魂の混濁(リンク)、翡翠の夢の中で
里の最奥、精霊が宿るという『琥珀の泉』。
中心に据えられた祭壇の上で、俺とエレインは向かい合って座っていた。
「……いい、シュウ。これから私の魔力をあなたの右腕に流し込み、暴走する寿命を『中和』するわ。でも、失敗すれば……私たちの時間は、二人まとめて霧散する」
エレインの声は震えていたが、その翡翠の瞳に迷いはなかった。
彼女は俺の黄金の鱗に覆われた右手を、自身の両手で包み込むように握りしめる。
ドクン、と心臓が跳ねた。
「——【琥珀の涙】、起動!」
祭壇から溢れ出した黄金の光が、二人を包み込む。
次の瞬間、俺の意識は現実から切り離され、果てしない「時間の海」へと放り出された。
「……あ、あぁ……っ! なによ、これ……っ!」
隣でエレインが短い悲鳴を上げる。
視界が白濁し、俺の脳内に、俺のものではない記憶が流れ込んできた。
それは、エレインが歩んできた千九百年の孤独。
エルフという長寿ゆえに、多くの「短い命」を見送ってきた彼女の、凍てついた心の深淵。
(……怖い。誰かを好きになっても、私だけが取り残される。だから、誰にも心を開かない。寿命なんて、ただの呪いだわ……)
彼女の心の声が、ダイレクトに俺の魂を揺らす。
同時に、俺の中にある「魔物喰い」の飢餓感が、彼女の清らかな時間を求めて疼き出した。
「エレイン……! 離せ! 俺に飲まれるぞ!」
「嫌よ……! 離さない! あなたを、一人で怪物になんてさせない……っ!」
精神の世界(精神域)で、エレインが俺の胸に飛び込んできた。
彼女の細い腕が俺の背中に回される。
その瞬間、俺の右腕の『龍化』が、彼女の魔力によって白銀の光へと浄化されていく。
二人の寿命が、一つの螺旋となって混ざり合う。
一二五〇年と、一九〇〇年。そして喰らった三万年。
それらが複雑に編み上げられ、シュウの右腕は、龍の禍々しさを保ちつつも、人間の肌の温かみを取り戻していった。
「……はぁ、はぁ……っ」
光が収まり、現実の泉に戻ったとき。
エレインは俺の腕の中で、ぐったりと力なく身体を預けていた。
彼女の耳は、今までで一番深く、林檎のように真っ赤に染まっている。
「……見たわね、私の……恥ずかしいところ……」
「……ああ。お前も、俺の『飢え』を見ただろ」
お互いの「余命の深淵」を覗き合った二人の間には、もはや言葉による説明など不要な、絶対的な絆が生まれていた。
ふと、自分の頭上を見上げる。
そこには、これまでとは違う、静謐な青い数字が浮かんでいた。
【余命:三六一〇〇年】
【状態:翡翠の契約】
「……シュウ、これでもう……あなたは私から逃げられないわよ。私の寿命の一部が、あなたの右腕に溶け込んでいるんだから……」
ツンデレエルフの執着が、ついに「呪い」を「愛」へと変えた瞬間だった。




