテンの親だろうか。

 一旦倉庫に戻って、セテンの両親と話したいということを伝えて、セテンの親を呼んで、事情を話して、訊いて………随分と手間がかかりそうだ。


(そういえば、第一発見者は誰?)


 頭の中で浮かんではぐるぐると渦巻くたくさんの疑問に、ルオは押しつぶされそうになった。

 とりあえずルオも倉庫に戻る。

 被害者———アネットから流れた血を見ると、まだ完全に固まっていなかったので、死亡からそこまで時間は経っていないと判断した。

 倉庫にはすでにセテンの親がいた。セテンの父親はヴァイオリンを片手に持っている。


(何故ヴァイオリン?)


 そんなルオの疑問を汲み取って、セテンが答える。


「うちの親父、ヴァイオリニストもやってるからさ。今日の演奏にも来てたんだ」


「うむ。でも、ケースがなくなってしまってなぁ」


(そんなことある?)


 ヴァイオリンのケースなんて大きなもの、盗まれでもしない限り無くさないと思うのだが。


「やぁね、あなた、演奏が終わってすぐ仲間と祝杯をあげてたじゃない。それで酔ってなくされたとか、やめてくださいな」


 セテンの家族からは貴族らしさが感じ取れなかった。代わりに、あたたかい仲であることが伝わった。


「すみません、お父様の方からお話を伺えますか」


「わかった」


 驚くほどあっさりとしていた。シロなのだろう。

 また外に移動して話す。やはり大人と話すのは緊張する。


「えっと、セテンと同じ部屋のルオ・クルドレアです。事件の大体は聞いていらっしゃいますか?」


「ああ。私はダール・フェクストだ。………息子の『剣』があったんだってな。私の息子はそんなことしないと思うんだが………」


「はい。僕もそう思いますし、何より、部屋で会って入学式に向かい、教室に行くまでセテンとは同じ行動をしていました。被害者の血の固まり方から、僕とセテンが会う前に殺害されたことはないと判断しました。よって、セテンは無罪だと思います。…………問題は、何故犯人がセテンの『剣』を使ったか、です」


「だな。セテンか、もしくはフェクスト家に恨みがあるか」


「心当たりは……?」


 ダールは少し考えるそぶりをしたあと、口を開いた。


「……ティノルド・グレーテ」


(ティノルド・グレーテ………)


 ルオは名前を忘れることがないよう、頭の中で十回繰り返した。


「どのような関係ですか」


「元同級生だ。昔、すごく些細なことで喧嘩してなぁ。それっきりだよ。でも………」


「でも?」


「私の妻はルチアというんだが、ティノルドはルチアが好きだったみたいだな。それですごく争ったよ。ティノルドはほら、貴族だから平民を愛すことに憚りがあったろうな。それでも愛した人を他の男に取られて、自分は政略結婚。恨まれてるだろうなぁ」


 ルオは、ティノルドにも話を聞いてみようと思った。


「ところで、ヴァイオリンケースはいつなくなりましたか?」


「さっきもルチアが言ってたが、私は入学式が終わってすぐに酒を飲んでいた。ヴァイオリン仲間と一緒に。なぁに、店とかには行ってないさ。ルチアに昼間からそこまで飲むなと、怒られるからね。だから関係者準備室で飲んでいた。ここはすごいなぁ。関係者一人に一つ準備室がもらえるんだから」


「誰の準備室で飲んでいましたか?」


「レクドゥアル・カスティリオーネってやつだ。貴族だが、誰にでも平等に接するいいやつだよ。レクドゥアルとはよく飲むんだ」


 それは、被害者の夫ではなかっただろうか。

 つまり、ダールは被害者の夫の部屋で飲んでいた———部屋を、留守にしていた。盗むチャンスはあったということだ。


「鍵は閉めて行きましたか?」


「いや、すっかり浮かれて締め忘れて行ってしまったよ」


 盗み放題だったということだ。


「これは一つの仮説——妄想ですが」


「うん」


「セテンの『剣』をヴァイオリンケースに入れて持ち出したという可能性があるのではないかと……」


「なんで私のヴァイオリンケースに、セテンの『剣』を?」


「先ほど仰っていた通り、フェクスト家に恨みがあるのではないでしょうか。息子が犯人扱いされても、父親が犯人扱いされても、身内から犯罪者が出るということには変わりありませんし、大きな打撃になるはずなので。幸せを崩せたと、喜ぶ人もいるのではないでしょうか」


「なるほど」


「僕からは、以上です。ありがとうございました。次に奥様を呼んでいただけますか?」


「わかった」


 ダールは妻を呼ぶべくキビキビと歩いて行った。

 程なくしてルチアがやってきた。


「ごめんなさいねぇ、色々と。でもセテンを庇ってくれてありがとう、ルオくん」


 すでにルオの紹介はされているようだ。

 だから、もう、単刀直入にきいていくことにした。


「ティノルド・グレーテさんについて教えていただけますか?」


「あらぁ、ティノルド。懐かしい名前ねぇ。あまりいい印象はないけれど」


 ありし日を思い浮かべるように遠い目をして、ほぅ…と息をつき、ルチアは言った。


「何回も告白されたわ。その度に私は断ってきたのだけれど、諦めきれなかったようね。とにかく粘着質で、愛が重いタイプの人でした」


「元・同級生でしたか?」


「はい。もうね、ダールとティノルドの喧嘩は凄まじかったわぁ」


「……ちなみに、何が原因かとか、ご存知ですか?」


「ティノルドは他人を踏み台にしてのしあがる癖があったのよねぇ。それを正義感強いダールがたしなめて喧嘩になった感じかしらぁ」


(全然些細なことじゃなかった……)


 ダールにとって、どこまでが「些細」なことなのだろう…。


「そういえばティノルドのお子さん………なんていったかしら、あぁ、ルーカスくんも今日、コリフレアに入学したそうね。私たちがこんなふうにティノルドのはなしをしていたのは、黙っておいてちょうだいね」


「そうなんですね。わかりました」


 それから、とルチアが続ける。


「ティノルドの奥さん、ルーカスくん産んだらすぐ出てっちゃったんだって。正式に離婚したらしいよ」


「……すごくお詳しいですね」


「近所のおばさん———失礼、奥様方はこの手の話が大好きだから……商店街に行くとあらゆる話が舞い込んでくるのよ。かくいう私もおしゃべりでね。セテンは私に似たかしら」


 ルオは相槌を打った後に、ダールの時と同じように話を締め括った。


「ところでさっきから先生たち殺気立ってるけど」


「あー」


「とりあえず倉庫戻ったら?」


「ですね。第一発見者が誰か知りたいですし」


 倉庫と外を———しかも離れた場所に移動していた———行ったり来たりして、ルオの足はもうすでに悲鳴をあげていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ