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156.デモンストレーション

「神樹国アクティースがラマダグェン法国と友好を結びたい理由は、率直に言うと戦争の抑止になるからです」


ヴィクセンの言葉に謁見の間は静まり返る。


「言いたい事はわかるわ、、貴国は建国したばかり始めが肝心だろう、戦争などしている暇は無いわね」


「はい、まだまだやる事がたくさんあります、それにそこまで人口も多くはありません」


「どれくらいの兵数が居るの?」


「6000人です」


「……少ないわね」


兵数を聞いたラマダグェン法国の貴族の中には鼻で笑う者も居た。

一般的な侯爵の私兵と同じくらいしか国の戦力が無い、そんな国が虎の威を借る狐をしにラマダグェン法国に来たのだ、いくらエルフが味方についたとはいえ弱小国家だと侮る。


エラリーエ女王の言葉は続く。


「他に友好を結んだ国はある?」


「ウォーガレフ王国と友好を結びました」


ーぷっ、はっはっはっ!!ー


ウォーガレフ王国と聞いて多くの貴族が笑う。

あんな落ち目な国と友好を結ぶとはバカなのか、それともそんな国しか友好を結んでくれなかったのかと思ったからだ。

そんな貴族をエラリーエ女王は嗜めようとはしなかった。


「何故ウォーガレフ王国なの?あそこは既に虫の息だったはずでは?」


「鉱山開発の為、開発者が必要だったからです」


「神樹国アクティースには鉱山があるのか……」


(わざわざ友好を結ばずに侵略した方が早いのでは?……)


エラリーエ女王の感想は最もだ、それはその場にいる貴族全員も同じ事を考えている。

戦う上で1番の厄介はエルフ、次にジェイドの存在だ、だが圧倒的な数はそれを飲み込む事ができる、神樹国アクティースを滅ぼすなら2万の兵数がいれば充分だろう。

それにラマダグェン法国にもジール、リオルマ、ミネルヴァなど他にも突出した力を持つ者が居る、それらが合わせればエルフもジェイドも塵芥だ。


(……まあそう思った事は口には出さないけどね)


さすがにこの場でそれを言う程エラリーエ女王も愚かではない、相手にも身内にも品行方正を疑われる、たが芽吹いてしまった感情は心の内で徐々に育って行くだろう。



「友好を結ぶ上で我が国の見返りを聞かせて」


エラリーエ女王は本題に入る、これで拍子抜けの見返りなら即刻会談を終わりにする腹積りだ。

アキラもこれ以上醜態を晒すの嫌だろうという、エラリーエ女王なりの優しさだった。



「わかりました、先ずはこれを」


そう言うとヴィクセンは鞄から本を取り出す、そしてエラリーエ女王に渡す。


「これは何かしら?」


「これは教科書です」


「教科書?」


エラリーエ女王は本を持ったまま首を傾げた。


「ラマダグェン法国は学びの国、ならば我々エルフが魔法を指導する事で更に優秀な者が増えるでしょう、どうぞ中を拝見してください」


ヴィクセンに促されエラリーエ女王はページを捲る、そこにはあらゆる魔法の知識が分かりやすく書かれていた。

ヴィクセンが書いた本は正に知識の宝箱、長命なエルフが長い長い時間をかけて培ってきた知恵がそこにある。


ページを捲る事にエラリーエ女王の顔が真剣なものになる。


「……ジール」


「はい」


名前を呼ばれ宮廷魔術師団の団長ジールが前に出る。


「これを読んでみて」


ジールは本を受け取るとページを捲る、暫くしてエラリーエ女王が問いかける。


「本を読んだ感想を聞かせて」


「……正直に言うと、ヤバいですねこれ」


「ふふふ、相変わらずねジールは」


エラリーエ女王は感想になってない事に呆れながらも笑う。


「具体的に教えて」


「俺でも知らない事が多く書かれている、おそらくミネルヴァ婆さんも知らないんじゃないか?」


ジールの言葉に謁見の間、特に宮廷魔術師団は騒めき始めた。


「婆さん、これ読んでみろ」


ジールはヒョイっとミネルヴァに向かって本を投げた。


「ふぇふぇふぇ、相変わらずガサツだね、もっと物を大切にしなさい」


本をキャッチしたミネルヴァはページを捲る、少しして本をエラリーエ女王に返した。


「この本の内容を学べば魔術の発展が飛躍的に伸びるだろうね」


ー何ということだー


ーそんな事教えていいのか?ー


ー友好を結んでも裏切るとは思わないのか?ー


ミネルヴァの言葉に貴族達はボソボソと話し合いを始め出した。

エルフの知恵を教えては自国の強みが1つ減る、普通ならその知識を独占するからだ、貴族達のこの反応は無理もない。



「んじゃ、次は俺から」


皆が騒ついてるのを尻目にアキラが前に出る。

まだあるのかと皆の注目が集まった。



「まだあるのかしら?」


「あぁ、とっておきのやつがあるよ」


アキラは悪戯めいた顔をする、その顔を見たエラリーエ女王の好奇心は頂点に達していた。


「先ずはデモンストレーションから、んー、そこの人前に来て」


アキラに指を刺され、宮廷騎士団に所属する隻眼の兵士が前に出てくる。


「その目はいつ頃から?」


「これはまだ騎士団に入団したての頃に魔物との戦いで負った傷です」


「そうなんだ、それ治してもいい?」


ーえ?ー


ラマダグェン法国側の全員がキョトンとしている。


「治してもいい?」


「あ、はい」


我に帰った兵は頷いた。


「ライム、来い」


魔法陣からライムが飛び出して来る。


「はーい!あるじどうしたのー?」


ー!!!!!!!!ー


スライムが喋っている事に皆驚愕し声が出なかった。


「この人を治してやってくれ」


「わかったー!」


ライムは【回復魔法/パーフェクトヒール】を発動した。

隻眼の兵士の目がみるみる癒え、そして片目の光が戻る。

兵士はプルプルと震えていた。


「み、見える!!目が見える!!」


謁見の間は静まり返った、あのミネルヴァですら驚愕の顔を隠せないでいた。

正にそれは神の未技とでも言うのだろうか、ここまでの治癒能力はエリクサーに匹敵する、そのエリクサーは失われた技術であり誰も作れないしこの世界にはもう存在していない。


兵士は嬉々として定位置に戻って行く。


「……そのスライムは何かしら?」


誰もが聞きたい事を真っ先にエラリーエ女王はアキラに問う。


「ライムは俺の従者、ジョブスキル【天帝】の力さ」


「アキラ王はジョブスキル持ちなのね……ちなみにそのスライムの力は一回きりかしら?」


「ん?そんな事ないよ、ライムあとどれくらい使えそう?」


「んー、たくさん!!」


「ははは、たくさんだそうだ」


エラリーエ女王は戦慄している。

それはラマダグェン法国側全員が同じだった、これでは兵の数など関係なくなる、たちまち瀕死の状態でも皆完治してしまうのだから。


「そ、そうなのね……」


目眩がしてきたエラリーエはそれ以上の言葉を言えなかった。

アキラはライムを異空の楽園へ戻す。


「んじゃあもう1人紹介するよ」


「ま、まだいるの!?」


「え?従者は合計で7体いるよ」


「…………」


「ムゲン、来い」


「御意」


顔が強張っているエラリーエ女王を尻目にアキラはムゲンを呼ぶ、先程と同じ様に魔法陣からムゲンが現れた。

唐突なアンデットの出現に皆構えてしまう、ムゲンからひしひしと伝わって来る強さに皆生唾を飲み込んだ。


「んー、ムゲン何かできる?」


「では我の技を1つお見せしましょう」


ムゲンは【弐天無幻流/天衣無縫】の構えをした。

黒いオーラが阿修羅の形になるとムゲンは剣舞を披露した、その華麗な刀捌きを只々皆黙って見守る。

剣舞が終わるとアキラは「ありがとう」と言って異空の楽園へ戻した。


「私から1つ、アキラ様に仕える魔物は皆最上位の魔物です」


追い討ちをかけるかの様にヴィクセンが言う。

それを聞いたエラリーエ女王の額から冷や汗が出てくる。


(最上位の魔物7体を従えていると言うの……)


エラリーエ女王は思考を巡らす、先程まで侵略できるのでは?と思っていた自分が恥ずかしかった。


「もしラマダグェン法国が戦争になった場合、俺の従者が援軍に来るよ」


「だ、だけど神樹国アクティースからラマダグェン法国まで結構な距離があるわよ?」


「それは大丈夫、皆バルコニーに集まって」


アキラに促されるとぞろぞろと皆バルコニーに移動した。

そしてアキラは最後の仕上げに出た。


「ヴェルサス、来い」


空に巨大な魔法陣が現れるとそこからヴェルサスが翼を広げ飛び立った。

ヴェルサスが城の周りを旋回した後にアキラは異空の城へと戻した。


「ははは……」


エラリーエ女王から乾いた笑い声が聞こえてきた。


「ヴェルサスはただの竜じゃないよ、炎真竜だからね」


アキラはそう言うとニカっと笑う。


「ふぇふぇふぇ、こりゃたまげたわい」


ミネルヴァは過去1の笑い声を上げていた。

それに釣られて皆笑い始める、ーいや、もう笑うしかなかった。


「これでデモンストレーションは終了だ、で、返答はいかに?」


「……それを聞く?もちろん友好を結ぶに決まってるわ」


エラリーエ女王は微笑みながら即決した。




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