192.二体の竜
二体の竜はお互いを睨み合う。
「……よもや我と同格の者と出会うとは思わなかったが、少し違う様だ」
沈黙を破りヴェルサスがリルーシェに話しかける。
「……どうやら貴方には嘘を言っても通じなさそうね、これは借り物なの」
【大天使の福音type–ガブリエル】、それは聖真竜の加護と力を借り敵を滅する能力であった。
リルーシェのジョブは【竜巫女】であり、聖真竜に認められその力を引き出せる魂を有している。
だが、そんな力にも欠点がある。
それは真竜の力は生身の人間で扱うには強大すぎる事だ。
その力を使えるのはせいぜい15分が限界だ、それ以上力を酷使すると肉体が真竜の力に耐えられず破裂するだろう。
「時間が無いわ、そこを通らせて貰う」
「通れるものなら通ってみろ」
二体の竜は攻撃体制に移る。
「全てを焼き尽くす豪火」
「光刺す世界」
ヴェルサスは獄炎魔法、リルーシェは天聖魔法だ。
灼熱の業火が吹き荒れるのを、光の乱反射がそれを断ち切り鎮火させるの繰り返しだった。
まるで神話を彷彿させる様な光景が広がる。
痺れを切らしたリルーシェがヴェルサスに向かって迫る。
尾をふりヴェルサスに叩きつける。
「遅い」
ヴェルサスはそれを屈んで避ける、そして最小限の動きで避けた事によりリルーシェに隙ができた。
「業火の連続矢」
ほぼゼロ距離で放たれる炎矢がリルーシェへ突き刺さろうとする。
「天成の大楯」
六芒星の大楯がそれをギリギリで防いだ。
それに合わせリルーシェは距離を保とうとするが、ヴェルサスはそれを許さない
「紅蓮の縛鎖」
リルーシェに鎖が絡みつく、その鎖は高熱を帯びており体からプスプスと煙が上がる。
「……ぐっ」
苦悶の表情を浮かべるリルーシェ、すぐさま脱出を試みる。
「拡散する光身」
光に包まれた身が拡散する、鎖は標的を見失い消え、その後に光が収束しリルーシェが再び姿を現した。
「ほう、やるな」
(……厄介ね)
リルーシェは内心慌てている。
複雑な魔法の為多様できない事、手の内を見せてしまった事、そして刻々と変身が終わる時間が迫っているからだ。
「もう終わりか?」
それに比べヴェルサスは余裕な表情を浮かべる。
所詮リルーシェの力は借り物、本物の真竜には勝てないのは自然の摂理だった。
「なぜそれ程の力があるのに誰かに従うの?」
リルーシェは自然と湧き出る疑問をぶつける。
「……まあ、強いて言えばアキラは面白い、それと契約を破れぬ強い誓約が結ばれているからな」
「……それ程の力をそのアキラという王は持っているの?」
「その通りだ」
(そんな……ならば何故この国を攻めるの!?)
それは聖皇国の慢心が招いたものだ、しっかりとした情報収集もせず、建国したばかりの国で資源が豊富にあるという名目だけで攻めただけだった。
だがそれは一部のものにしか知られてなく、多くのものは我が国の領土を取り返す大義名分があると説明されそれを信じている、リルーシェもその一人だった。
「さて、降参するか?」
「いえ、まだ最後の力を出してないわ」
「ほう、まだあるのか?」
「とっておきのがあるわ、そして一つお願いを聞いてほしいの」
「……何だ?」
「私が、この国が負けても、せめて子供達だけは酷い目に合わせないで」
リルーシェは不安気な表情を見せる。
自分達が侵略者だという事はわかっている、それでも尚懇願せざるを得なかった、例え自分がどうなろうとも。
「何だそんな事か」
「そんな事って!?」
属国になった国の扱いはどこも酷いものだ、弱肉強食のこの世界、それは世の常でありそんな事で済まされて良い話では無かった。
「少なくともアキラはそういう輩では無い」
「……信じて良いのね」
ヴェルサスは頷く。
「……ありがとう、【聖命の灯火】」
リルーシェは大きく口を開く、そして光の息吹が吹き荒れる。
それはまるでレーザーの様に収束しヴェルサスへと迫る。
「受けてたとう【灼熱崩壊地獄炎砲】」
同じ様にヴェルサスは口を開き、蒸発の息吹をそれにぶつける。
ぶつかり合った強大な力は世界を白い輝きに染めた。
白い輝きが収まり、そこにいたのはヴェルサスだった。
「……終わったか、だが死なすには惜しいな」
元の姿に戻ったリルーシェは意識を失い海面へ向けて落下している。
このままでは海面に叩きつけられ、良くて全身骨折してもそのまま溺れ死ぬだろう。
ヴェルサスは落ちゆくリルーシェの元へ飛んで行く。
その身をキャッチすると陸へと戻って行った。




