寿命の蒐集家(コレクター)、凍りついた銀世界
エルフの里を辞し、深い霧の境界線を超えた直後だった。
一歩踏み出した足元から、パキパキと不吉な音が響く。
「……何、これ? 森が……凍っているわ」
フィオナが息を呑む。
緑豊かだった樹海が、一瞬にして白銀の氷に閉ざされていた。それは季節の移ろいではない。周囲の生命から「時間(熱)」を強引に奪い去った結果生じる、死の絶対零度だ。
「くっ……! 誰だ、そこにいるのは!」
俺は右腕を構える。エレインの魔力と混ざり合い、銀の紋様が走るその腕は、冷気の中でも熱を失わない。
「素晴らしい……。三万年を超える神の寿命。そして、エルフの純潔な千九百年。それらが混ざり合い、最高の『ヴィンテージ』になっている」
氷の樹の陰から、一人の男が滑るように現れた。
白一色の軍服に身を包み、片目にはレンズ(モノクル)を嵌めている。
彼の背後には、巨大な**「氷の棺」**を背負った機械人形たちが控えていた。
【個体名:蒐集家】
【余命:九九九九年(固定・停滞)】
「……九九九九年? なんだよ、その不自然な数字は……」
リィネが震える声で解析結果を読み上げる。
「シュウ君、気をつけて! 彼は自分の時間を『凍結』させているわ。年を取らない代わりに、他者の『熱い時間』を奪って、自分のコレクションにする怪物よ!」
「正解だ、狐の小娘。……さあ、シュウ。君のその『三万年』を、私に譲りたまえ。永久に劣化しない氷の中で、君を世界で最も美しい標本にしてあげよう」
蒐集家が指を鳴らす。
瞬間、俺たちの周囲の地面から、無数の「氷の棘」が突き出した。
それは肉体を貫くためではない。触れた瞬間に**「十年の寿命を凍結」**させる、時間の牢獄だ。
「きゃあぁっ!」
ミーニャの尻尾が氷に触れ、一瞬で感覚を失う。
彼女の三五〇年の寿命が、物理的な氷ではなく「時間の氷」によって封印されていく。
「ミーニャ! ……エレイン、フィオナを守れ! リィネ、奴の『核』を見つけろ!」
「分かってるわよ!……でも、シュウ! あなたの右腕は、まだ馴染みきってない……!」
エレインが叫ぶが、俺に迷いはない。
三万年の重圧を、エレインの愛(呪い)で繋ぎ止めたこの腕なら、氷すら溶かせるはずだ。
「……標本になんて、柄じゃないんだよ」
俺は一歩踏み出し、あえて氷の棘を右腕で叩き壊した。
右腕から溢れ出すのは、漆黒の虚無と、翡翠の浄化の光。
「喰らえ……! 『銀龍の崩刻』!」
龍の爪が空間そのものを引き裂き、蒐集家の「凍りついた九九九九年」へ肉薄する。
奪われる側から、奪い尽くす側へ。
シュウの「食卓」は、ついに世界の理を揺るがす領域へと加速していく。




