番外編
<4>の完結編との同時投稿。マージス殿下がシュトーリナに告げる言葉。そしてダミーダコリャ国のその後のお話です。
イケテ=ルジャン国で開かれた「聖人様お披露目会」に外国からの賓客として来ていたマージス殿下は、会場でシュトーリナを見つけ歓喜した。
「シュトーリナ!見つけた!やっと見つけた!!」
「あら、マージス殿下、いらしてたのですか?」
喜んだマージス殿下は、シュトーリナを誰もいない廊下に引っ張り出した。
「良かったよ、ずっと探してたのだ。どこに行ってもニアミスで会えなくてさ、ほんっとに探したのだよ。こんな所で悪いのだが、どうか今度こそ婚約解消の書類にサインをしてくれ」
そう言って、常に持ち歩いていた書類を差し出した。
「殿下ったら、書類を送って下されば良かったのですよ。まあ、そういうおバカな所が嫌いではありませんでしたわ。全く好きでもありませんでしたが。うふふ」
「うっ、また可愛く笑う…」
「さ、サイン致しましたわ。これで本当に婚約解消ですわね。さっさとお帰りになって。アンジェリカ様がお待ちになってますよ」
「うん、ありがとう」
書類を丸めてケースに入れると、ためらいがちにマージス殿下が言う。
「あの…ひとつだけ、私が心配することではないかもしれないが、その、お前は今幸せなのか…?」
思いがけないマージス殿下の問いかけにシュトーリナは驚いた。
そこへ慌てて走ってくる靴音が響く。シュトーリナが見知らぬ男に会場の外に連れて行かれたと聞いたビショップが駆けつけて来たのだ。
「貴様!私の大切な女性に何をしているっ!!」
そう叫んでマージス殿下に掴みかかり、そして思い切り殴った。
「ふぐぅおっ!!」
ビショップの重い一発をまともに受けたマージス殿下は宙を舞った。2メートル、いや3~4メートルくらい?いや、その間くらい…かな?ま、とにかく結構飛んだ。
ドサッ!
「大丈夫か?リナちゃん!」
「まあ、ビー君ったら…!大丈夫よ、あれはマージス殿下ですわ。たった今サインをして、書類上でも婚約解消が整いましたのよ」
「そうだったのか!知らなかったとはいえ俺はなんということを…」
いいのよ、助けに来て下さってうれしいわ。しかし、俺は他国の王太子を殴ってしまった。いいのよ、全然大丈夫よ。そうなのか?ええ、いいのよ。…そんな会話をしていると、マージス殿下の意識が戻ったようだ。
「ううう…」
マージス殿下は起き上がりフラフラと戻ってくる。意外と頑丈にできているようだ。
「ほらね、あの方は大丈夫なの。打たれ強いのよ」
しかし…と、ビー君、いや、ビショップは殿下に傅く。
「マージス殿下、大変失礼を致しました。見るからに頭の悪そうな怪しい輩に我が愛しのシュトーリナ嬢が連れ出されたと聞き、何としてもそやつを潰してギタギタにして彼女を救わねばと…」
「ううう…痛い。だが、気持ちはわからぬでもない。私も愛しい人がいるからね。だが痛い」
「お許しくださいませ、殿下。この方は私が初めて恋をした方。この世の誰よりも愛しく大切な殿方ですの。ご覧くださいませ、この美しい光り輝く季節の若葉のような瞳と、私があ~んをするとぱくっと開くセクシーなのに可愛らしいお口…そして」
「わかった。わかったからもういいよ」
マージス殿下はクラクラしながらも言う。
「…良かったよ。実はずっと気になっていたのだ。長年シュトーリナが受けていた苦しみも知らずにいた私が、真実の愛を見つけたとはいえ、自分だけが幸せになって良いのかとどこかで思っていた。
だから何としてもサインを貰うまではと思ってしまったのだ。だが、こうしてサインも貰えたし、お前…いや、貴女の幸せも知ることが出来た。これで胸を張って国に戻りアンジェリカと結婚出来るよ」
そして、満足そうな笑顔で「だが痛い」と言い、「聖人様のウー・ドンを食べて治して来る」とヨロヨロと会場に戻っていった。
マージス殿下、色んな所が残念だが、しかしやはり性格は良い男だった。
殿下が会場に戻ると、一杯食べる毎に2歳若返るという噂のせいで、全てのウー・ドンは食べつくされていた。そして、つやつや健康そうな賓客が満足そうに歓談をしワルツを踊っていた。
がっくりしていると、シュトーリナから事情を聞いた聖人サヌキが壇上から下りて来て、手ずからマージス殿下に癒しを施して下さった。
身も心も元気になったマージス殿下は、シュトーリナの父ハウゼン侯爵をみつけてルンルンとスキップで近付き、父王からの伝言を伝える。
「ハウゼンよ、父上がハウゼン侯爵家に帰国を求めている。こちらの国で功績を上げて伯爵位を賜るらしいと聞いてはいるが、我が国でもそのまま籍も領地も残っているのだ。帰って来てくれまいか?」
「殿下、勿体なきお言葉でございます。…そうですな、陛下が何かしら面白い事を言って下されば、帰国も吝かではございません」
「面白い事か…、わかった。父上にギャグのセンスを磨くように言っておこう」
「楽しみにしておりますぞ!」
そして役目を果たしたマージス殿下は帰国し、1年後にアンジェリカと結婚をした。
ダミーダコリャ国王は、王妃と一緒に頑張ってギャグの練習をしたそうだ。筋は悪いが真面目に取り組み、ネタ帳は常に身に付けて何かを思いつくとすぐにメモをしている。そして「なんでやねん」の素振りも毎日300回は欠かさない。
しかし、マージス殿下の結婚の儀に出席したハウゼン侯爵に、「楽しみにしていたのに陛下ったら面白くなってない。だめだこりゃ」と言われてしまう。
だが、侯爵はダミーダコリャ国にも魔導列車を走らせる為に働くと約束をする。
喜んだダミーダコリャ国王は、それからも王妃に支えられながら、毎朝「なんでやねん」の素振りを続けているらしい。
やがてこの国では「面白い」という事が価値があるとされるようになり、挨拶代わりにギャグが飛ぶ程に笑いの文化が発展していった。
マージス殿下が国王となり、その何代目かの子孫の代になる頃、国の名前はダ・フンダーと変わる。そして笑いの国として栄えて行ったのだという。
めでたしめでたし