第四十一話「お土産話」
第四十一話「お土産話」
翌日。
あっという間に旅行も終わり、
今日からいつもの日常に戻る。
小雪は福來炒飯の黒いエプロン。
渚は林鶏排のエプロンを身につけ、
それぞれの店で働いていた。
鍋を振る音。
油のはねる音。
夜市を歩く人たちの声。
山梨や北海道の静かな夜とは、
まるで違う。
けれど小雪には、
この賑やかさもどこか懐かしく感じられた。
大将が炒飯を皿に盛りながら、
小雪に聞いた。
「小雪ちゃん」
「はい」
「旅行、楽しかったか?」
小雪は少しだけ笑った。
「はい」
「とっても」
大将は満足そうに頷いた。
「そうか」
「良かったな」
隣の店から、
海太が顔を出す。
「大将」
「先に話聞いちゃ駄目だよ」
「あとで一平さんも来るんだから」
大将は頭をかいた。
「そうだったな」
「悪かった」
海太が豪快に笑う。
大将もつられて笑った。
その日の夜。
閉店時間が近づいた福來炒飯と林鶏排。
最後の客を見送った頃、
夜市の通りに一平が現れた。
両腕には、
大きな段ボール箱を抱えている。
海太がすぐに気づいた。
「お!」
「一平さん、いらっしゃい!」
小雪が顔を上げる。
「お父さん」
大将も美鈴も、
一平に挨拶をした。
「どうも」
「こんばんは」
海太が手を叩く。
「よし!」
「そろそろ店を閉めようか!」
福來炒飯のいつものテーブルに、
出来たての炒飯と大鶏排が並んだ。
大将。
海太。
美鈴。
一平。
小雪と渚。
全員が席につく。
海太が箸を持ちながら言った。
「それじゃあ」
「食べながら、土産話でも聞こうか!」
渚が待ってましたとばかりに身を乗り出す。
「やっと話せる!」
「もう、すごかったんだから!」
渚は、
旅の出来事を次々と話し始めた。
山梨でのお墓参り。
農園で食べた桃。
生まれて初めて見た富士山。
祭りの夜。
北海道の広い畑。
よし江のシチューと豚丼。
そして、
愛犬のリュウ。
話すたびに、
渚の表情が大きく変わる。
小雪は隣で、
時々言葉を足した。
翔のことには、
二人とも触れなかった。
大将は何度も頷いた。
「そうか、そうか」
「楽しかったなら良かったな!」
渚は笑顔で言う。
「今度は、冬の北海道に行くんだー!」
美鈴の眉が上がる。
「あんたねえ」
「お金はどうするの?」
渚は胸を張った。
「バイト頑張るもん!」
美鈴はすぐに返す。
「次は、小雪ちゃんのお父さんに借りちゃ駄目だからね!」
渚の動きが止まった。
「えっ」
「当たり前でしょ!」
「ちゃんと自分で貯めなさい!」
「はーい……」
海太が笑う。
「まあ、目標があるのは良いことじゃねえか!」
「お父さんは甘い!」
美鈴が言うと、
また食卓に笑いが起きた。
旅の話を聞くたびに、
みんなの顔に笑みが広がっていく。
一平は、
その様子を静かに見ていた。
やがて、
一平が立ち上がる。
「それでは」
「皆さんに、お土産を」
店の隅に置いていた段ボール箱を、
テーブルの横まで運ぶ。
箱を開けた瞬間、
渚と美鈴が声を上げた。
「うわー!」
「すごーい!」
中に入っていたのは、
山梨から届いた桃と葡萄。
北海道からは、
じゃがいも。
にんじん。
とうきび。
どれも、
小雪の祖父母たちが丹精込めて育てたものだった。
大将が、
大きなじゃがいもを手に取る。
「立派だなあ」
海太もとうきびを覗き込む。
「こりゃ、うまそうだ!」
小雪は桃を手に取った。
「私、桃剥きます」
美鈴が嬉しそうに声を上げる。
「やだ、嬉しい!」
小雪が桃の皮を剥く。
甘い香りが、
広がっていった。
切り分けられた桃と葡萄が、
皿に並べられる。
渚は、思い出したように言った。
「そうだ!」
「山梨でね、桃の台湾風かき氷を作ったんだよ!」
美鈴が目を丸くする。
「台湾風?」
「桃をいっぱいのせて」
「練乳もかけて」
「ふわふわの氷にしたの!」
「へえ、いいじゃない!」
渚は得意そうに続ける。
「農園でも出してくれるんだって!」
小雪が桃を皿に並べながら言った。
「昨日、おばあちゃんから連絡が来たよ」
渚が振り返る。
「何て?」
「すごく人気だって」
一瞬の間。
渚の顔がぱっと明るくなった。
「マジ!?」
「やったー!」
両手を上げて喜ぶ渚を見て、
みんなが笑った。
旅行は終わった。
けれど、
旅先で生まれたものは、
終わっていなかった。
桃のかき氷は山梨に残り。
北海道の野菜は、
台湾県の食卓に並ぶ。
離れた場所が、
少しずつつながっていく。
小雪は、
賑やかなテーブルを見渡した。
大将の笑い声。
海太と美鈴の言い合い。
渚の明るい声。
そして、
黙って桃を食べている一平。
旅に出る前と、
同じような日常。
でも、
少しだけ違って見えた。
小雪は桃を一切れ口に運ぶ。
甘い味が広がった。
「美味しい」
渚が隣で笑う。
「私も食べよ!」
こうして、
小雪と渚の旅行報告会は終わった。
そしてまた、
台湾県でのいつもの日々が始まった。




