第一話「東京から来た子」
はじめまして。
先日、沖縄と立て続けに台湾へ旅行へ行きました。
恥ずかしながら、台湾へ行ったのはまだ二度目です。
沖縄と台湾は飛行機でたった一時間ほどの距離なのに、
街並みや空気、人々の感覚、食文化、信仰――
日本とはまるで違う文化がそこにはあり、
とても不思議な気持ちになりました。
旅行中、ふと、
「もし台湾が日本の一県だったら、
どんな日常になっていたのだろう」
そう考えたことが、この作品を書くきっかけです。
この作品に政治的な意図は一切ありません。
ただ、
日本人である自分が見た台湾、
感じた台湾、
そして「もしも」を通して見えてくる
人と文化の距離感を書いてみたいと思いました。
もちろん、
私は台湾について詳しい人間ではありません。
むしろ、
知らないことの方が圧倒的に多いです。
そのため、
台湾の方々や、
文化・歴史に詳しい方から見れば、
至らない描写も多々あると思います。
もしかすると、
不快に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
それでも、
できる限り台湾文化を学び、
敬意を持って書いていきたいと思っています。
もし間違いや、
「実際の台湾ではこうだよ」
というものがあれば、
ぜひ教えていただけると嬉しいです。
いただいた助言も、
今後の作品へ反映していけたらと思っています。
この物語は、
「もしも」の世界を通して、
台湾という場所の魅力や空気を感じてもらえる作品にしたいと思っています。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
第一話「東京から来た子」
1945年4月。
政府は、台湾地域の統治体制を「台湾県」として再編し、日本の一県へ編入することを正式に発表した――。
四月の台北は、もう夏の匂いがした。
冬城小雪は、制服の袖を軽く引っ張る。
暑い。
東京なら、まだ春物の上着を着ている頃だ。
まして祖父母のいる北海道なら、まだ雪が残っているかもしれない。
なのに、ここでは蝉みたいな声の虫が鳴いていた。
生暖かい風が頬を撫でる。
台湾県立台北第一高校。
入学式の看板の横には、日本語と繁体字が並んでいた。
それを見るたびに、小雪は少し不思議な気持ちになる。
同じ日本。
でも、本土とは少し違う場所。
教室の窓は全開だった。
小雪は自分の席に座りながら、そっと教室を見回した。
黒板に貼られた座席表。
陳 美咲。
黄 千夏。
李 真琴。
名字は台湾なのに、名前は本土でも普通に見るものばかりだ。
まだ慣れない。
「じゃあ、ホームルーム始めるぞー」
担任の声で、教室のざわめきが少し静かになる。
「まずは自己紹介な」
前の席から順番に、生徒たちが立ち上がっていく。
「中山中学から来ました、陳美咲です」
「野球部入りたいです、呉遥です」
普通の高校の、普通の自己紹介。
なのに小雪には、その全部が少し新鮮だった。
「次、冬城」
名前を呼ばれる。
小雪は立ち上がった。
少しだけ視線が集まる。
「……冬城小雪です」
一呼吸置いてから続けた。
「この春に、東京から台湾県へ引っ越してきました」
その瞬間。
教室がざわついた。
「え、東京?」
「本土じゃん」
「すご」
小さな声があちこちから聞こえる。
小雪が少し戸惑っていると。
隣の席から、勢いよく机が近づいてきた。
「東京!?」
「えっ」
小雪は思わず肩を跳ねさせる。
黒髪を後ろでまとめた女子が、机に身を乗り出すみたいに顔を近づけていた。
日に焼けた肌。
大きな目。
距離が近い。
「渋谷っていっつもたくさん人がいるの!?」
「芸能人会ったことある!?」
「東京にも雪積もるの!?」
その子は目を輝かせた。
「えっ、じゃあ原宿も行くの!?」
「めっちゃ長いチーズのホットドッグ食べた!?」
「あ、いや……そんな頻繁には……」
「いいなぁ〜〜……」
本気で羨ましそうだった。
「林渚ー、お前うるさいぞー」
担任が苦笑混じりに言う。
「えへへ」
怒られているのに、渚は全然気にした様子がない。
そしてまた、小雪へ顔を向ける。
「よろしくね、東京の人」
窓から、生暖かい風が吹き込む。
小雪はまだ知らない。
この南の島みたいな場所で過ごす高校生活が、自分の世界を少しずつ変えていくことを。
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