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『残り寿命、あと1分。〜君と明日を生きるため、俺は世界の寿命を喰らう〜』  作者: ヒデまる


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12/27

魂の混濁(リンク)、翡翠の夢の中で

里の最奥、精霊が宿るという『琥珀の泉』。

 中心に据えられた祭壇の上で、俺とエレインは向かい合って座っていた。

「……いい、シュウ。これから私の魔力をあなたの右腕に流し込み、暴走する寿命を『中和』するわ。でも、失敗すれば……私たちの時間は、二人まとめて霧散する」

 エレインの声は震えていたが、その翡翠の瞳に迷いはなかった。

 彼女は俺の黄金の鱗に覆われた右手を、自身の両手で包み込むように握りしめる。

 ドクン、と心臓が跳ねた。

「——【琥珀のアンバー・ティアーズ】、起動!」

 祭壇から溢れ出した黄金の光が、二人を包み込む。

 次の瞬間、俺の意識は現実から切り離され、果てしない「時間の海」へと放り出された。

「……あ、あぁ……っ! なによ、これ……っ!」

 隣でエレインが短い悲鳴を上げる。

 視界が白濁し、俺の脳内に、俺のものではない記憶が流れ込んできた。

 それは、エレインが歩んできた千九百年の孤独。

 エルフという長寿ゆえに、多くの「短い命」を見送ってきた彼女の、凍てついた心の深淵。

(……怖い。誰かを好きになっても、私だけが取り残される。だから、誰にも心を開かない。寿命なんて、ただの呪いだわ……)

 彼女の心の声が、ダイレクトに俺の魂を揺らす。

 同時に、俺の中にある「魔物喰い」の飢餓感が、彼女の清らかな時間を求めて疼き出した。

「エレイン……! 離せ! 俺に飲まれるぞ!」

「嫌よ……! 離さない! あなたを、一人で怪物になんてさせない……っ!」

 精神の世界(精神域)で、エレインが俺の胸に飛び込んできた。

 彼女の細い腕が俺の背中に回される。

 その瞬間、俺の右腕の『龍化』が、彼女の魔力によって白銀の光へと浄化されていく。

 二人の寿命が、一つの螺旋となって混ざり合う。

 一二五〇年と、一九〇〇年。そして喰らった三万年。

 それらが複雑に編み上げられ、シュウの右腕は、龍の禍々しさを保ちつつも、人間の肌の温かみを取り戻していった。

「……はぁ、はぁ……っ」

 光が収まり、現実の泉に戻ったとき。

 エレインは俺の腕の中で、ぐったりと力なく身体を預けていた。

 彼女の耳は、今までで一番深く、林檎のように真っ赤に染まっている。

「……見たわね、私の……恥ずかしいところ……」

「……ああ。お前も、俺の『飢え』を見ただろ」

 お互いの「余命の深淵」を覗き合った二人の間には、もはや言葉による説明など不要な、絶対的な絆が生まれていた。

 ふと、自分の頭上を見上げる。

 そこには、これまでとは違う、静謐な青い数字が浮かんでいた。

【余命:三六一〇〇年】

【状態:翡翠の契約ハーフ・リンク

「……シュウ、これでもう……あなたは私から逃げられないわよ。私の寿命の一部が、あなたの右腕に溶け込んでいるんだから……」

 ツンデレエルフの執着が、ついに「呪い」を「愛」へと変えた瞬間だった。

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