154.商談と口づけ
客室へと案内されたアキラとヴィクセンは、ヴィンセントとアイリスの対面に座る。
秘書が飲み物を用意した後一礼し後ろに控える、そのタイミングを見計らいヴィンセントは話を切り出した。
「さて、初めましてアキラさん、話は娘から聞いています、先ずは娘の危機を助けてくれて本当にありがとうございました」
ヴィンセントはそう言うと深々と頭を下げた。
アルフィリオ女学園で起きたアンデット事件の事を指して居る様だ、アキラは「お気になさらず」と言いヴィンセントの頭を上げさせた。
「ははは、心の広いお方だ、自己紹介をしていませんでしたね、私はこのラフトリカ海洋貿易商会の会長を務めるヴィンセントと申します」
ヴィンセントは柔らかな笑顔を浮かべた。
「これはご丁寧に、俺は神樹国アクティースの王、アキラだ」
「私は神樹国アクティースで内務長官を務めさていただいているヴィクセンと申します」
「「……………」」
アキラとヴィクセンを見ながら、ヴィンセントとアイリスは目を見開いて固まっている。
「アキラさん?今何と?」
聞き間違いだと思ったアイリスは再度アキラに問う。
「ん?神樹国アクティースの王、アキラだ」
「えぇーーーーー!!」
アイリスは驚きの声を上げた。
「アキラさんが王様!?」
「あぁ、いろいろあってな」
ーガタンッー
唐突にヴィンセントは立ち上がる。
「申し訳ございません!!王族とは知らずに!!」
ヴィンセントはアキラへとフランクに接していた自分を戒める。
アキラはそんなヴィンセントに苦笑いを浮かべる。
「ははは、お気になさらず」
そう言うとアキラはヴィンセントを再び座らせる。
そして本題に入る事にした。
「アイリスと話す前に、先にラフトリカ海洋貿易商会への相談を終わらせたい」
「相談とは?」
ヴィンセントはアキラの言葉に疑問を浮かべる。
その疑問にヴィクセンが答える。
「神樹国アクティースで港の建設を予定しております、ラフトリカ海洋貿易商会には建設に当たるアドバイスと、建設後の海洋流通をお願いしたい」
その内容を聞いたヴィンセントの顔つきは途端に商人のものになる。
「ほう、詳細をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
ヴィクセンは地形、海産物、海域の特徴を説明する、ヴィンセントは話が進むにつれ目を輝かせている様だった、明らかに金の匂いが漂うから仕方がない。
「マタタビ商会は陸路、ラフトリカ海洋貿易商会には海路と分担するのがいいかもな」
アキラの言葉にヴィンセントはピクっと反応した。
「……アキラ様、今マタタビ商会と仰いましたか?」
「ん?あぁ、マタタビ商会には世話になってる」
(急激な成長を遂げているマタタビ商会が、まさかアクティースに関係していたとは……)
今やマタタビ商会は飛ぶ鳥を落とす勢いで拡大している、その原因はまず商品の質が高い事だ、アクティースで栽培された作物は栄養価が高くサイズも大きい、鉱石も高品質、おまけにS級ダンジョンに潜らなければ得られない貴重な魔物の素材も売られ始めていた。
(その内大商会になるのは確定か……)
大商会になれば影響力が大きくなる、それは経済のコントロールを意味する、気に入らない商会があればそれこそ潰す事もできる為、大商会は商人の最終形態とも言える。
(これは何がなんでも利権に入り込まなければ)
マタタビ商会の急激な成長の裏には、神樹国アクティースの力があると確信したヴィンセントは言葉を慎重に選ぶ。
「その話を何故この商会に?」
「んー、強いて言うならアイリスがいるから、かな」
「え?私?」
アイリスは自分の名前が出てきてキョトンとしている。
「アイリスはとても良い子だ、そんなアイリスを育てた商会の会長もきっと良い人なのかなと思った」
その安直な理由にその場の全員が固まる。
「……相変わらずですねアキラ様は」
ヴィンセントは笑みを浮かべながら呆れていた。
「ははは、アキラ様は人を見る目が優れていますな!」
「……アキラさん、恥ずかしいです」
アイリスは頬を赤く染め、ヴィンセントは娘を褒められて上機嫌だ。
(この方はどこか引き付けられる……)
ヴィンセントはアキラから何かを感じ取る、それは自分の父親の様に人を呼び寄せる何かだ、ラフトリカ海洋貿易商会はそんなヴィンセントの父親が一代で築き上げた商会だった。
「……わかりました、ラフトリカ海洋貿易商会が担いましょう、それにあたって先ずは港を作る場所を拝見したいのですが」
これは商会を更に発展させる好機だと思ったヴィンセントは、迷う事なく決断した。
「エラリーエ女王との会談が終わりましたら私達はアクティースへと戻ります、なのでその時にヴィンセントさんもご同行してはいかがですか?」
「わかりました、それまでに準備を済ませておきます」
ヴィクセンの提案にヴィンセントは頷いた。
「さて、話も終わりましたし後はアキラ様とアイリスの時間ですな」
ヴィンセントはそう言うと立ち上がる。
ヴィンセントは「良い酒が有るから一緒に飲まないか」とヴィクセンを誘いそそくさと部屋を退室した、秘書もその後を追う。
アイリスの今までの反応からして、娘の想い人はアキラだと見抜いていたからだ。
残されたアキラとアイリスは見つめ合う。
「……やっぱ怒ってる?」
連絡しなかった事に悪びれているアキラは気まずそうに聞く。
「……もういいんです、こうして会えたんだから」
アイリスは目に涙を浮かべる。
「でも、一つだけ言いたい事があります、耳を貸してください」
アキラは何だ?と思いながらも顔を近づける、そして……。
ーチュー
「!!」
アイリスはアキラの顔を掴み唇を奪った、アキラは予期せぬ出来事に困惑している。
そして口づけが数十秒間も続く。
ーガチャー
「お初にお目にかかります、ヴィンセントの妻の……」
そこにアイリスの母マーガレットと長女セルフィが部屋に入って来た。
2人はまだヴィンセントとアキラが商談中だと思っていたのだろう。
慌ててアイリスは唇を離し距離を取る。
「あらあらあらあら、アイリスったら大胆ね」
「もしかしてアイリスがずっと好きだった人ってその人?」
マーガレットとセルフィは照れているアイリスを茶化す。
まさか見られるとは思わなかったアイリスはひたすら黙秘を貫いていた。
まだアイリスの唇の感触が鮮明に残るアキラは、只々遠くをボーッと眺めていた。
「アキラさん、責任とってくださいね」
「妹の胸はマシュマロみたいに柔らかいですよ、揉みしだいてやってください」
アキラが王だと知らないマーガレットとセルフィは軽口を叩く。
少ししてヴィンセントとヴィクセンが戻り、アキラが王だと知った2人は平謝りするのであった。




