『怒り』
白い4本の腕で髪の毛は生えてない。
大きな耳あたりまで裂けた口で吉田を食った。
吉田は痙攣しながら制服を鮮血で染める。
ボタボタと血液が地面を叩く。
「吉……田……?」
吉田は……痙攣が止まり、力なくバケモノの口にぶら下がっていた。
その下には大きな血溜まりが出来ていた。
「吉田ぁー!!」
俺は叫んだが、返事は返ってこない。
吉田が食われた。
4本腕のバケモノは頭を食いちぎった後、吉田の頭をゴミのように吐き捨て、俺の方に首なしの遺体を投げつけた。
首無しの吉田の遺体。
震える手でその手を握った。
まだ温かかった。
『模写はね、観察するのが大事なんだよ』
いつも傍らで熱心に絵を教えてくれた。
思い出の吉田はいつも笑顔だった。
――その吉田が死んだ。
「よ、吉田……」
俺は涙を堪える事が出来なかった。
大粒の涙が吉田の冷たくなっていく手に落ちた。
俺はこの子が本当に好きだったんだとこの時はっきり思った。
もうこの想いを伝える事ができない――
――それがとてつもなく悲しかった。
4本腕のバケモノはその様子を見てゲラゲラ笑っている。
「……笑うな……」
俺は吉田の命を笑われてる気がして、バケモノに対して恐怖は薄れ怒りが込み上げてきた。
バケモノは血に染った大口を開け、俺を指さして笑っている。
「笑うなぁぁーー!!」
俺はその時、何かがキレる音がした。
(殺してやる!)
明確な殺意だった。
俺は気づけば涙も拭かずバケモノに向かって走っていた。
そして、生まれて初めて顔に思いっきり拳を叩き込んだ。
ドカァ!!
バケモノの歯が飛び散り、骨を砕き、俺の右拳は擦り切れて血を吹き出した。
バケモノは後ろに吹き飛び近くの窓ガラスを割り、4本の腕は力なくダラリと落ちた。
「はぁ……はぁ……!」
トドメを刺そうと近づいた次の瞬間、バケモノの腕が突然動き、俺の頭を掴んで地面に叩きつけられた。
「ぐぁ!」
廊下の地面に何度も叩きつけられ額が割れる。
俺はあっという間に血塗れになった。
(ふざけるな、殺してやる!)
痛みは不思議と感じなかった。代わりに目眩はしたが、俺は掴まれてるバケモノの腕を怒りのまま掴み返し
「うおおおお!!」
背負い投げで投げ飛ばした。
バケモノは受け身も取れず地面に叩きつけられたが、4本腕と足を動かし天井に張り付いた。
「逃げてんじゃねぇ!」
そう叫んだが、バケモノはそのまま廊下を縦横無尽に動き回り逃げ出した。
俺はバケモノを追って走った。
バケモノは白い翼を広げ飛び立とうとする瞬間、一度こちらを振り向いた。
俺は気づけば天井まで飛び上がり、バケモノに拳を振り抜いた。
「死ねぇ!!」
グシャァ!!
俺の拳は顔面を捉えたまま地面に叩きつけバケモノの頭を叩き潰した。
バケモノはまだピクピクと動いていた。
(吉田……!吉田……!)
俺は頭の中で吉田を思い出しながら何度も拳を振り下ろした。
そして、ピクリとも動かなくなった頃。
俺も殴るのを止めた。
「はぁ……はぁ……」
肩で息をしながら吉田の遺体がある美術室まで血塗れの右手で失意のままフラフラと歩き出した。
血に濡れた上履きで地面が滑ったが、吉田を再び抱きしめたかった。
――例え、死んでいても……




