48 休暇
夜通し行われた喧嘩祭りが幕を下ろした翌日、まだ日が昇りきらぬ早朝にオリオン達を乗せた馬車はキルオテ村を出発した。
見送りはケンゴウとジンハの二人だけだった。オリオンが喧嘩祭りを制した事でサイガ流の半数以上の戦士達が好意的な態度になったものの、再戦を求める者も後を絶たず放置すると出発が何日も先延ばしになる為、こうして人気の無い早朝に出発する事になったのだ。
幸いオリオンの怪我もパティとクラゲのお陰で旅立ちに支障ない程に回復していた。
「では、改めてハーベルの街に向けて出発しましょう」
「予定外の寄り道になったが収穫はあったな。サイガ流のご当主様は気前が良いぜ。レアな魔石に素材、金もたんまり支払ってくれたしな」
「オリオンにはだいぶ無理をさせたから、その礼でしょ。半分くらいはオリオンの取り分にしても文句は無いけど……」
「金に関しては均等に分けて構いませんよ。その代わり貰った素材を装備の強化に使いたいんですけど、いいですか?」
「オリオンがそれでいいなら、こっちも構わないわよ。ダンテと相談して使ってちょうだい」
仲間達の許可が下りるとオリオンとダンテは馬車の中であれこれ相談を始めた。
その後、馬車の旅は順調に進み昼過ぎにはサジッタ村の近くに到着した。
「そろそろサジッタ村が見えてくるけど、オリオンはどうする? 寄って行こうか」
「それじゃ村の入り口で降ろしてもらえますか? 家族に土産物を渡しに行きたいんで」
「わかったわ。それじゃ三、四日くらいは休暇にして集合場所はハーベルの冒険者ギルドにしましょうか」
「そんじゃウチもオリオンん家に遊びに行くのじゃ」
「ちょっと待った。パティは私と一緒にハーベルまで来てもらうわよ」
オリオンに付いて行こうとするパティをシャーリィが引き留めた。
「何でじゃ?」
「例の水に関する取り決めを話し合うのに当事者の貴方も参加して欲しいの。あんまりニーニャを引き留める訳にも行かないから休暇前にあらかた決めてしまいたいのよ」
「えぇ~。シャーリィが決めればいいじゃろ。ウチが必要か?」
「利益が絡む話だから本人が立ち会った方がいいの。と言う訳で、遊びに行くのは用事が済んだ後でね」
「ぬぅ」
パティが不満顔で唸っているとダンテがこれ見よがしにオリオンと肩を組みパティを煽る。
「そんじゃ俺は暇だからオリオンん家に遊びに行くか。あ~真面目に働いている奴を思いながら飲む酒はうめぇだろぅな」
「ぬううぅぅぅ」
「パティをおちょくるのは止めなさい。大人げない」
取っ組み合いの喧嘩になる前にシャーリィが一言注意してその場は収まった。
サジッタ村の入り口でオリオンとダンテを降ろすと馬車はハーベルの街を目指して出発した。
「さぁ~て、そんじゃ俺は村長ん家に顔を出しに行って来るわ」
「そうか、俺は実家に行くから何かあれば連絡してくれ」
「おう、じゃあな」
村の入り口でダンテと別れ、村人と挨拶を交わしながら歩いていると村の広場でセドリックとウルトの姿を見掛けた。
「ウルト、セドリックさん」
「ん? おぉ! オリオンじゃねぇか。久しぶりだな」
「あっ! お帰り、兄ちゃん」
「ただいま。二人が一緒なんて珍しいですね、何してたんですか?」
「ウルトが弓を覚えたいっつぅんでな。ちょいと教えてたのよ。なかなか筋が良いから数年もすれば立派な狩人に成れるぜ」
見ればウルトの手に小型の練習用の弓があった。昔、オリオンも使っていた物だ。
「そっか、ウルトも頑張っているんだな。そうだ、セドリックさんにザザティークの土産物があるんですよ」
「おぉ! ウルトから聞いてるぞ、仕事で行ってきたんだってな。俺も昔に行った事があるが賑やかな街だったろ」
「えぇ、とっても。ハーベルより賑やか過ぎてちょっと落ち着かない感じでしたけど」
「だっはっはっは! そうかそうか!」
オリオンが魔法鞄から取り出した土産物の高級酒を受け取り、セドリックは満面の笑みで持ち帰った。
「兄ちゃん兄ちゃん、俺にも土産あるよね!」
「あぁ、ちゃんとあるよ」
「やったぁ! 早く帰ろう!」
土産物が待ち遠しいウルトはオリオンの手を引き、家路を急いだ。
その日の夕食後、幾つかの土産物と初めて聞く遠方の街での話に幼い弟妹は大いに喜んだ。そして夜が更け就寝する頃、ふとオリオンはダンテの事を思い出した。
「そういやダンテの事、忘れてたな。騒ぎなんか起こしてなければいいけど」
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翌朝、早起きしたオリオンはダンテの様子が気になり村長宅へ足を運んだ。
まだ朝早い時間だというのに珍しくダンテが村長宅の庭先に立っていた。ぼんやりと遠くを眺めて黄昏ている。
「ずいぶんと早起きだな、ダンテ。元気無いけど、どうかしたか?」
「……あ~、オリオンか。実は昨日の夜によぉ、村長ん所の家族と酒盛りしながら手持ちの酒を賭けてトランプでゲームしたんだわ。そしたらよぉ……ルナの嬢ちゃんが強くてよぉ……ザザティークで手に入れた酒、全部持ってかれたんだよおぉぉぉ~」
「あ~なるほど。俺もカードでルナには勝った事ないんだよな、ご愁傷様」
「客から根こそぎ持っていくか、普通? 少しは接待プレイしてくれよぉ……」
どうやらダンテは大量の酒を失ったショックで眠れず徹夜したようだ。
その時、家の玄関が開き欠伸をしながらルナが出てきた。
「あっおはよう、オリオン」
「おはよう、ルナ。昨日はダンテが世話をかけたな」
「良いって良いって、お代は物で貰ってるからうちは損してないし」
「そっか……出来れば少しくらいは手加減してやってくれ」
「あれでも手加減してたんだけどね。でも、わかった。じゃあ次はもっと手加減してあげるね、ダンテさん」
「……ちきしょおおぉ~! 手加減なんざ入らねぇよ、次こそ勝ってやるからなぁ!」
「はいはい。それより、オリオン。ちょっと見てもらいたい物があるんだけど」
ストック切れにより、少し間が空きます




