歯車の迷宮、内部に眠る「秒」の墓場
艦首が砕いた外壁の向こう側。そこは、空の上とは思えないほど巨大な**「時計の内部」**だった。
天井も見えないほど高い空間を、直径数百メートルはある黄金の歯車が噛み合い、絶え間なく重低音を響かせて回っている。
「……っ、何よこれ。魔力の密度が異常だわ。吸い込むだけで、自分の時間が狂いそう……」
エレインが顔をしかめ、自身の「一九〇〇年」の数字を保護するように結界を張る。
だが、リィネの端末が映し出した解析結果は、さらに残酷な真実を告げていた。
「……みんな、足元を見て。この床……ただの金属じゃないわ」
リィネが指し示した透明な床の向こう側。
そこには、無数の「小さな砂時計」が敷き詰められていた。その一つ一つに、**【佐藤 太郎:残り三〇年】や【アリス:残り六時間】**といった、地上に生きる人間たちの名前と正確な寿命が刻まれている。
「これ、全部……地上の人たちの命なの……?」
フィオナが震える手で床に触れる。
神々が管理しているのは「概念」ではない。一人一人の「生きた時間」を物理的な資源として、この巨大な歯車を回す潤滑油にしていたのだ。
「……ふざけてるな。誰かの必死に生きてる一秒が、こんな機械のパーツ扱いかよ」
シュウの銀龍の右腕が、怒りに呼応して黒い雷を放つ。
その時、頭上の巨大な歯車の一つが逆回転を始め、一人の男が静かに降り立ってきた。
【個体名:第二執行者】
【余命:一〇〇〇〇〇年(蓄積された略奪時間)】
「……不法侵入者を確認。……管理外の『無限』を、直ちにこの歯車へ供給せよ。貴様の存在は、この美しき秩序に対する冒涜である」
タイム・キーパーが指を鳴らすと、周囲の歯車から無数の「秒針の剣」が突き出し、五人を包囲した。
「……秩序、ね。他人の命を勝手に奪って作る平和なんて、俺が全部ぶっ壊してやるよ」
シュウは一歩踏み出し、床の砂時計を傷つけないよう、最小限の動きで銀の爪を閃かせた。
「無限」対「十万年」。
数字の概念が崩壊した迷宮で、命の尊厳を取り戻すための戦いが始まる。




