表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも台湾が日本だったら〜小雪と渚、二人の少女の物語〜  作者: Taky.Bates


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/41

第十話「悲しみの果て」

第十話「悲しみの果て」


夜市の喧騒の中。


海太は大きな鶏排を油へ放り込む。


ジュワァァァ……


熱い油の音が夜市へ響いた。


林鶏排は今日も忙しかった。


その時。


海太はふと隣を見る。


『福来炒飯』


隣の屋台は、

今日も灯りが消えたままだった。


鉄板も冷たく、埃を被っている。


椅子も片付けられたまま。


少し前まで、

夜市でも人気の屋台だった。


「ちょっと大将んとこ行ってくるわ」


海太が油を切りながら言う。


「いってらっしゃーい!」


美鈴と渚の声を背中で聞きながら、

海太は夜市を抜けた。


少し歩いた先。


古いアパートの前で立ち止まる。


大将は、

夜市のすぐ近くに住んでいた。


海太は扉を軽く叩く。


「大将いるかーい」


返事はない。


その代わり。


中から、

小さくテレビの音が聞こえていた。


鍵は開いている。


「大将ー、入るぞー」


海太はゆっくり扉を開けた。


部屋は薄暗かった。


テーブルには、

食べかけの弁当。


酒の空缶。


洗っていない皿。


以前は綺麗好きだった男とは思えない。


「……随分散らかしてんなぁ」


奥の畳には、

髭だらけの男が横になっていた。


痩せたな。


少し前まで、

夜市で一番大きな声を出していた男とは思えなかった。


海太は近づく。


「大将」


肩を軽く叩く。


男がゆっくり目を開けた。


「……おぉ」


掠れた声だった。


「海ちゃんか」


「大将、

こんな生活してたらダメじゃねぇか」


大将は小さく笑う。


力のない笑いだった。


「……もういいんだよ、俺は」


テレビの光が、

ぼんやり顔を照らしていた。


「母ちゃんも死んで、

子供たちは本土で立派にやってる」


少し間が空く。


「俺は余生を好きに過ごすよ」


海太は黙って部屋を見回した。


酒。


ゴミ。


止まったままの生活。


全部、

この数ヶ月で変わってしまった。


「そんなこと言うなよ、大将」


海太は近くの椅子へ座る。


「みんな、

大将の炒飯待ってんだからさ」


「……うるせぇんだよ」


大将は顔を背けた。


「ほっといてくれ」


しばらく沈黙が落ちる。


窓の外から、

夜市の賑やかな声だけが聞こえていた。


やがて。


海太がぽつりと聞く。


「……本当は屋台やりたいんだろ?」


大将の手が少し止まる。


「……」


「やりたいって言ったって」


掠れた声が返る。


「一人じゃ出来ねぇだろ」


海太は少し笑った。


「大将、アルバイト雇わねぇか?」


「……あ?」


「渚の友達でな、

最近本土から引っ越してきたばっかの子がいるんだ」


海太は小雪の顔を思い浮かべる。


「静かだけど、

とってもいい子なんだ」


大将は黙る。


テレビの音だけが流れていた。


「……アルバイトねぇ」


少しだけ、

考えるように目を閉じる。


そして。


「一晩、

考えさせてくれ」


海太はゆっくり立ち上がった。


「わかった」


扉へ向かいながら言う。


「明日また来るから」


そして。


散らかった部屋を見回した。


「部屋片付けてな」


「……」


「あと、酒も飲みすぎんなよ」


数秒沈黙。


そのあと。


「うるせぇ」


大将が小さく呟く。


「とっとと帰れ」


海太は少し笑った。


そして静かに扉を閉める。


部屋の静けさとは対照的に、

街はまだ賑やかだった。


挿絵(By みてみん)

リアクションやコメントをいただけると励みになります!

応援宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ